おねえちゃんは一人

「ただいまー」

翔平は家の鍵を開けた。小学校に入ったばかりで、授業は昼過ぎに終わる。引率の先生達と下校したところだ。

玄関には姉のローファが揃えられていた。

「おねえちゃん?」

高校生の姉は、部活で両親より遅く帰宅する事が多かった。

「こっちよ」

姉の声と後ろ姿は奥の暗がりの方に消えていった。翔平はその後を追う。

「おやつ買ってあるの」

「ねえ、待ってよ」

追いついたら消え、気が付くと少し先に現れる。徐々に家の奥、日の差さない方へと進んでいく。だが、間違いない。毎朝何十分も手入れしてる肩まで伸びた黒髪、迷子にならないように繋いでくれる細い手、お風呂で洗ってもらう時のシャンプーの匂いだって馴染みのものだ。大好きな姉を見間違うはずは無い。姉は一人です。

「こっちこっち」

ついにキッチンの一番奥で追いついた。

姉の手とブラウスに広がる血の跡は、赤黒く時間が経っているようだ。

「おねえちゃん、ケガしたの!?」

姉は背中を向けるばかりで答えない。

「ねえ、おねえちゃん、おねえちゃんたら!」

翔平は姉の右手を掴んで揺する。
その時、玄関が開いて荷物を置く物音が聞こえた。顔だけそちらに向ける。

「ただいまー!翔ちゃん帰ってるの!?」

姉の声だ。遠慮のない足音が響いてくる。そういえば今日からテストで、早く帰ると言っていた。じゃあ、いま手を握ってる人は・・・

「翔ちゃん・・・」

がっしりと両肩を掴まれた。乱れた髪に隠れた顔は真っ暗な闇でうかがい知れない。姉は一人です。

「翔ちゃん!?」

返事のない弟を探して姉がやって来た。

「ちょっとあんた誰よ!」

「この子のお姉ちゃんよ」

「そんな訳ないでしょ!私が姉よ!」

こうして、姉の座を賭けた統一翔平検定大会の火蓋が切って落とされた。

「マチュピチュ!」

「チョコミント」

一歩も譲らぬ白熱のクイズ戦は引き分け。第二試合、翔平を旗に見立てビーチフラッグが始まる。勝負の行方は?謎姉の正体とは?

【続く】

本作品は♯逆噴射小説大賞2020 エントリー作品です。

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