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ローマ・イタリア史⑳ ~ルネサンス(1)~

十字軍に便乗した東方貿易の拡大は、北イタリアのヴェネチアやジェノヴァなどの都市共和国に空前の繁栄をもたらした。商業圏の拡大はヨーロッパ北部のフランドル地方まで及び、内陸部のフィレンツェなども巨額の富を得て急成長する。こうした経済面での繁栄を基盤として、北イタリア諸都市では市民文化が充実し、キリスト教一辺倒だった中世文化に風穴を空けるような新たな潮流が生まれた。イタリア=ルネサンスの始まりである。

ルネサンスとはフランス語で「再生」を意味する。神を中心とした中世キリスト教文化に対して、人間を中心に据えていた古代ギリシャ・ローマ文化への回帰を目指す動きである。14世紀には文芸面でのルネサンスが起こり、ラテン語ではなく日常の言葉で書かれたダンテの「神曲」、ルネサンス最初の人文主義者(ヒューマニスト)と呼ばれるペトラルカの「抒情詩集」、近代小説の端緒を開いたと評されるボッカチオの「デカメロン」などが次々と発表された。美術では、農民から建築職人を経て画家となったジョットを皮切りに、教会の権威を離れて世俗からの芸術家たちが台頭し始めた。そして15世紀、フィレンツェを中心としたイタリア=ルネサンスの全盛期が始まる。その背後には、銀行業で蓄えた富を通じて新たな学問・芸術の力強い庇護者(パトロン)となったメディチ家の存在があった。

メディチ家は金融で得た利益を毛織物や絹織物の事業に投資し、更なる利益の拡大を図った。いわば資本主義の嚆矢を担う存在だったわけだ。一方でメディチ銀行の最大の顧客はローマ教皇庁であり、そういう点では中世と近代の橋渡し的な立ち位置にいたと言える。ルネサンスはヨーロッパが中世から近代へと向かう大きなうねりの最初の波であったが、その庇護者自身が二つの時代をつなぐ象徴的な存在でもあったというのが興味深い。

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