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共に働く小麦畑の食堂 ファール ニエンテ

「自分の住んでいる地域のお気に入りスポット」というテーマで、宣伝会議の編集・ライター養成講座の課題として作成した記事です。御一読下さい。
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障害を持つ人も そうでない人も
共に汗を流す 爽やかな風が吹き抜ける小麦畑
自家製の小麦と野菜を使い 石窯で焼き上げた
おいしいパンやピザを 満ち足りた時間と共に

横浜の郊外、地下鉄下飯田駅前にある三角屋根の可愛いベーカリー&レストラン「ファール ニエンテ」は、敷地内に農園や温室を持ち、ゆったりとした雰囲気の中で食事が楽しめる人気スポットだ。レストランでは、マルゲリータやマリナーラなどの定番ピザから、自家製サルシッチャ(ハーブやスパイスを混ぜ込んだソーセージ)のピザや旬の野菜をふんだんに使ったオルトナーラに至るまで、穫れたての産地直結野菜と小麦を活かした彩り豊かなメニューを提供。ベーカリーでは、自家製の小麦を発酵させて石窯で丁寧に焼き上げたパンが、香ばしい匂いを立てている。

「ファール ニエンテ」は、障害を持つ人と共に生き、共に育つことを願う社会福祉法人「開く会」が経営する施設のひとつだ。陶芸・パン作り・農園芸などの部門を受け持つ「共働舎」、焼き菓子の製造・販売を受け持つ「はたらき本舗」、自家製のパンや花や陶器を販売する「カフェ&ベーカリー はなむら」など、さまざまなハンディキャップを持つ人々が地域とつながりながら共に働き育ちあう場を提供してきた。その志の高さもさることながら、何より素晴らしいのは、そうして作られたパンや焼き菓子や陶器や農作物や園芸品のクオリティの高さ、そして地道な日々の活動が地域の経済の中にしっかりと根を下ろし、持続可能な経営を実現していることなのだ。

「開く会」の設立は1990年、国連のSDGs採択の半世紀も前から、持続可能な共生社会への取り組みを続け、成功を収めてきたのである。「行列ができる福祉施設」の異名を持つ「ファール ニエンテ」をはじめとした「開く会」のカフェやショップ、ベーカリーやレストランは、障害のあるなしにかかわらず、生産と製造と販売と消費が、お互いに顔の見える距離で、穏やかに、無理なく回っていくローカルコミュニティの居心地の良さを体感させてくれる。

まずは木の温もりがにじむレストランの椅子にゆったりと腰を下ろして、焼き立てのピザを心ゆくまで味わってほしい。新鮮なサラダと自家製小麦のパスタも絶品。お酒が飲めるなら地ビールやワイン、ノンアル派ならハーブティーやコーヒーを片手に、優雅なランチを楽しみたい。お土産はベーカリーで、クルミ入りバターブレッドか香ばしいバケットがおすすめ。濃厚チーズブレッドも自慢の一品だ。

「ファール ニエンテ(Far niente)」とは、イタリア語で「何もしない」という意味。そこにただ存在するというだけで満ち足りる、優雅な時間を過ごすことを意味する「ドルチェ ファール ニエンテ」という慣用句もあるそうだ。よく晴れた休日には、何もしない贅沢を味わいながら、小麦畑を吹き抜ける爽やかな風とともに、「ファール ニエンテ」で満ち足りたひとときを――。


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