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ウェディングケーキ

食べきることで〈地上との結婚〉を果たすというケーキを、目前にしていた。

クリームたっぷりにデコレーションされた豪華なケーキ。
3号ほどのサイズだが、ずっしりと重い。

一口口にするが、クリームは甘みも薄く、ひたすら重く、とても食べすすめられない。

しかし、食べなくてはならない。

ふと気まぐれに、皿を回す。
そうすると、円形であるケーキは、角形に削れ、正面から見ると菱形になっている。
(ひな祭りの菱餅のようだな)と思う。
(回して形が変わるなんて、万華鏡みたい)とも思う。

(風車みたいだな)とも思う。
その瞬間、(そうか、風が入ったんだ)と気づく。

皿を回していると、ケーキは、遠心力で異次元へ飛ばされるのか、少しずつ小さくなっていく。
(風が入ると、こんなに軽くなるのか)と思いながら見つめる。
しかし、ケーキがなくなることはない。

一口大になった最後の一欠を、意を決して口にする。
やはり、消化不良を起こしそうなほど重い。

しかし、地上との結婚は果たしたようだった。

はたと気づくと、わたし自身が、純白ではあるが、装飾を絢爛に施されたウェディングケーキなのだった。
天からの祝福なのであろうが、重いものは重かった。
みずから望んだ、というよりは、運命や使命の類の転生だった。
どうせなら、ウェディングブーケになりたかった。

いかに軽く、美味であり、特別な一口となるか。
(かの、幸福な王子のように、惜しみなく)
此世での課題は、明確だった。

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