ICT弁護士奮闘記1 打ち合わせをZOOMでやってみた

弁護士事務所で法律相談や打ち合わせというと、高そうなテーブルやイスが並んだ会議室に通されて弁護士が来るのを待ち、高そうなスーツを着込んだ弁護士が出てきて・・・というのが一般的なイメージではないかと思う。
しかし、よく考えてみると、法律相談にしても打ち合わせにしても、メインは手続の説明や必要な事実関係の聴き取りである。高級家具や高級スーツは本来、不要であるし、わざわざ来てもらう必要性が常にあるかというと、そういうこともない。
しかも、平日の昼間に、だいたいは都市部、裁判所の近くにある弁護士事務所まで来てもらうというのは手間である。かといって、夜間や土日に事務所をあけておくというのは、セキュリティの関係からもやりにくかったりする。
そういうわけで、我がMFUKLO(水野FUKUOKA法律事務所の略。MFLOとも略する)では、COVID-19流行以前から、ZOOMによる法律相談や打ち合わせを励行している。
これにはヒントがあって、知り合いの医師がZOOMでの遠隔診療をやっており、クリニック自体はかなり遠くにあるのだが、遠隔診療でお世話になったことから思いついたものである。病院の場合、婦人科系疾患など、あまり病院に入るところをみられたくないとか、病院で誰かにバッタリ会いたくないという場合に、遠隔診療は重宝されるらしいが、法律事務所に入る用事なんて大抵は他人に知られたくないだろうから、なおのこと遠隔法律相談、遠隔打ち合わせは重宝される。
そういうわけで、MFUKLOにはマホガニーの机もなければオカムラのイスもなく、代表弁護士は、ネクタイを100本以上持っているのに普段は至福の私服である。夏場は、100着以上持っているアロハシャツで執務をしている。司法修習生のころ、弁護士会の飲み会に原色のアロハシャツで出席してヒンシュクを買った(一部では賞賛された)当時のままである。
テレビ電話を実施してみると、色々と収穫があった。まず、遠方からの相談や依頼が受けられることである。地元に詳しい弁護士がいないので、と言うことで、テレビ電話で相談を受けることもけっこうある。他にも、平日は普通に仕事をしている人と、やや遅めの時間にテレビ電話で打ち合わせをするなんてことは普通にやっている。場所を選ばないので、こちらとしても必ずしも事務所にいる必要はない。
また、管轄の問題がある。例えば、離婚調停などは、相手の住所地に調停を起こす必要があるため、相手が福岡に住んでいれば、沖縄だろうと北海道だろうと福岡の裁判所で調停を行う必要がある。こういう場合、地元の弁護士に依頼すると、調停に出席するたびに日当と交通費がかかってしまうし、遠方の調停期日を嫌がる弁護士もいる。調停はある程度裁判所での電話会議も可能であるが、離婚の場合は、成立時には本人共々出頭しなければならないという謎ルールがあるので、調停で解決する場合、必ず1回分は旅費がかかるわけである。そういうことを考えると、打ち合わせはテレビ会議で実施し、期日には代理人弁護士のみ出頭、という方が、依頼者にとっては利便性が高いようで、幸いなことにそういう案件が複数ある。
打ち合わせには、以前からZOOMを使っているが、これはPCだけでなくiPhoneやAndroidでも使えるので、パソコンになじみがなくても使いやすい。また、資料の共有ができるので、資料を見ながら話ができる。
こうやって考えると、テレビ電話は双方にとってメリットである。こちらは経費節減になるし、相談者、依頼者にとっては、事務所まで行く手間と時間が省けるからである。何のことはない、アメリカではずいぶん昔から、社内会議などでテレビ電話は多用されていたのである。現に、外資系企業の方や、IT関係の仕事をされている方と打ち合わせをする場合、「ZOOMでいいですか?」「はい」のツーカーである。当たり前のことをしているだけである。

我が国には、「やはり重要な話は顔を突き合わせないと」という謎の土俗信仰が存在する。このことが、医薬品のネット販売や遠隔診療の支障になっているし、日弁連もまた、債務整理の場合は依頼者と直接面談せよという謎ルールを課している(個人的には、この規定の趣旨は、事務員に聴き取りや説明を丸投げするな、という点にあるから、テレビ電話であれば「自ら面談をし」たとの要件は満たしているものと解するのが相当と考える)が、これもまたかかる土俗信仰の具現化に他ならない。しかし、個別の依頼者に対する対応として、サービスで実際に会うかどうか検討するのであればともかく、誰でも彼でも「重要な話は直接会って」というのであれば、それは余りにも時代遅れである。
もう10年になるだろうか、ある偉大な先輩弁護士が、「今や本はAmazonで買う時代。立派な事務所を構えるよりも、少しでも安くていいサービスを提供する方が大事」と言っていたのを思い出す。大枚をはたいて立派なハコモノをこさえた、どこぞの弁護士会も見習ってほしかった。

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