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スウィング・キッズ 政治思想の対立を超える"ダンス"

前半とってものめり込んで観ていたのに、いや、だからこそ、ラストで「おぉぉぉ……つ、つらい……」と真っ暗な気持ちになった映画を久しぶりに観た。でもほんとにみんなに観てほしい「スウィング・キッズ」。※なにとぞ心が元気なときにね……!

朝鮮戦争当時(1950年代)の巨済(コジェ)捕虜収容所が舞台。新任のアメリカ人所長は収容所のイメージアップのために、戦前はブロードウェイで踊っていた下士官の黒人ジャクソンに「ダンスチームをつくるように」と言い渡す。「そうしたら沖縄にいる妻のところへ異動させてやってもいいぞ」と言って……。

収容所の問題児であるロ・ギスは、ジャクソンのタップダンスに魅せられ、だんだんと虜になっていく。収容所で米軍兵士を相手にダンスをしていた4カ国語が話せる女性ヤン・パンネ、離ればなれになった妻を探す民間人捕虜や、ぽっちゃりだけどダンスが激うまい中国人……とメンバーが集まっていく……というお話。

前半、タップダンスにときめいていくロ・ギスにすごく感情移入しちゃうし、ジャクソンやメンバーのタップダンスは圧巻。すっごいかっこいい。

この巨済島捕虜収容所の跡地は、2013年に平和パークが建設され、釜山から車で1時間ほどで行けるそう。朝鮮人民軍捕虜15万人、中国軍2万人、最大17万人を超える捕虜が収容されたんだって……。捕虜の間でも思想対立によって流血事件が起きたり、米軍准将が拉致されたり、黒人兵士への差別があったり……というのは事実だったみたい。

戦争捕虜となった捕虜は北朝鮮を支持する親共捕虜と反共捕虜に分かれて流血衝突が頻繁に発生し、1952年、収容所の司令官米軍ドッドゥ准將が捕虜に拉致される事件が起きるなど、戦争中にも収容所では共産主義と民主主義の理念を異にした捕虜の戦いが相次いで引き起こされ、多くの死者を出した場所でもあります。
1953年6月18日、連合軍の管理にあった巨済捕虜収容所の反共捕虜(北朝鮮への強制送還を拒否する捕虜)27、389名を当時の大統領だった李承晩大統領が釈放させ、7月27日の停戦協定の調印に合意することで収容所は閉鎖されました。(「BUSAN Navi」より引用)

★★このあたりから映画の中身にもふれているので「読みたくない!」という方はご注意を…★★

前半は、ダンスの圧倒的な迫力に「おぉぉぉ」って気持ちになり、テンポもいいし、ところどころクスッと笑って見てた。でも前線から足を失った同胞が収容されてきたことで、北朝鮮を支持するロ・ギス周辺の捕虜たちが「米軍兵士を襲おう」といった計画を立て、だんだんときな臭くなっていって……。

そりゃ戦争中なんだから、ほっこりで終わらないのは当たり前なんだけど。

penに出ていた監督インタビューがしみたなぁ。

監督: 巨済捕虜収容所は、朝鮮戦争を圧縮したようなところなんです。朝鮮戦争は大国の戦争からスタートして、最後は巨済島の理念戦争で終わった、とよく言われています。
共産主義か、そうじゃないのかという、それぞれが信じる理念に対して狂信徒のようになり、捕虜同士の殺戮戦が起こりました。巨済島は釜山の南西にある島ですが、北朝鮮や中国の捕虜がいて、そこに西洋人の管理者がいる、米軍には黒人もいる。いろいろな出身の人がいて憎み合っていたんです。混沌とした特異な場所だったと思います。
そんな収容所でも、ダンスによってイデオロギーを超えられる、友だちができ、幸せを感じられるのではないかということを見せたいと考えました。
(中略)
朝鮮戦争が1953年に休戦して70年近くが経つわけですが、いまだに韓国では誰か相手を憎んで「アカ」という言葉を発しているのを聞きますし、またそういう構造を利用して権力を握ろうとする者もいます。非常に残念なことです。
(Penインタビュー「『スウィング・キッズ』のカン・ヒョンチョル監督が語る、朝鮮戦争+タップダンスで描こうとした悲劇と希望。」より)

映画のラストは、その「憎み合い」が集まったかたちだった。ジャクソンの号泣に、わたしも涙が止まらなかった……。

もともと韓国ミュージカルで収容所を題材とした「ロ・ギス」があって、それを脚色して映画になったんだそう。つらいけど、最後までしっかり観てほしい映画だなぁ。ダンスや歌、映画、マンガ、本やアートは、イデオロギーの対立を超えていくとわたしも信じる

しかし役者さんも粒ぞろいだった。メインキャストから脇役含めて、迫力がすごい……。所長の靴磨きをやってた人なんか、どうやってあの迫力を出してるの……?この人がロ・ギスを脅すあたりは観ててまじで怖いです。

ロ・ギスはK-POPグループのボーカルD.Oって方なんだって。だから音楽的・ダンスセンスがあるのか。そしてジャクソン役のジャレッド・グライムスさんは実際にブロードウェイのダンサーなんだそう!そりゃうまいはずだ……!

また旅ができるようになったら、巨済島に行って収容所跡地を訪れたいと感じた映画でした。

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わたしもスキ!
東京在住の記者・編集者。茨城・福島出身で、大分→新潟→大阪に住みました。 旅・猫・動物・カープ(黒田さん)・高校野球応援・マンガ・映画・おいしいもの・相撲(稀勢の里)がすきです。ハイボール飲めばだいたいしあわせ。