ICT弁護士奮闘記4 そのコピー、高額につき


前回、書籍を電子化する話をしたが、そのことと対極にあるのが、刑事事件のコピーの話である。
刑事事件で、起訴されて公判になった後、検察官は弁護人に対して、請求予定の証拠についてあらかじめ開示をしなければならないものとされている。この開示の方法としては、検察庁まで見に行ってもいいのだが、やっぱり持ち帰ってじっくり検討したいので、コピーすることが一般的である。
しかし、このコピーを自分でやろうとすると、やっぱり検察庁まで出向いて事件記録の貸出を受け、大抵は検察庁内にあるコピー機を使って1枚ずつコピーをしなければならない。果てしない作業であり、もはや拷問である。
このため、多くの弁護士は、「謄写人」という、簡単に言うとコピー代行業者に依頼をすることになる。しかし、このコピー屋がとにかく割高なのである。地域にもよるのだが、1枚40円だとか、ひどいところでは1枚80円というぼっ○くり価格のところすら存在するのである。
刑事事件は、例えば覚醒剤の自己使用時件で全く事実関係を争っていないような場合であればともかく、否認事件や共犯事件などの複雑なものであれば、500頁を超えることなどザラである。しかも、最近は、通話記録とか、LINEのメッセージの履歴が証拠として請求されることが多いから、さらに記録は膨大になる。そんなものに、1枚40円も払わないといけないのである。1杯5,000円のドリンク料金を請求する夜のお店と何が違うのだろう。
筆者が一番悲しかったのは、ある下着泥棒の事件で、犯人が盗んだ下着の量が半端ない数であり、警察がその一枚一枚をご丁寧に並べて裏表の写真を撮っていたので、高いコピー代を払ってひたすらパンツの裏表の写真が開示されてきたときであった。このときほど、下着泥棒の撲滅を願ったことはない。コピーする人もさぞかし心が折れたことだろう。
しかも、国選弁護の事件の場合、コピー代は全額支給されるとは限らない。場合によっては、国選弁護報酬のかなりの割合がコピー代に消えるなんてこともしばしばである。
わかりやすい例で言うと、オウム真理教教祖の麻原彰晃氏の裁判には、とんでもないコピー代がかかっている。あの裁判は第一審判決までに約8年を要したが、事件記録も膨大であったため、国選弁護費用として支払われたコピー代だけでも、実に1,700万円を超えるという。コピー恐るべしである。
だが、よくよく考えてみれば、なんともおバカな話ではないか。紙でコピーするからこういうことになるのである。PDFで送るようにすれば、コピー代などかからない。あとは、それぞれの弁護士が、必要なら事務所のプリンターで印刷すればいいだけである。コピー代行業者も必要ないし、余計な紙を使わないから、森林破壊の片棒をかつぐこともない。

裁判のIT化とか言いながら、結局裁判所も検察庁もまったくICTを使う方向に舵を切らず、とかく自分の官庁から感染者を出したというレッテルを貼られないことばかり考えている今日この頃である。しかし、事件記録を電子化した上でやり取りするなんて、こんにちの社会であれば、電気や水が自由に使えるのと同じくらい当たり前のインフラであるはずである。そういう基本的なプラットフォームすら整備せずに、裁判のIT化など叫んでもむなしいばかりである。まずは、目の前の環境をひとつひとつ見直していくことが重要なのであり、お題目を唱えるばかりでなく、身近なところから実践に移してほしいものである。

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