Life is Fishing (第五章 鯛釣り⑫)

おおさと丸が次のポイントに向けて動き出す。船が動く時のエンジンの振動はやっぱり苦手だ。でも、船が海を疾走する風は好きだ。今日は曇りで気温が低いから、ちょっと寒いのが残念だけど。僕は襟元を合わせた。
「今村さん、鯛ってどうやって釣るんですか?」
ウッシーが唐突に聞いてきた。
「どう釣れば良いんだろう?僕が聞きたいくらいだよ。これからポイント移動しちゃうからあまり役に立たないかもしれないけど、釣れた人に直接聞いてみるのが良いと思うよ。」
僕は右舷前方の釣り人風の人に目を遣りながら応えた。
「そうですね、次のポイントで釣れた人に聞いてみましょうか。」
「あと、カサゴとか他の魚が釣れていても、鯛が釣れないならその釣り方とは違うやり方を試してみないといけないかもね。」
これは、半分は僕に言い聞かせている言葉だった。カサゴやフグは釣れているけど、鯛が釣れないのではその釣り方は良くない可能性がある。僕もカサゴとフグは釣れたから、もっと積極的に別の釣り方を試すのも良いかもしれない。次のポイントではいろいろ試してみよう。

暫くすると、船が減速して停止した。船長から釣り開始のアナウンスが流れる。
「よし、始めよう!」
僕は仕掛けを海に落として、ゆっくり大きめにシャクリを行った。ほんの数回、シャクって待っていると、「アタリ」が来る。僕は合わせを行い魚をヒットさせた。
ちょっと重たいけど、先ほど釣ったフグの引きに似ている。僕はそのままリールを巻き上げて、フグを釣り上げた。
「うーん、フグだったか。ちょっと残念。」
フグの針を外して桶に入れ、新しくエビをつけてから再度仕掛けを投下する。今度は底を取ってから50センチ巻き上げただけで「アタリ」があった。僕は「合わせ」てリールを巻き上げる。今度はずいぶん軽いな。カサゴかもしれない。魚を海面まで巻き寄せて、そのまま甲板まで上げた。
「今度はカサゴですね!」
顔だけこちらに向けて様子を見ていたウッシーが言った。
「そうだね、いろいろ試してみているんだけどなんか先にフグやカサゴが食いついてきちゃうな。」
僕は餌をつけて仕掛けを海に投げ入れた。仕掛けを落とし込みながら頭でシミュレーションしてみる。今のところ魚がヒットしているのは海底付近だな。海底付近から少し上、中間層より下目はまだ探れていない気がする。そこまでに食われちゃうからだ。じゃあ、底を取ってから最初の数回のシャクリまでを素早くやってみよう。僕は底を取ってから最初の数回のシャクリまでを素早く行い、海底付近から少し上のところで誘いをかけてみることにした。暫く誘ってみて中間層付近まできたら、自然に仕掛けを沈めて様子を見る。すると「アタリ」が来た。僕は素早く合わせて魚をヒットさせる。竿に伝わる魚は重い。ひょっとして鯛だろうか。海から引き抜いた魚はフグだった。
「うーん、フグは結構上まで追ってくるんだね。」
「そうなんですか?」
完全な独り言だったので、ウッシーの相槌に少しびっくりした。
「うん、釣り方変えて探る範囲を幅広にしているんだけど、結局カサゴやフグしかからないな。ウッシーがヒラメ釣った時はどの辺の棚を狙っていたの?」
「夢中でよく覚えていませんが、やっぱり底付近だった気がします。」
それはそうだ、ヒラメは海底に住んでいるんだから。ウッシーの話を聞く前に、自分でツッコミを入れていた。
棚の広さではないとすると、誘い方かな。僕はまた餌をつけて、仕掛けを海に沈める。すると、ウッシーが横で魚をヒットさせていた。船長がウッシーに近づいてくる。まさか、大物なのだろうか。
「今のうちに、釣った魚を捌いちゃいますねー!」
船長は小出刃包丁を持って、そう言いながらウッシーの桶に入っているカサゴを掴んだ。
なんだ、魚を絞めに来てくれたんだ。サービス良いなあ。それはさておき、ウッシーの竿に掛かった魚は何だろう。結構取り込むのに時間が掛かっている。まだ海面に魚の姿は見えない。船長がカサゴのエラを取りながら、
「鯛だねー、おめでとうー!」
と言った。僕にはまだ魚の姿が見えなかったけど、本当に鯛なのだろうか。海面まで引き寄せられた魚は、赤かった。
「あ、本当だ、鯛だよ!ウッシー、おめでとう!!」
僕はそう言いつつ、ウッシーに先を越されたことを妬んだ。
「ありがとうございます!今村さんのおかげですよ。」
鯛は小さめだったので、そのまま竿を持ち上げて甲板に上げられた。ピンクがかった赤い魚体、目の上のコバルトブルーのアイシャドウ。まさしく鯛だ。
「尻尾の先の方が黒いから、真鯛だね。おめでとう!」
船長が言った。
「黒くないヤツは真鯛じゃないんですか?」
ウッシーが船長に質問した。
「うん、黒くないのはチダイと言うんだ。昔は両方ごっちゃにして売られたりしていたんだけど。どっちも美味しいから釣り上げた魚としてなら、あんまり関係ないよ。」
船長が包丁で真鯛の魚体を指しながら応えた。その説明を聞きながら、僕も鯛を釣り上げたいと強く思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?