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連載日本史277 リーマン・ショック

2008年9月、米国の大手投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻した。米国発のリーマン・ショックは世界各国に波及し国際的な金融不安を招いた。グローバル経済の抱えるリスクが顕在化した事件であった。 

リーマン・ショック後の市場と出来事(www.asahi.comより)

リーマン・ブラザーズの破綻は、前年のサブプライム・ローンの焦げ付きによる多額の損失によるものである。地所得者向けの高金利住宅ローンを債権化し、他の証券と混ぜ合わせてリスクを薄め、多くの投資銀行が金融商品として世界中に売り出していたのが、2007年の住宅バブルの崩壊によって一気に不良債権化したのである。米国での金融不安によってドルが急落し、急激な円高によって日本の輸出産業が大きな打撃を受け、株価が一気に落ち込んだ。製造業では「派遣切り」と呼ばれる非正規社員の雇い止めが各企業で行われ、住み込みで働いていた工員たちは仕事と住居を一度に失うことになった。2008年末から2009年初頭にかけて、東京の日比谷公園に年越し派遣村が設けられ、NPOやボランティアによって、行き場を失った人々への緊急支援が行われた。

「派遣切り」と「解雇」の関係(haken-iroha.comより)

リーマン・ショックの影響はヨーロッパにも及んだ。特に巨額の財政赤字を抱えていたギリシャでは、2009年に「赤字隠し」が発覚し、EU全体を巻き込む騒ぎになった。イタリア・スペイン・ポルトガル・アイルランドでも経済危機が表面化し、EUの結束は大きく揺らいでゆく。1993年にマーストリヒト条約によって成立したEU(欧州連合)は、21世紀に入って更に加盟国を増やし、拡大の一途をたどってきたが、それが結果的に加盟国間の経済の不均衡による問題を顕在化させることになったのである。

ギリシャ危機以降のEU各国の貧困率の推移(jp.reuters.comより)

こうした問題が起こると反グローバリズムの声が強くなりがちである。確かに投資銀行やヘッジファンドのハイリスクな投機に世界中の経済が振り回されるのは大きな問題であるし、国際的な規制が必要だろう。しかしグローバリゼーションそのものは自然の成り行きと言ってもいい時代の推移であり、それ自体は善でも悪でもない。世界は確実に狭くなり、情報量と伝達のスピードは確実に速くなっているのだ。問題は、そこから短期的に巨額の利益を得ようとする人々の欲望に対して、十分な抑えが利いていない状況にある。リーマン・ショックの教訓は、ますますグローバル化する国際経済において欲望の暴走によるエゴイスティックな投機を抑制するための国際的な枠組みの必要性を強く示しているのだ。

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