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2024年3月11日 波に乗った

<Prologue>
アーティストの三原聡一郎さんが、 福島県広野町にあるカルチュラル・プラットフォーム「縁側の家」に立ち寄った際に、集うサーファーたちに誘われて波に乗り、美味しいご飯と共に語り合ったことをきっかけとして2022年に始まった「3月11日に波に乗ろう」という企画に、今年2024年3月11日に参加しました。

私は、東日本大震災が発生した2011年3月11日、イギリスに留学中だったため、日本で震災は体験していません。当時、東北地方にも行ったことがなったので、東日本大震災に対する身体感覚がまったくありませんでした。13年の月日が経ったいま、福島に波に乗りに行きました。

福島の後、青森県青森市→岩手県盛岡市→釜石市→陸前高田市→宮城県仙台市をめぐるひとり旅のあいだに出合った、まとまりきれていない言葉の断片を書き残しておきます。


福島県広野町にて

すでに盛り上がっているみず色のダンスフロアを、浜辺から見つめる。ぐるんぐるんと腕回しをする威勢のいい風が、ダンスフロアにリズムよく白い泡を生み出し続けている。

フロアに近づくと、音がだんだんと大きくなった。ぼくはついに、白い泡とぼくの半透明な肌が触れるところまで海に近づいた。逃げ場はない。爆発する。ぼくの肌は一気にみず色のなかに溶けはじめる。海は白くなった。

波乗りダンサーたちは、空気いっぱいのふんわりとした白い泡を潰さないように、気をつけて踊り続ける。フロアで踊り慣れないぼくは、何度も泡とぶつかった。痛くはなかった。弾け、空中に散らばった泡の破片が、口に入る。甘くなく、塩辛かった。

ダンスフロアの中心から、縁側の家に移動する。

薄い白ワインが、透明なワイングラスの中で小さくうねる。

13回目となったその日、小さな町に鐘が鳴り響く。
その瞬間、風が吹き、自然に人の声は止んだ。

風が本をめくる。
白紙の2ページが続く。

風が新しいページをめくると、人々の会話が再開した。
空白のページに、触れることなく。
空白のページに、語りかけることなく。
風は、少しのあいだだけ、縁側の家に滞在した。

岩手県釜石市にて

口コミサイトに載っていた食事のコメントを見て、夕飯と朝飯ともにそのエリアでは一番美味しそうだったので、ある旅館に一泊した。そこには、あの時から、時刻を刻まなくなった巻時計があった。

旅館の店主は、県内の自動車会社で営業をしていたそうだが、震災を機に実家に帰ってきたという。

朝ご飯の後には、コーヒーを一杯注いでくれた。

帰り際、「小さな旅館の姑息な商法にお付き合いください」と口コミサイトでの書き込みをお願いされた。

もちろん、ご飯が美味しかったって、書いておくよ。

宮城県仙台市にて

美術や映像文化の活動拠点であるせんだいメディアテークにて開催されていた、「星空と路 ー3がつ11にちをわすれないためにー〈展示〉」を見に行った。

そこで出合った「その日の星空は残酷なほど美しかった」という詩が印象に残っている。

星は過去の爆発の光。
私たちはいつも、過去を見つめている。

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