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短歌

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短歌(2023年12月)

短歌(2023年12月)

蜜柑の木に烏飛び乗り烏珠(ぬばたま)の黒い瞳がゆれる昼下がり
(2024/1/15 神戸新聞文芸・入選)

寝坊してメイクも途中で出てきてもそれを遠慮なく言えるしあわせ

きみといる心ほどけるこの空間これがわたしのしあわせなのだ、と

電車にてスマホの画面にうつりこむ小さな雲らをぼうっとみつめる

短歌(2023年11月)

短歌(2023年11月)

もう知らぬ街だと思ったふるさとは変わらぬ顔で迎えてくれた

よく夢にみるふるさとの道をまた歩いた日それもまた夢かと

声援でビリビリ揺れる家、我らと歴史を揺らした選手たち

大歓喜の日本一から一夜明け 空からも祝いのビールかけ

短歌(2023年10月)

短歌(2023年10月)

雨の音だけが小さく響く朝靴音鳴らし瞼を閉じる

散歩中いつもの花壇覗き込み朝露光る葉に吸い込まれる

いつまでも胸の内にはめいっぱい駆け回るきみ撫でられるきみ
(2024/2/26 神戸新聞文芸・入選)

短歌(2023年9月)

短歌(2023年9月)

魂の容れ物深く眠ってた 長かった、でもようやくここまで

見上げると複雑に絡む電線 幾多の営み日が落ちてゆく

四年ぶり友と再会するも雨 手をとりあって駅へと走る

通り雨仰げば太陽に照り映えて 大切な荷物抱えて走る

普通列車に揺られて帰る満ち満ちた心が零れて夜に浮かんだ
(2023/12/13 神戸新聞文芸・特選)

短歌(2023年7〜8月)

短歌(2023年7〜8月)

じっと地面見つめて歩く己という器の中を歩いているよう

でこぼこの地面を確かめるようにきみと歩いた道踏みしめる
(2023/10/23 神戸新聞文芸・入選)

カート引き歩く後ろでクシャクシャと枯れ葉あやめる音が聞こえた

鳴き尽くした蝉そこここに落ちていて翅だけ残し砕けゆく夏

短歌(2023年4月)

短歌(2023年4月)

見上げれば枝切られた木の影濃くきみがいる気がした黄昏時

旅立った瞬間に間に合わなくて きみのたましい翳(かげ)りなくあれ

ひこうき雲私の澱(おり)を乗せ忘れ三つそれぞれの空へ消えた

短歌(2023年3月)

短歌(2023年3月)

洗濯物干しつつ涙あふれ出す、乾かしてくれこの水分も

きみの写真毎日見ては宙を撫で 柔らかな毛並みのあのあたま

巣にこもり友らの日常垣間見るもはや雛鳥ではない我は

羽根ペンにインク吸わせてしたためるその文(ふみ)はきっと菫の匂い

届かぬとわかっていても祈る日々それが自己満足だとしても

恐竜たち戦いの末斃(たお)れゆくあの眼を知ってる 愛犬の、あの

隕石がおちて滅びゆく恐竜たち他人事(ひと

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短歌(2022年)

去来する意味もたぬもの書き散らし舟を漕いでは意義を求めて

我の道 亀の歩みで進んでは甲羅の中でゆらんゆらんと

「普通」という多数派に入れなくて我の行く先ぼんやりかすむ

短歌(2021年)

夕暮れ時 万年筆の影法師軽やかに舞い文字おいてゆく

夕陽から巨大な白き翼伸べ我らを知らぬままとけてゆく

「恋人」と一般化された言葉では表しきれない存在で

SNS輝き満ちてひりつくも我が笑う日泣く人もいる

短歌(2019年)

いるはずだ時間泥棒きみといる日に盗まれるいつも必ず

ジャリと鳴る道を見つめるあの小さき足で確かに踏みしめられた

散歩道みどりの中に誇る紅(あか) 秋色吸い込み朝を駆けゆく

月明かり緋色に匂う曼珠沙華 切なく凛とし我が目を奪う

雨上がり雫が光る月の下 花は静かに虫の音(ね)を聴く

わけもなく淋しくなる夜きみの声聴きたい気持ち隠しておやすみ

指の先まで満たしたい言の葉の脈へと潜りさらに奥ま

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短歌 (2018年)

にこにことドーナツほおばる父母(ふぼ)わたし真白な頭が切なさを呼ぶ

テレビから離れぬ父と歩く晩そばに愛犬のんびりおしゃべり

真っ白なハードカバーにハート舞う二十年ぶり交換日記

全身の毛が夕焼けの光浴び輪郭輝く小さなからだ

纏い付く羨む気持ち苦しくも辿り着きたいあの子のように

リード持つ手に伝い来る力強さ小さな足がタッタカ駆ける