筆者はBLを嗜む。ネットに触れ始めた小学生の時に少年漫画の二次創作BLと誤って遭遇し、性欲以外の感情はないものとする男性らしさの規範から外れて感情を顕にする男性に魅了されたのがBLのルーツだ。 たとえば儒教的上下関係の名残りとしての「男は女に本心を打ち明けるものではない、つけあがらせてはいけない、従えなければならない」という規範を内面化した男性と、自律せず葛藤せず性欲もないように書かれる女性の恋愛を描いた作品は本当につまらない。かえって女性が性欲だけでできているように書
高校一年生の夏休みに読書感想文を書くことになった。私は春ごろから気になっていたトルーマン・カポーティの「遠い声、遠い部屋」で書こうと考えていたが、七月の半ばに図書室で適当に借りた三冊のうちの一冊「アルジャーノンに花束を」が私の脳を激しく揺らした。これしかない。 知的障害を持つチャーリイ・ゴードンは、巻き込まれた実験で高い知能を獲得する。同じく被験した白いネズミのアルジャーノンは迷路テストを驚異的なスコアでクリアするスーパーネズミとなり、やがて急速に知能を落としていく。チ
今になっても時々、陸上競技場でアップを始めなければいけないのに部屋でじっと座っているような気がする。 私が陸上競技を始めたのは15歳の時だった。中学の時に好きだった人が長距離の選手をしていたこと、その人や他の運動部の人たちに世界がどう見えているのか知りたかったこと、生まれついた体格へのうぬぼれが動機だった。 19時頃には点いていた競技場のナイターや互いの顔がよく見えない暗いトラックの脇、いつまでも続く先輩達のお喋りや土曜の朝に体が合わなかった感覚は奇妙なほど鮮明に思い
『ミッドサマー』2020 アリ・アスター監督 また見ました 年2で見てます 主人公のアメリカ人女性ダニーが共同体のダンスイベントで最後まで踊り続けた後、祝う村人の中に両親の姿を見つけるシーンが忘れられない。 もちろん映画の冒頭で亡くなっている両親がスウェーデンの集落にいるはずがなく、おそらく主人公が見たのは薬物による幻覚である。 それまでは村人に祝福されてダニーは歓喜していたのに、両親を見失ってからは沈んだ表情に変わる。ここはどこなんだ?遠くに来てしまった。帰りたい。
