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失恋記録_211216

・誕生日の次の日、恋人に別れを切り出された。1週間前に「話がしたい」とメッセージを受信した時から何となく覚悟はしていたものの、やはり直接会って事実を聞くと覚悟の何倍もショックで悲しかった。何も言葉が出てこず、私が外の世界に情報を伝える術は涙しかなかった。

・彼とはマッチングアプリで出会った。彼との共通点は好きなインターネットサイトだった。最初こそ登録してある彼の愛くるしい笑顔にやられてメッセージをやり取りしていたが、アプリでは初めから馴れ馴れしくしてくる男性が多い中で、彼は年上にも関わらず一切敬語を崩さなかったのが好印象だった。私が何となくアプリを開いてなくて返信をしなかった日があると、追いメッセージをしてくる所も可愛いなと思った。

・1ヶ月ほどメッセージを交わしたあと、リアルに会う約束をした。会った彼は物腰柔らかで、丁寧で(それに加えてとても顔が整っていて)素敵な人だと一気に心奪われた。初対面で食事をして数時間ずっと話が盛り上がることに驚いた。互いの根本的な共通点は、倫理観のタガが外れている事だった。破滅願望があること、爆発が好きなこと、巨大なエネルギーが好きなこと。周囲からの共感が得られにくい分、嬉しくなったことを覚えている。

・初めて会ったその日は家に帰ってから、舞踏会から帰ってきたシンデレラのようだった。ああ、恋ってこんなにときめくんだ、と柄にもないことを数年振りに思った。彼からも同じような内容のメッセージが届き、この時点では両片思いではあるがとても幸せな気持ちになった。

・冬のはじまりに私たちは恋人同士となった。彼の仕事が不定期休みのため会う頻度は多くなかったが、やり取りするメッセージの端々に愛を感じられて、毎日の活力となっていた。

・彼は少し不器用なところがあった。仕事が立て込んでいる時や精神面が参っている時はメッセージの返信がぱたりとなくなる。事前に理由をちゃんと説明してくれたので返信がない期間は何か大変なのねと察していた。彼とここに行きたいこれを共有したいと、返信がない間に私のブラウザにはブックマークが増えていく一方だった。

・返信が1週間ない時も彼を嫌いになったことはなかった。もちろん寂しくなることも心配になることもあったけれど、それが原因で別れたいと思ったことはない。推しの感覚に近いかもしれないが、それくらい彼の人格が、彼の存在が大好きだった。

・先般、彼の親族が亡くなった。彼が心底落ち込んでいるのがメッセージの文面と電話で感じ取れた。彼は故郷へ戻り、私は東京で生活をしていた最中「話がしたい」とメッセージが届いた。私の空いている時間の中から彼に日時を指定してもらった。その日は私の誕生日翌日だった。

・指定の日に喫茶店で彼と会った。(私が大寝坊をして1時間以上彼を待たせたことはこの先一生忘れないだろう)彼は私に誕生日プレゼントを渡した後、口を重く開き距離を置きたい、別れたいという旨を話した。プレゼントがあるということは良い話を期待したが、そんな希望は木っ端微塵になった。彼は私を傷つけないように極めて言葉を選んで思いを伝えてくれたが、どういう理由で別れたいのかは正直あまり覚えていない。ただ「好きかどうか分からなくなった」という言葉だけは異様に脳裏にこびりついている。

・彼の話を聞きながら、こんな話をするのにプレゼントを渡すなんてずるい人だなあとぼんやり考えていた。手元に物が残ると忘れようとしても忘れられないじゃないか。なんで今から別れようとする女に誕生日プレゼントなんて買ってくるかなあ。私のこと、好きじゃなくなったんだ。1年前に好きと言ってくれたのは何だったんだろうな。私は今でもあなたのことが大好きなのに。ずっと好きだったのは私だけだったんだ。馬鹿じゃん。

・ひとしきり彼が喋った後に私が何を言ったかもあまり覚えていない。いっぱい考えてくれてありがとう、すごく自慢の彼氏だった、みたいなことを涙ながらに言った気がする。可愛げのない女なので、別れたくないと駄々をこねることはなかった。自分が振る側だったら、別れたくないと土壇場で言われたら嫌だから。彼の中に残る私の記憶は少しでも良いものであって欲しい、という私なりの抵抗だ。

・別れ際はせめて笑顔でいようと、私以上にいい彼女見つけろよ!仕事も頑張って、応援してるから!と空元気で改札を通った。いつもの癖で改札内で振り返るも、私の姿が見えなくなるまで見送ってくれる彼はもういないった。

・彼と別れた帰路、コンビニで好きな冷凍食品とホットスナックと安いチューハイを買い、家で貪り食らった。YouTubeに気を紛らわせていたが、無心で食べることはやっぱり出来なくて、途中から子供のように泣きながら食べた。

・彼と1つ約束をした。私からは絶対に連絡をしないこと(勝手に私から宣言をしたのだけど)。夜中にいきなり連絡するドルチェアンドガッバーナの香水をつけている瑛太の元カノのように、振られた男に縋る惨めな女になりたくないから。連絡を絶って数日、私が通知センターを確認する癖は消えていない。何度確認したって彼からの連絡は2週間後も1ヶ月後も来ない。

・インターネットが無ければ出会わなかった私たちは、出会う前と同じ状態に戻った。ただ違うのは互いの存在が記憶に刻まれたことだ。私はその記憶がとてもあたたかくて、幸せで、素敵なものだから、しばらくは反芻しながら彼がいない生活を過ごすだろう。時間の経過で記憶が褪せていくのが惜しいくらいに、彼が存在した1年間はだいぶ色濃いものとなった。

・彼がくれたプレゼントは香水だった。フローラルな香りをベースに、ムスクが入った大人っぽい香り。私のお気に入りの香水はSHIROのホワイトリリーだからお花の香りを選んだのかと考えたら、また涙が溢れた。多分ホワイトリリーを使い終わったら、スタメンの香水に入るのだろう。使い終わったらまた同じ香水を自分で買いに行くかもしれない。

・彼は捨ててもいいと言ったけれど、私は彼からのプレゼントをすぐに捨てられる程この1年間の思い出たちにまだ踏ん切りがつけられていない。

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