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本気で驚くと口を開けても言葉が出てこないと知ったのは、時計の針が午前2時を回った頃だっ…
「確認ボタンを押して、すみやかにお帰りください」 「はい、おつかれさまでしたー」 やけ…
血が滲んでいる気がして、頬をぬぐった。 もちろん出血などしていない。グローブの甲のパ…
日曜日の昼下がり、あしあとを見つけた。コンビニへの道すがら、マンションの駐車場の前にひ…
いつの間にか風が乾いてきましたね。空が高い。うすくうすく引きのばされた雲を茜色に染めて…
空気の手ざわりが思いのほか軽くて、空を見上げました。昨日までの空に青いインクを3滴、レ…
どれだけスクロールしても杏奈を見つけられなくて、はじめて異変に気がついた。 あわてて陸とのチャットを開けてみる。ついさっきの「最近、連絡取った?」というメッセージの上にはニ年前の会話が残っているだけで、その間のやりとりが丸々抜けていた。アイコンをひとつずつ確認するけれど、残っているのはすべてニ年前までの会話。そこまできてようやく、アプリの引き継ぎを失敗したのだと理解した。 新しいスマホに引き継がれたのは、前回の機種変更時のデータなのだろう。あわてて検索してみた
暗闇をサイレンが切り裂いて、飛び起きた。夫を見るとやはり緊張の面持ちで、身体を起こして…
「パッパー、だっこ!」 橋のたもとで伸ばされたちいさな手は、やわらかく湿っている。娘を…
あれね、ちょっと昔のお友達の話してもいいです? 吹奏楽やってたんですけど、あの日はコン…
「そんな日もあるし、こんな日もあるのよ」 となりで空を見上げながら、母は言った。どこか…
「かつてない極上の旅をお約束します」 囁いたのは小さな女性スタッフで、それがホームペ…
デモ用帳票の動作確認を済ませたところで、PCの電源を落とした。大きく息をつく。あとは、…
楓のくるぶしは、ちいさく尖っている。 靴下からはみ出たそれはわたしをふやけさせるには充分で、きっとこの笑顔ははしたなく溶けているにちがいない。 プレゼントしたばかりのスニーカーに楓の足がおさまる。ネイビー✕白の巻き上げソールが、昨夜の名残りを健康的な彩りで上書きするのを見て、うれしいようなさみしいような気持ちになる。 行かなければいいのにと思いながら、楓の首に鼻をうずめる。ほんのり温まったヴァニラを吸いこんで、わたしは観念する。 いってらっしゃい。 洗い物は後