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雑感『黑世界 ~リリーの永遠記憶探訪記、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について~』について

どうも。水野です。
せっかくなので、観劇録を書こうという試みです。
タイトル通り、9月下旬〜10月にかけて上演された、音楽朗読劇『黑世界 ~リリーの永遠記憶探訪記、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について~』に関する雑感を残そうと思います。

なお、この作品には諸々の考察要素があり、それを行うことは、シリーズを愛する方々すれば当然のことなのかもしれませんが、そういう類の営みは私自身力不足を自認していますので、そこはプロの皆様に任せて、気ままに書いていこうと思います。

公式サイトはこちら

1.特殊な視聴環境について

今回、昨今の状況からわかるように、こちらの舞台も例に漏れず席数を減らすことになったわけです。
その代わりに(?)、今回は東京公演で何度かオンラインでの上映がありました。
私が観劇したのは、オンライン=すなわち、自宅のベッドの上でした。

少し私の話をしますと、この舞台、観に行くかどうかとても迷っていました。
リアルタイムではないですがLILIUMは視聴済み、鞘師里保さんの復帰第一弾というところもあって、正直めちゃくちゃ行きたい気持ちが募っていたわけですが、時期とか、お金とか、理由としてはそういうありきたりなところで、結局チケット発売日をスルー。そうして迷っていたらチケットは売り切れ(そりゃあそう)。円盤になるかなあなんて思っていたら、オンラインのチケットがあるということを私が見ることとなった公演の前日くらいに知り、「あら、これなら観られるじゃん」ということで急遽視聴を決意。開演ギリギリで雨下の章のチケットを買ったというわけです。

結論、もちろん舞台でしか感じられない雰囲気もあっただろうから、現場にはかなわない部分も往々にしてあると思います。
が、この舞台、現場に行ったら最後、しばらく戻ってこられなくなるんじゃないか…?と感じるくらいの衝撃だったので、現実で生きていくためにはオンライン視聴でよかったかもしれません。重度の繭期で済んだぜ。

オンラインだからこそ、演者の皆さんの表情がよく見えて、ひとりひとりが、美しくあるべきところは美しく、醜くあるべきところは醜く、こうやって世界が創られていくんだなと実感しました。

ということで、日本の片隅から繭期にアクセスした私の話をしていこうと思います。

2.雨下の章、またはシュカについて

個人的に、雨下の章と日和の章とのキツさは毛色が違うと思っています。純粋に泣いた回数が多かったのは雨下でした。まさに雨。

まずリリーがクランのことを楽しげに両親に語るシーンからスタート。もう辛い。優しそうな両親に向けてクランの思い出を語るリリーを、繭期の幻想たるチェリーが嗜める。というか幻想があまりにもチェリーすぎる。あんたって本当に馬鹿ね、じゃないんだよ。なんだこのしんどい話は(知ってた)。この時点で色々と覚悟が決まりました(?)

ところで、リリーにとってチェリーって何だったんだろうなって思います。リリーは皆に等しく優しいというか、あまり分け隔てないイメージで、裏を返せば親友みたいなものもいないように思ったけど(スノウの話?それは別です)。あえてチェリーという名を選んだのは、チェリーの明るさが彼女を救っていたからなのかなあ、とか勝手に思いを馳せています。今になって思うと、ここでスノウとかの名前がつかなくてよかったね...

で、幻想と出会った後、今度は謎の男:シュカが登場。松岡さん、コンサートじゃん......僕は君を見ている、という不気味な曲を歌い上げて去っていきます。第一印象は「何この人......」です。

そんな出会いの章から始まって、続く第二章は橋職人と弟子の話。えっいい話じゃん本当に繭期か?(失礼)永遠の命を持ってしまったリリーと、有限の命を持つ人間でありながら「永遠」に手が届こうという技術、継承の話でしたね。もちろん、橋自体は老朽化し壊れていくものだけれど、橋をかける技術とその魂は、師から弟子へ受け継がれ、または弟子が師を越えようとするなかでよりアップデートされて、枯れることなく続いていくものだ、という。彼らは決して永遠に夢を見ているわけではないが、永遠に何かしらの価値を見出しているわけですが、リリーは何を感じたんだろうなーって思います。

そして、突然の箸休め、七五調で語られる第三章。これは何……?繭期の夢……?箸を休める準備すらできてなかったよ……
いえ、内容的に残酷劇ではあったので、ある意味TRUMPシリーズらしいのかもしれませんが(そうか?)狂ったヴァンパイアハンターのファンと疲れたヴァンパイアハンターの話。ってどっちも人間じゃないか。巻き込まれる吸血種がかわいそうだよ。

温度差で風邪を引く第四章。風邪を引いた。多分一番泣いたと思います。時の流れが止まってしまった少女と、時の流れが人よりも早い少女との邂逅。鏡の中のリリーは繭期の頃の姿のまま、鏡の外の少女は人よりも早く歳を取り、老女の姿で繭期を迎え、終える。そんな老女に恋をした繭期の少年。恋だって繭期のせいか、本気なのかもわからないから、本当のことを知って傷つくのを恐れる”老女”と、恋する少年とは出会うことがなかった。繭期があけると同時に死んでしまうなら、たとえ繭期の幻想だったとしても、受け入れてしまえばいいものを……と正直思いました。随分汚れてしまったな、そう思えないほどに彼女は純真だったんだろうと思います。
正直一番つらい。死ねないリリーは、死に愛された少女と時間を共にし、それでも羨んだりすることなくちゃんと悲しむんだよな。それも含めて一番つらかった。

そして、これぞTRUMPだと思う(にわかですが)第五章。時間を繰り返す従者(もとい、存在しなくなった息子)と婦人。不死のリリーを都合よく使い、何度も記憶をリセットして、同じ時を繰り返す。吸血種は勢い余ってイニシアチブを取りがち。やめなさい、こら。
最後にふたり(というよりも首謀者である息子)に向けるリリーの瞳はなんだか冷たかったというか、色がないようにも見えました。イニシアチブは確実にリリーのトラウマスイッチだと思いますけど、どんな感情だったんだろうか。哀れみか、絶望か。わからないなあ……でも、別に怒りではないんだろうなと思えるから、リリーの美しさを感じてしまう。シュカの惹かれたポイントはここかしら。

そして第六章。第五章まで、時々姿を現し、助けたり助けなかったりしながら、「君を見ている」と去っていったシュカ。もうかなりの月日が経っていて、普通の吸血種なら生きていられるはずがないのに、なぜ。その謎が明かされる章でした。ウルと聞いて死にました(死ぬな)。
彼が本当に永遠の命の持ち主(FALSEだとしても)になれていたなら、何か変わっていたのかな…なんて思う。心を持ち続けるリリーを痛めつけた罪滅ぼしで、薬を使って仮初の永遠の命を得て、リリーを追い続けたシュカ。ずっと心を失おうとしないリリーを見て、それこそ死んだほうが楽な思いだったろうと思います。それでもなお、リリーのことを追い続ける彼は、きっとどこか無念の死だったのかな、とも(もちろん、薬によるものだからある程度悟ってはいたでしょうが)。シュカが見ていながらの旅はいつも雨ではあるが、リリーにとっては優しい雨だったんだなあと思う。それがなくなってしまって、どうなっちゃうの……と日和の章が不安になるような、暖かい終わりでした。ちょっと別の話だけど、スノーフレークに反応するのつらすぎるな。

3.日和の章、またはイニシアチブについて

LILIUMを見た方にはある意味こちらの方が刺さったかもしれないと思った日和の章。涙は正直全然出なかったんですが、「TRUMPを見た……」感が強かったのはこっちかなと思いました。個人的にはね。イニシアチブ大戦みたいな……(?)

第一章。雨下の章を経て、雨の降らない旅を続けるリリー。クランのことを思い出していたら紫蘭と竜胆が出てきてリリーを責める責める。急にLILIUM始まってびっくりしてたらLILIUM終わった(?)いきなりつらい。
そして、ちょっと特殊な形の家族との出会い。突然の別れ…………リリー、どうしていつも自分を投げ出してしまうの……
いえ、大切なものを守ろうとしているわけですからね、死なない自分が敵に立ち向かっていき、は真っ当な判断なわけですが、どうしてそうやって自分を犠牲にしてしまうところは本当にもう……何も言えなくなりました。そんな悲しい気持ちで日和の章ははじまりました。

罪と許しの第二章。今の時代に、いろいろな人に見てほしい話でした。妹を殺された神父と、妹を殺した吸血種。神父は吸血種を許すと言い、吸血種は神父に「裁いてくれ」と言う。
ひとつ、シンプルに思ったのは、「繭期は厄介だ」ということ。
もうひとつ印象に残ったのは、村人が吸血種を裁こうというシーンの、村人へ向けた神父の言葉。「裁く権利があるのも、許す権利があるのも、私だけだ」というものです。
この話は、神父が許せていようが、許せていまいが、許せずに吸血種を殺してしまおうが、そうでなかろうが、そんなことは些細な話であると思いました。神父と吸血種の間で行われているのであれば、ね。昨今の諸々を思い出して、なんだかこう、複雑な気持ちになってしまった。
そして、ここでようやく朴璐美さんの凄さに気がつきはじめます。

またしても突然の箸休め、第三章。ヴァンパイアって……何なんだろうね……思い込みって怖いですよね。マントからコウモリを出したがるリリーが可愛いなと思いました(感想文すぎる)。ソーシャルディスタンスキッスに感心するリリーも可愛いなと思いました(略)。
しかし、その言い伝えでよく森から人を遠ざけられるなあとある意味感心しました。ただ変人扱いされているだけでは……?

温度差の激しすぎる第四章。なんでリリーはイニシアチブをとってしまうの……懲りてくれ……雨下の章を経て、記憶を失うイニシアチブのことにも触れているはずじゃないか……いや、もう罪の意識でやってしまうってことなんでしょうけども。
いつかの家族との敵対という形での再会(いえ、敵対する気はなかったりもするわけですが)。家族を狂わせてしまったと思ったリリー。その心は計り知れませんが、このあたりから私はもうほんとに、言葉が出ないという状態が続いていました。気軽に同情もできない。
あと、ちょっと別の話にはなりますが、鞘師さんの身体能力を感じるシーンもありましたね。身体の使い方がうますぎて一体全体どうなってるんだと思った。

第五章。イニシアチブとイニシアチブ。吸血種のイニシアチブ教育もっと若いときから始めたほうがいいよ。
繭期でありながら、クランに行かずに二人きりで暮らす少年少女。彼女が自分を愛するようにとイニシアチブに願った少年と、それよりも早く、彼が自分から離れられないようにとイニシアチブに願った少女。繭期が明けても、イニシアチブはそのままだからきっとずっと一緒で幸せだね(棒読み)。
リリーは、イニシアチブに振り回される人生を送っているわけですけど、このふたりに対してはどういう気持ちだったんだろうなあと思います。結局お互いがお互いに幸せだったらそれでいいのだろうか。もうわからないよ……

そうして第六章。朴璐美さん、凄すぎるな……少女から、女性から、老女まで、演じきるその能力……凄すぎるな……
ぽっかりと穴が空いた、何か大切なものを忘れてしまった気がしていた老女へ、大切なものを持ったリリーがそれを渡しに来る章ですね。最後まで、返すかどうか迷っていたのかもしれないが、最後の最後で、もう一度会えてよかった。互いにね。
そして、リリーの中にいた老女の兄からの、惜別の歌。……いや少女純潔じゃねえか。私はLILIUMを見ていた……?(幻覚)
感謝祭でのソフィーとの再会まで、あとどのくらいかわかりませんが、それまでせめて穏やかな日々が続いてほしい。

4.リリー、またはLILIUMについて

これまで、雑多に2夜の感想を書いてきました。ここからが、作品を通しての感想、ということになるのかもしれません。
そういう位置づけにするわけではないけど、やっぱり全体を通してLILIUMについて、リリーについて語りたいなと思いました。

全体的に、確かにLILIUMから続く物語であったと思います。そういうふうに作っているから、当たり前なのかもしれませんが、LILIUMを知っている人と知らない人とで、あるいはリリーへの思い入れの度合いによって、感じ方が変わる作品だなあと思います。

リリーはあのクランで、救いという名目で学友たちを自死へ追い込み(というかイニシアチブに命じた)、自らも死のうとした。しかし、死ねなかったわけです。ソフィーの企み、ウルの力によって。(その力がシュカを生かしたというのはなんとも…という感じですが)。

雨が続く幾年の間、イニシアチブを利用してしまった誰かのことは目撃しても、彼女自身が利用することはありませんでした。再び同じことをすることはなかった。それは、ただの偶然なのかもしれないし、シュカが心のどこかで(無意識的に?)リリーのことを支えたのかもしれないし。

それが、雨が上がったそのときに、再びイニシアチブを利用してしまう。どうして、と思いました。かつてイニシアチブによってあれだけ凄惨な悲劇を経験しておきながら…と。
でもそれがリリーなのかなあとも思いました。自分にできることをする。たとえ自分が不利益を被るとしても。クランにいるときは、「自分が不利益を被るとしても」という感覚はなかっただろうと思いますが、何かそこが変わったのかな。

あるいは、自らの生には価値がない(=死こそが救い)と思い、投げ出してしまうのか。あわよくば…と考えてのことなのか、命を投げ出すような苦しみを味わってでも救おうとすることが罪滅ぼしだと感じているのか。

LILIUMの配役及びキャラクターは、おおよそメンバーへのあてがきだったと聞きます。中心人物であるリリーがどうだったのかはわかりませんが、リリーと鞘師里保さんから感じる生真面目さは、どこかリンクするような気がします。
鞘師さんのモーニング娘。卒業に対して、責めるような人はきっといないと思っています。が、本人が何を感じているかはわかりません。
自分自身の卒業によって迷惑をかけてしまった人たちに対して、罪滅ぼしのような思いで、精力的に活動していかなきゃいけない……なんてまさか、そんなことを考えていないことを祈るばかりです。

いずれにせよ、真相はもちろん私には計り知れるものではなく、どこまでいってもこのnoteは感想垂れ流しにしかならないので、いい加減に筆を置こうと思います。
ただ、彼女がいつか、穏やかな救いに誘われますように。

最後に、改めて聴き返した少女純潔で頭を抱えた部分の歌詞を引用し、終わりにします。

絶望の地に咲く一輪の花よ
孤独を孤高に変えて気高く咲き誇れ
さすれば誰もその花を摘むことなく
儚き美しさは永久となるだろう
―― 少女純潔(2014)

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