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連載日本史69 院政期の文化(2)

院政期の文化を彩るのは、華やかな絵巻物の流行である。宮廷生活を描写した源氏物語絵巻や年中行事絵巻、庶民の姿を活写した伴大納言絵巻や信貴山縁起絵巻、擬人化された動物によって社会を風刺した鳥獣戯画など、当時の生活や風俗を知る上での貴重な資料にもなっている。特に鳥獣戯画は「日本最古の漫画」と呼ばれ、蛙や兎や狐などの動物の姿を借りて、僧侶や民衆の振る舞いを風刺している。

鳥獣人物戯画(Wikipediaより)

絵巻物は一般の絵画と異なり、一度に全体を視野に収めることはできない。机の上に一場面を広げ、左から右へと巻き取りながら、新しい場面が次々と繰り広げられていくのを楽しむという趣向になっている。アニメーションの源流と言ってもいい。ヨーロッパなどでも聖書の物語を絵画化した作品があるが、そのほとんどが独立した画面の継ぎ足しである同時同図法で描かれているのに対し、日本の絵巻物は異時同図法と呼ばれる手法をとり、同一画面の中に複数の場面が描きこまれ、時間の経過と連続性が表現されているという違いがみられる。現在の日本における漫画やアニメの隆盛は、絵巻物から連なる文化的伝統に裏打ちされたものであるといえよう。

伴大納言絵巻・応天門の炎上(Wikipediaより)

厳島神社に奉納された平家納経や、扇形の料紙に写経と挿絵を施した扇面古写経など、いわゆる装飾経と呼ばれる美麗な経典も盛んに作られた。平家納経では、巻物の軸に施された水晶や金銀の細工、料紙に埋め込まれた砂子や切箔などの細かい装飾に、当時の工芸技術の水準の高さが示されている。

平家納経(摸本)(東京国立博物館HPより)

巧みなデフォルメやストーリー性に富んだアニメーション、繊細な装飾技術などは、現代においても日本の得意分野であると言える。絵巻物に描きこまれた物語の中には、「今昔物語集」などに収められた説話にも登場するキャラクターが見られるが、これも現代でいうところのアニメと小説のタイアップと同じである。読んでから見るか、見てから読むか。このキャッチコピーも、ひょっとしたら十二世紀には既に存在していたのかもしれない。




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