ダニエル・カーネマンと麻雀

※この記事、もっと固い内容で詳細含め書いていたんですが、書いているうちに内容は固いし文章も固いし、結局誰が読むの?という感じになってしまうので、ラフに書き直しました。
意図的にかなり口語で、細かい部分はかなり端折って書いていきます(最後に参考図書があるので詳しく知りたい方はそちらをどうぞ)。できれば今日公開したかったので、多少書ききれない部分がありますが、そのまま公開します。

ダニエル・カーネマンという男

今から89年前の今日3月5日、ダニエル・カーネマンという男が生まれました。このカーネマンという男はめちゃくちゃ偉大な認知心理学者です。

心理学には、認知心理学以外にも臨床心理学、社会心理学、学習心理学、、のように無数の分野があります。カーネマンが専門とする認知心理学は、恐らく「心理学」という言葉が一般に持つイメージよりは、脳科学とか、認知科学とかの方がイメージが近いと思います。

カーネマンの研究のキーワードを一言で表すならば「人間の意思決定」です。意思決定というとちょっと麻雀っぽさもある気がしますね。

カーネマンの主な業績としては、

・プロスペクト理論(エイモス・トヴェルスキーとの共同研究)
・ヒューリスティックとバイアス
・ピークエンドの法則

などがあります。

中でもプロスペクト理論はめちゃくちゃすごい理論だったので、これによりカーネマンはノーベル経済学賞を受賞しました。

プロスペクト理論

プロスペクト理論は、後の認知心理学や他の学問にさえ影響を与えるすごい理論です。もともとは投資家の行動を心理的に分析するために作られた理論です。

この理論を説明するために、以下の2つの質問に答えてみてください。

問1, 以下の選択のうち、どちらかを選んでください。
A, 無条件で100万円手に入る。
B, コイントスで表が出れば200万円手に入るが、裏なら1円も手に入らない。

問2, あなたには200万円の負債があります。以下の選択のうち、どちらかを選んでください。
A, 無条件で100万円手に入る。
B, コイントスで表が出れば200万円手に入るが、裏なら1円も手に入らない。

この2つの質問は、どちらもAが堅実な選択で、Bがハイリスク・ハイリターンな選択と言えます。ただし、どちらを選んでも期待値は100万円で同じです。

なので、問1でAを選んだ堅実タイプの人は問2でもAを選ぶのが普通ですし、問1でBを選んだギャンブルタイプの人は問2でもBを選ぶのが普通です。

しかしこの質問は、ほとんどの人が問1ではAを選び、問2ではBを選ぶ、ということが実証されています。

期待値としては全く同じであっても、それが利益を確保するもの(問1)なのか、損失を回避するもの(問2)なのかで選択の傾向が変わってしまうのです。

このことから、人間は利益が出ているときにはそれを確保したがり、損失が出ているときには更にリスクを取ってでも損失を回避しようとする傾向があるといえます。

この損失回避性と呼ばれる人間の傾向をさらに分析することでプロスペクト理論が確立されました。

さて、プロスペクト理論には、特筆すべきポイントがいくつかありますが、たった一つのグラフでそれらを表すことができます。

そのグラフがこれ。

プロスペクト理論

中心(参照点)をもとに、横軸は実際の損得の量(一番分かりやすいのはお金ですが、麻雀でいうと段位ptなどもそれにあたるでしょう)を表し、縦軸は主観的な損得感情を表します。

このグラフからプロスペクト理論の主要なポイント3つが読み取れます。

1,同程度の損得であれば、損の感情の方が大きい

グラフを見ると、得した際の感情の傾きよりも、損した際の感情の傾きの方が急になっています。

損失回避性という言葉がありましたが、基本的には人間は得する喜びよりも損する悲しみの方が大きいのです。

突然1万円手に入れた喜びよりも、突然1万円失う悲しみの方が強い、というと想像しやすいかもしれません。

2,損得感情は参照点からの相対的な変化をもとにして生まれる

基本的に人間の損得感情は「参照点」からどのくらい損したか、得したかという基準で揺れ動きます。

グラフでは中心の点が参照点にあたります。

具体的にどういうことかと言うと、
例えばある月曜日に雀魂で段位ptが1000ptあったとします。
一日の対局の結果800ptまで所持ptが下がったとします。
ここで参照点を月曜日の開始時点とすると-200ptとなります。
この時点でプレイヤーは200pt分の損した感覚を持ちます。

さて次の日の火曜日には勝って900ptになりました。
この900ptは月曜日の朝を参照点とするなら-100ptですが、火曜日の朝を参照点とするなら+100ptです。

この参照点は、主観なのである程度は任意に取れますが、大抵の人は一日単位だったり意味のある期間単位(月ごとに目標立てているなら月単位など)だったりします。

恐らく大抵の人は火曜日の朝を参照点としているため、900ptの時点では100pt得した感覚を持っていると思います。
意図的に一週間ごとのpt推移に注目しているなどであれば-100ptの損した感覚があるかもしれません。

参照点からの変化で損得感情が生まれるということは、言い換えるなら最初に持っているptは損得感情にはあまり関係ありません。
今いくらあろうとも、そこからどう変化するかによって損得感情が生まれるということです。

3,損得感情は参照点から離れるほど小さくなる

グラフを見ると、損得どちらの感覚も参照点から離れるにつれ傾きが緩やかになります。
例えば、1万円を得したときの気持ちと、2万円を得したときの気持ちにはそれなりに大きい差がありますが、101万円を得したときの気持ちと、102万円を得したときの気持ちにはほとんど差がないということです。
どちらも1万と2万、101万と102万と、事実としての価値は1万円という同じ単位の差のはずなのに、参照点(現在)から遠くなればなるほど、その感情の差は小さくなります。

以上がプロスペクト理論の主要なポイントです。

実際の損得と人間の損得感情にズレが生じていたり、参照点がころころ変わってしまったりなど、およそ人間は損得が生まれる経済行動の意思決定が下手なのではないか?と思われる研究結果が一つの理論として提示されました。

行動経済学

カーネマンは認知心理学での業績だけにとどまらず、新たに「行動経済学」という学問の(ざっくりいうと)始祖になりました。
行動経済学は、それまでの経済学と心理学を合体させたような学問です。

それまでの経済学は、「人間は経済的合理人である」という前提で理論が組み立てられていました。
経済的合理人というのは、自分の利益を合理的に計算しそれを追求していく人、という意味です。
つまりは人類皆合理的な経済活動を行う、という前提で各経済理論が組み立てられていました。

勿論現実は違います。
経済合理的でない人も沢山いるというのは経済学者の視点でも明らかだったのですが、それでも全体の理論を組み立てる上では誤差にすぎない、という前提がありました。

というのも当時の経済学は、人類の経済の活動をいかにモデル化するか、という数学的・抽象的なアプローチが主だったため、多少誤差があっても全体の理論を優先する、という考えがメインでした(※これは当時の経済学がおかしいとか劣っているという話ではありません。単純に心理学とは目的や方向性が異なる、という話)。

しかし、カーネマンらのような心理学者がプロスペクト理論をはじめとする研究の中で「人間って経済合理的な行動全然できてなくない?」「これって流石に『誤差』では済まないんじゃない?」という疑問を提示していく中で、経済学と心理学を組み合わせて考え直す必要があるのではないかという流れが起こりました(厳密には、既にそういった研究していた人はいたが主流とは言えなかった)。

このあたりは色々な出来事があったようなのですが、カーネマンがもともと大学で数学を副専攻としていて数理的な経済学にも興味があったことや、近い研究分野の弟子たちがいたこと、経済学者側にも心理学に協力的な人がいたことなどが重なり、それまでの経済学に加え、人間は経済合理的でないという前提をもとに経済を考える「行動経済学」という学問が出来上がります。

麻雀においての行動経済学

投資やビジネス界隈において「行動経済学」という言葉を見たことがある人がいるかもしれません。
「経済的な意思決定」という分野ですから、一番使われるのはビジネス分野です。ただ、経済というのはお金に限らず、何らかのポイントや本人が価値があると思っている資産も含まれます。

ということは、段位ptを使ってリスク・リターンを考えながら戦う麻雀にも適用しやすいはずです。
麻雀は不確実性の中での意思決定の連続です。
実際に認知心理学や行動経済学にはかなり麻雀にそのまま適用しやすそうな法則・効果が多数あります。

今回紹介しきれませんでしたが、バイアスに関しては人間が咄嗟に確率に関する判断を正しく行うのがいかに困難か(後知恵効果→結果論、ギャンブラーの誤謬→流れ、確証バイアス・アンカリング→勝手読み等)という法則が沢山あります。

プロスペクト理論をもとに考えても、人間が損失回避性の強い生き物だとするならば、麻雀においてもラス回避に偏りやいのではないか?
あるいはその日に負けてptを失いすぎている場合とptブラスである場合の参照点によってはリスクの取り方が変わるのではないか?
というか、そもそもただでさえ利益より損失の方が悲しい気持ちになるのに、4着に多大なpt損失を被らせるラス回避のルールはメンタルに残酷すぎるのではないか?
等という考察もすることができます。

ちなみに、カーネマンの研究結果の一つに、人間はある期間単位で損失を取り返しきれる可能性がある場合は頑張るが、その可能性がないと分かった瞬間に頑張らなくなる、というものがあります。
1度ラスを引いたときのpt損失が今日寝るまでの間に取り返せるなら打つけど、取り返せないなら打たない、みたいな経験、みなさんにもあるのではないでしょうか。

さてこんな感じで、ざっくりでしたが心理学(特に認知心理学)や行動経済学には麻雀のメンタル面に参考になりそうなものがたくさんあるので、ぜひ興味のある方は調べてみてください!

参考図書
・ダニエル・カーネマン心理と経済を語る
・ファスト&スロー(上)
・ファスト&スロー(下)












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