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2021年12月27日未明に発生した「雪の大垣駅舎毛布1枚帰宅困難事象」の経緯と原因並びに対応策 — 帰宅困難者対応と大規模広域災害での広域連携に関する提案 —

関連note:
「雪の中を最終電車で辿り着いた大垣駅で接続なく車中泊も提供されず毛布1枚で放り出された乗客の一人だった話 」

https://note.com/mizuno_yoshiyuki/n/n8f05253856e9

要旨:
2021年12月27日未明、予想外の大雪の中、JR線の米原大垣間の普通列車に、約1時間半という遅延が発生した。その結果、元々は岐阜名古屋方面に接続するはずだった列車がなくなり、結果的に多くの乗客が大垣駅で足止めとなった。そして帰宅困難者が100名程度、発生した。その中の30名程度は、最終的に大垣駅のホーム待合室または改札口周辺に留まり、JR東海から支給された毛布1枚で深夜から早朝まで過ごすことになった。この時の状況は、私が見聞きした範囲で、上記「関連note」に記した。
 その後、この「雪の大垣駅舎毛布1枚帰宅困難事象」の前後に起こった事実関係について、新たに分かったことも増えた。そこで以下には、私が見聞きした範囲の事実関係を、現状で整理し、その原因と今後の対応策について、私が理解したことをnoteする。このnoteの目的は、
上記「関連note」の最後にも書いた通り「この災難を次の改善に活かそう」ということである。
 
結論を書くと、国土交通省の「運転の安全の確保に関する省令」において2つの提案をした。1)帰宅困難者対応(一般にBCP=事業継続計画)について改善を検討すること、2)広域大規模災害での組織間の広域連携について改善を検討すること。
 ただしこのnoteでの記述内容には、私の誤解もあるかも知れない。その場合はご指摘、ご連絡をお願い致します。

(twitter @y_mizuno https://twitter.com/y_mizuno

1.はじめに

2021年12月26日夜から27日未明にかけて、予想外の大雪の中、JR在来線の米原-大垣間の普通列車に、累計約1時間半の遅延が発生した。その結果、元々は岐阜名古屋方面に接続する予定の列車がなくなってしまった。途中で車内放送はされたが個々人の対応には限界があり、多くの乗客が大垣駅で足止めをくらうことになった。当初この帰宅困難者は100名程度発生したと思われた。最終的にその中の30名程度が大垣駅のホームにあった待合室、または改札口周辺に留まり、毛布1枚で深夜から早朝まで過ごすことを余儀なくされた。大垣駅のホーム待合室は、2番4番ホームに1つしかなかった。このため入れない人も多く出た(私もその一人だった)。私はこの事象を「雪の大垣駅舎毛布1枚帰宅困難事象」と名付けた。略称は「雪駅舎毛布1枚災害」である。

一般に広域の大災害の時、例えば特に2011年の東日本大震災の時には、東京を含む多地域で「帰宅困難者」が大規模に発生したことが知られている。そのため「帰宅困難者」発生のリスクへの対応は、すでに鉄道各社でされている。今回は2021年12月27日未明にJR大垣駅で、百人規模の帰宅困難者が発生した。その意味で、これは「災害」だった。「これだけ多くの人が困っている」ことになってしまったからだ。実際この雪の中、駅舎で毛布1枚で放り出された人々の中には、基礎疾患をお持ちの乗客がおられる可能性もあったのであり、体調を崩す人が出てもおかしくない状況だった。

私はこの状況は「社会問題」の一つであり、「社会的に無視できない規模の事象」だと考える。しかし今に至るまで、報道されていないのではないか。ただし私の視点では、その理由は明らかである。それは、少し事情を調べると、この社会事象の発生では「誰も悪くない」(JR西日本も、JR東海も、災難に遭遇した乗客も悪くない)とも思われるからだ。

私は当初(2021年12月27日20時半頃)、12月27日19時のNHKニュースで、160人の車中泊が出たと報道されたことに対して、それ以外にも災難を被った人がいたことも、報道すべきだと感じた。そしてTwitter上でその趣旨のツイートをした。その目的は、ニュースの取り上げ方について、またそのニュースソース(JR各社の情報提供内容)について、だった。

しかしJR各社はこの事象を報告しないかもしれないと私は考える。それは各社とも自社は悪くないと思っているからである。乗客も悪くない。それにも関わらず、こういう問題が起こってしまう。つまりこの原因はJR各社間の連絡や現場の権限など、組織の仕組みを含む構造的問題であると考えられる。個人あるいは個別事業体だけの問題ではない。従ってこのような問題を扱えるのは国土交通省(鉄道事業者の監督官庁)だと、私は理解している。

そこでこのnoteでは、私が現段階で理解した範囲で、ここで起こった事実関係を整理し、その原因と今後の対策について考察する。結論としては、国土交通省の「運転の安全の確保に関する省令」、あるいは関連規程等において、2つの改善が可能という指摘を行う。1)帰宅困難者対応(一般にBCP=事業継続計画)における改善、2)広域大規模災害での組織間の広域連携における改善。

このnoteが、今回起こった災難あるいは災害を今後の鉄道運行の改善に活かす契機、にでもなれば幸いである。

以下、本noteの構成は次の通りである。第2節では、現状での事実関係の把握をまとめる。第3節では、「帰宅困難者」発生の何が問題かについて要約する。第4節では、事故要因の「スイスチーズ」モデルについて言及する。第5節では、改善可能性と「運転の安全の確保に関する省令」について考察する。第6節では「大地震に伴う帰宅困難者対策」を一般化することで、本noteの議論の結果と結論を述べる。

2.現状での事実関係の把握

ここで起こった状況は、容易に納得できるものではないかもしれない。公共交通機関は、乗客を目的地まで安全に送り届ける義務があるのではないか。仮に列車が止まっても、死者が出かねない高リスク状態で駅舎に放り出すのは乗客の安全確保義務違反ではないか。切符を購入し乗車した段階で、売買契約的なものは成立しているはずである。その乗車中に発生した予想外の天候リスクは、サービス提供側が負うべきものと考えられるのではないか。

その後わかってきたことを含めて、この当時の私が経験した状況や把握した事実関係をまとめると、次の13項目に整理できると思われる。

1)私自身は2021年12月26日夜、JR京都駅発21:01の新快速米原行き(米原乗換え、大垣乗換えの豊橋行き)に乗ったつもりだった(これは豊橋まで行ける最終=京都21:31発、の、1本前だった)。

2)しかしこの列車は、なぜか京都を少し遅れて発車した上に、なぜか草津までしか行かなかった(これはJR西日本による予定変更の結果だった)。

3)その結果私は、豊橋までの最終(=京都21:31発の新快速)に、草津から米原まで、乗ることになった。
(おそらくJR西日本は、この間に発生した遅延を考慮し、2本を1本にまとめたと私は推測している。)(要確認)

4)草津までで、すでに遅延が発生していた。その後の彦根駅の段階で私はFacebookに次のように書いた:「雪が大変そうだ。彦根駅にて。列車が遅れて困ったものだが、雪が見られるのは、よしとしよう。」(2021年12月26日 23:35)

5)米原で、米原発大垣行きは、さらに遅延。米原で列車に乗った状態で動かず。「見通しが立たない」とのアナウンスが数回あった。その後、急に発車した。

6)米原で、この大垣行きが遅れた理由は、主に2つあったと、私は把握している。
理由の第1は、トラックが米原駅構内の踏切で立ち往生したため。(このtweet参照
理由の第2は、JR西日本が、遅れてきた米原止まりのしらさぎ66号を待っていたためである(後に別乗客のtweetで判明)。これも遅れの原因の一つだった。

7)この間JR西日本は、しらさぎ66号の乗客に、米原から大垣まで行くよう指示(別の乗客のtweetによる

8)米原から大垣までの途上で、雪の影響でさらに遅延が累積した。この間、大垣発で名古屋方面の最終は、予定通り(通常なら23:17)、発車してしまった。

9)大垣からの臨時列車を、JR東海は出す予定はなかった。また大垣で接続する予定だった前便の到着を待つことも、しなかった。(なぜなら遅延が大き過ぎたためと思われる)(要確認)。

10)私は、大垣の手前のアナウンスで、大垣から先がないと、聞いて驚愕した。

11)この状態で私達(京都から岐阜名古屋方面に行く予定の人々)と、米原でしらさぎ66号から移ってきた乗客とが、大垣で降りた。これは00:40頃だった。予定(平常なら23:12)より1時間半の遅れだった。しかも大垣では、臨時列車の予定なし。

12)足止めをくらった乗客が大量に発生した。このため大垣駅は大混雑となった。(次のtweet参照

13)その後に起こったことは、上記の関連noteに書いた通りである。この内容は、たまたま乗り合わせた他の乗客の一人が感じたことと同じである。

さて、ここまでは事実関係である。この理解の上で、その後の情報も勘案して、私は次のように考えている。

(1)JR西日本は、大垣に送り出しただけだ。そこはJR東海の管轄だ。大垣にはこれを伝えていた。何も悪くない。

(2)JR東海は、予定通り、大垣発の最終便を送り出しただけだ。米原から着いた客は、最初から最終列車がない状態で着いた。だからシャッターを閉めるなど、通常業務をしただけだ。何も悪くない。

(3)そして乗客は。しらさぎ66号の乗客は(大垣に行けと)言われた通りに行動しただけだ。京都からの乗客は、大垣から先があると思って乗っていただけ。しかし途中で先がないと聞かされた。だから、どの乗客も何も悪くない。

こういう状況だったと、私には思われる。

大垣駅の助役も、
[1]大垣駅で降りた人数が多くて「びっくりした」(そう言っておられたが要確認)。

[2]大垣では、しらさぎ66号を認識していなかったと思われる(要確認)。JR西日本はしらさぎ66号からの乗客も多い事を、JR東海に伝えていなかった可能性もあるが、実際は不明である(要確認)。

[3]乗客の1人だった青年氏は、この点を聞いていた。助役は「連絡ミスがあった」と述べるが、原因の所在は不明である(要確認)。

しかし私が、大垣駅の助役さんに、これ以上言及したくないと感じるのは、ここで起こった「連絡ミス」が、どちらのせいなのか、わからないからだ。言った言わない、の話になってしまいそうだからである。しかしそれでも発生してしまうのが、こういう事象だと思われる。

しかしまさに、こういう部分にこそ、構造的な問題があると感じる。
誰が悪いという話ではない。誰がやっても、類似の状況が、ある確率で、起こりうることが十分に予測できる。

仮に米原で、路線区(JR西日本、JR東海)が別れていなければ、こんな伝言ゲームの連絡ミスは、発生しないはずである。またJR西日本はJR東海に、米原から後の処理を押し付けているようにも見える。しかし実際に確かに、後の処理まで面倒を見る義務はない、とJR西日本は、考えるだろう。その通りである。この点でJR西日本はルール通りだ。

他方でJR東海は、乗客の状況が(つまり大垣から先があると思って乗ってきた乗客が、何人の状態なのか)、分かっていなかった。だから通常通りの業務をやっただけである。ここもJR東海にすれば、ルール通りだ。

仮に大垣駅が2時間早く、この混乱の可能性を聞いていれば、臨時便など対応できた可能性は高い。だが累計1時間半の遅延が発生したのは、その後だ。しかもJR東海は、大垣から接続がないと、正当に車内放送をしている。

他方で、困ったのは乗客だ。しかしこれも米原までの遅れ+途中の遅れの結果だ。乗客も何も悪くない。JR西日本の指示に従い大垣に来ただけだ。JR東海は、大垣から先がないと車内放送したが、私の場合は草津から、米原行き最終に合流したので、米原大垣間で初めて聞いて驚いた。その先、どうしろというのかと私も思った。どの乗客も同様に思っただろう。

誰も悪くない。しかしJR大垣駅で私を含む100人程が放り出された事実は残る。最終的に30人程が帰宅困難となり、早朝まで駅舎のあちこちで過ごした。うち15人はプラットホームのガラス張り待合室で。残りの人々は雪の駅舎のどこかで。毛布1枚。「これは災害だ」。しかし報道もされず、社会的に無視された上に...。理不尽なことだ。

3.「帰宅困難者」発生の何が問題か

「そもそも論」として、帰宅困難者の発生の何が、なぜ問題かについてまとめよう。ここでは、帰宅困難者対策や企業BCP(事業継続計画)の策定推進について取り組んでいる岐阜県、愛知県、三重県及び名古屋市、三県一市の広報ページを参照しつつ、要点を紹介する。

帰宅困難者対策の必要性の最大の要因は、東日本大震災の教訓である。

2011年3月11日の夜、首都圏では公共交通機関が麻痺したことにより、多くの帰宅困難者が発生し、大混乱となった。こうした状況は決して他人事ではない。広域の大規模災害発生時に、このような混乱を起こさないためには、企業や自治体の協力が必要とされている。

帰宅困難者対策はなぜ必要か。

1)大地震や大規模な風水害・気象災害など、広域の大規模災害が発生すると、公共交通機関は安全確認のため、随所で運行を停止する。

2)早く帰りたいため、多くの人が一斉に帰宅行動をとる。しかし、鉄道等の運行が再開されないと、駅には帰宅できない人が増加する。

3)この結果、例えば次のような状況の発生が予想される。
①駅周辺は人や車で混乱する、
②携帯電話がつながらない、
③直近・近隣のホテルは満室あるいは確保困難となる、
④コンビニや居酒屋での大人数の仮宿泊は想定できない、
⑤タクシー乗り場も長蛇の列となる、
⑥階段などでは集団転倒のおそれも発生する、
⑦歩道や屋外でも災害状態の継続による死傷のおそれが発生する、
⑧大震災の場合は帰宅を急ぐ車の渋滞が救急車・消防車の運行を妨げる、
⑨深夜の駅構内は安全確保の観点からルール上、シャッターを閉める。人は立ち入れない。このため列車運行の再開は早朝まで屋外で待たなければならない(この状況の一部は東日本大震災でも、今回の大垣駅でも発生した)。
などである。

4)このような群衆の発生は、パニックを引き起こす可能性もある。この結果、二次災害のリスクも増大する。

4.事故要因の「スイスチーズ」モデル

今回の場合も「災害」や「事故」としての原因は、複数あったと思われる。どんな事故でも事件でも、そうだろうと思われる。
今回の場合は、例えば:
■雪が原因だ。
■雪に関するニュースを聞かなかった乗客の行動が原因だ。つまり、こんな日に出かけたことが原因だ。
■トラックの踏切での立ち往生が原因だ(註:雪の中の米原駅構内で起こった事象)。
■1時間後のトラック立ち往生や、雪による遅延を予測しなかった乗客が原因だ。
■JR西日本は、しらさぎ66号の乗客に大垣まで行きなさい、と言っただけで、その先どうなるかはJR東海の管轄だからと、それ以上、何も対応しなかったJR西日本が原因だ。つまり伝達の仕方が原因だ。
■JR東海は、米原から遅れて出るとの連絡を、JR西日本から1時間以上前に受けていたのに、その間、何も対応しなかったのが原因だ。つまり聞き方が原因だ。
■大垣駅の真夜中の現場で、自力で何とかしようとしなかった乗客の行動が原因だ。

それぞれの要因はそれぞれ、無関係ではないことは事実だと私も思う。しかし、このどれか一つだけを取り上げて責めることはできない。なぜなら全部が起こったこと(引き続いて次々に偶然に起こったこと)が原因だからである。

最終的に「帰宅難民」を選んだ人は、足止めされた人の全体(おそらく100人を超えていたと思う。)の約3割、30人程度だったと思う。この人々は、種々の事情で現場に残ることを選択した。しかしこの問題は、そのような不本意な選択をせざるを得なかったという問題である。良い悪いの問題ではないことに注意する必要がある。誰も好んで「帰宅難民」にならない、と考えるのが妥当である。

一般に「事故」の原因は、スイスチーズモデルという「モデル」でモデル化できることが知られている。穴あきチーズのように、1つだけでは不完全な防護壁が多くある状況を想定する(図参照)。そのような偶然的な穴(脆弱性)が、全部一列に重なった時に、事故になるというモデルである。

この意味で、事故の原因は、複数あると言われていると思う。今回の事象も多様な要因が重なって、ああいうことになったと理解できる。


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図の出典:国土交通省近畿地方整備局、ニュースレター「あんぜん」第298号、平成元年6月号

注意:ただしここで、次の考察は有用である。すなわち、例えば10個の要因が揃って初めて事故が起こった場合、その10個は同等かというと、そうではないことである。なぜならこれらには時間的順序があるからである。後の事象は、前の事象が起こった前提で、起こる。ただし後の事象でも、前の事象を知っていた場合と、知らなかった場合で、条件付き確率は変化する。しかし最後に起こった事象で、それ以前の全ての事象を知る立場にあった場合には、少なくとも最初に起こった事象でその後に起こることを知らなかった場合と比較して(予測確率を含めても)、同列には論じられない。ではその条件はどうなのか、今後どうすべきなのか。それは今後の調査研究を待つ必要がある。


確かに、国鉄分割民営化の手続きの中で、各社は連携する義務が法律や規定で決められているのではないか、と思われる。また乗客の安全確保義務があるのも、確かだと思われる。だが調べた範囲では、JR西日本、JR東海、それぞれ、対応に問題はなかった、と言っているようである。それはそうだろうと思う。

このため、この状況で私にできることは、次のことだ。
1)JR西日本と、JR東海に、今回起こった事実(事象)を伝えること。(報道もされないため、知ろうとしない限り、知ることが出来ないからである。)
2)その調査依頼を国土交通省に対して行う、と、両社に対して伝えること。

そう思ってこのnoteを書いている。なぜなら両社は、判断に問題がなかったと考えており、したがって何も調査をされない可能性が高いからである。また調査という視点は、国土交通省にしか持てないと思われるからである。

誰も悪くないのに、こういう犠牲が出る。「犠牲」と言っても「死者」は出ていない。しかし毛布1枚で、それ以上は対応できないという状況の発生は、人の生死にも関わりかねない問題を目前にしつつ、座して手をこまねいているしかなかったことを意味する

その構造上の改善可能性を、今後の改善に生かすことをやりたい。次節以降で、その提案を行う。

5.改善可能性と「運転の安全の確保に関する省令」

5.1 「運転の安全の確保に関する省令」とは

鉄道サービスの場合、法令上の基本は「鉄道事業法」である。鉄道事故についてであれば、平成17年(2005)の、尼崎列車脱線転覆事故の後に出た「運輸の安全性の向上のための鉄道事業法等の一部を改正する法律(運輸安全一括法)」がある。しかし今回の事象に関係するのは、おそらく「運転の安全の確保に関する省令」というものだと思われる。

この「運転の安全の確保に関する省令」の第二条、二項(一般準則)には、(一)〜(十)の10項目がある。これをまず書き出してみよう。

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この中で、特に次の3項目が重要であるように思われる。

(五)連絡の徹底 従事員は、作業にあたり関係者との連絡を緊密にし、打合を正確にし、且つ、相互に協力しなければならない。

(六)確認の励行 従事員は、作業にあたり必要な確認を励行し、おく測による作業をしてはならない。

(七)運転状況の熟知 従事員は、自己の作業に関係のある列車(軌道にあつては車両)の運転時刻を知つていなければならない。


すなわち、今回の「雪駅舎毛布1枚災害」は、この省令「運転の安全の確保に関する省令」の第二条(規範)、二項「一般準則」の (五)(六)(七)に関わるのではないか。従って、それに関連する調査を依頼すればいいということが分かる。

法律的な階層構造でいうと、ここで関連するとした「運転の安全の確保に関する省令」の上位の法律は、「鉄道営業法」である。そして運転の安全自体は確保されていた。しかしよく考えると、運転の安全とは、乗客の安全に他ならない。この点において、本件(「雪の大垣駅舎毛布1枚帰宅困難事象」あるいは「雪駅舎毛布1枚災害」)は、この省令(「運転の安全の確保に関する省令」)と関係すると思われる。

5.2 「運転の安全の確保に関する省令」と鉄道各社の「運転安全規範」

「運転の安全の確保に関する省令」は、その第三条に従って、JR各社が、すでに対応している。

(規程の制定及び実施)
第三条 鉄道及び軌道の経営者は、前条の規範に従つて運転の安全に関する規程を定めなければならない。

2 鉄道及び軌道の経営者は、前項の規程の実施に関し、常に従事員を指導し、及び監督しなければならない。

ここでポイントとなる「運転の安全の確保に関する省令」に、定められている「規程」というのは、鉄道各社では「運転安全規範」と呼ばれている。ここで重要なことは、国土交通省が「運転の安全の確保に関する省令」を改訂すれば、鉄道各社では「運転安全規範」も改訂されると考えられることだ。

ここで、鉄道各社の「運転安全規範」とは如何なるものか。
例えばGoogleで検索すると、こう言う具合である。
https://google.com/search?client=firefox-b-d&q=%E9%81%8B%E8%BB%A2%E5%AE%89%E5%85%A8%E8%A6%8F%E7%AF%84

しかし問題はここでは終わらない。なぜならあれは「災害」だったから。「帰宅困難者」が出てしまったから。従って、このnoteでの考察の結論は、次のように表現できる。

「運転の安全の確保に関する省令」の改訂を、帰宅困難者の発生軽減・保護・救済のJR各社連携と絡めて、提言や調査依頼を行うべきだ、と言うものだ。

もう一つ問題がある。それはこの「運転安全規範」が、国鉄分割民営化の、後も、前も、殆ど同じである(実際は何も変わっていない)という所だ。

これでやっと、どこを改善すべきか明確になった。すなわち、
災害時の帰宅困難者の発生を防ぐため、「運転の安全の確保に関する省令」を、どう改訂すべきか
この問題は、そういう言い換えができることが分かる。

6.「大地震に伴う帰宅困難者対策」を一般化する

JR各社ではすでに、帰宅困難者対策をやっている。ここではこれを一般化することを試みる。

JR東日本では、大規模地震に伴う帰宅困難者対策をもうやっている。それは東日本大震災を経験しているからである。
https://www.jreast.co.jp/station_measures/

JR東海が通過する県の一つ、岐阜県でも帰宅困難者対策をやっている。
https://www.pref.gifu.lg.jp/page/7777.html

JR東海の帰宅困難者対策の監査結果の一つは、例えばここに公開されている。
https://wwwtb.mlit.go.jp/chubu/tetudo/image/26/jrtoukai26.pdf

しかしこの段階ではどちらも地震しか想定していない。ここが問題なのではないか。すなわち広域の大規模災害への 一般化 が必要、ということである。

ここまでの考察をまとめるならば、ここで扱っている問題は「運転の安全の確保に関する省令」と「運転安全規範」の問題であることが分かった、ということになる。ところでそこへ行く前に、本当にそういう問題なのか、と問うてみよう。例えばこの「省令」や「規範」中に、「大垣駅で乗客たちから言われたことを、現場の裁量で決定してはならないという規範が、書いてあるのか。」という疑問がありうる。この疑問に答えておきたい。

ご承知の通り、事務というのは、所掌事務(自分の仕事は何々である)が厳格に決まっている。例えば、列車運転のローテーションを変えてまで、臨時列車や車中泊用の列車を出す意思決定は、助役の権限ではできなさそうだった。東海路線区だったかに聞いて、「できないという返事だった」、とも言っておられたからだ。

ただし、現場の権限や決定権の問題も、これはこれで重要である。しかしこれはまた別の問題である。これについては、ここではこれ以上議論を行わない。しかし重要な問題であることは認識すべきである。

以上の考察から、このnoteの結論は次の通りである。

結論:「運転の安全の確保に関する省令」第二条二項の10項目(一)〜(十)に加えて、次の2項目の追加を要望する。

(十一)災害の対応

説明:巨大地震災害をモデルとする現状のBCP(事業継続計画)を拡張し、より高頻度の風水害・気象災害など他の大規模広域災害に一般化する。このようなBCPへの対応「運転の安全の確保に関する省令」第条二項に盛り込む。

(十二)組織の連携 

説明:上記の追加規定(十一)に伴い、広域大規模災害で同業他社との連携、あるいは他組織(駅舎周辺の自治体・企業等)との連携の発生が予想される。その対応を「運転の安全の確保に関する省令」第条二項に盛り込む。

また上記2件の要望の妥当性について調査を行い、得られた結論に従って、鉄道事業者、あるいは自治体・各種組織・団体に対して、必要な指導を行うための方策を検討して頂きたい。


これを行うことで、次の効果が期待される。

期待される効果1)国土交通省の「運転の安全の確保に関する省令」の改訂に伴って、鉄道各社の「運転安全規範」も改訂される。

期待される効果2)企業・自治体での「帰宅困難者対策」が進む。現状での「帰宅困難者対策」はほぼ全て地震(震災)に限定されているが、より高頻度の風水害・気象災害を含む広域大規模災害にも一般化される。

今回の事例(大垣駅での帰宅困難者発生)は、雪による広域災害で発生した。より正確には雪の影響で、予想外のことが多数、発生し、その一連の事象の最終段階で、JR西日本とJR東海との連絡ミスが原因で、帰宅困難者が発生した。このような事態は、広域災害であれはどこでも起こりうる。すなわち帰宅困難者の発生は、広域の大地震だけとは限らないことの認識が重要である。従ってこのような広域の各種災害を包含する形で、例えば次のような文言を改訂する必要があると考えられる。
https://www.pref.gifu.lg.jp/uploaded/attachment/26895.pdf

これは国土交通省が何らかの指針を示すのが適切だと私は思う。

なお、JR東海の帰宅困難者対策に対する、国土交通省による業務監査結果がいくつか、公開されている。この検討は今後の課題として、別途のnoteで紹介することとしたい。


謝辞:本noteを作成するにあたって、種々の議論に付き合って下さった友人諸氏に感謝します。

                           以上

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