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怪談水宮チャンネル⑥

①虹にさわる

生まれ育った「姿見の池」での話。
大人の足で3分ほどで周れる位の大きさの池は、鯉や蛙が多く棲み、岸辺には花菖蒲の茂みがあった。
ある日その池の小さな橋に、それこそ3メートルほどの長さの虹がかかったことが一度だけ、ある。

父系一族で住んでいたので皆出てきてわあわあと見ていた。
3つだった私は、虹が生えている池の岸辺を見ていた。どうやって生えているのだろう?

私はトコトコ歩いて行って、虹のたもとへ行き、中へ手を差し入れた……。

「危ない❗️落ちる❗️」途端に誰かの手が私の首根っこを引っつかみ、やがて虹は消えた。


②ゆみこ叔母

ゆみこ叔母は、父のすぐ下の妹。ミス国分寺になるほどの美女だったが、祖父は子どもたちを全員年端も行かぬうちから水商売で働かせた。文句を言わずに、おっそろしいほど稼ぎまくったのはゆみこ叔母だけである。

商店街の顔役でもあり、人に篤く、蛇蝎のごとく嫌われていた自分の両親にすら優しかった。美女である上ああいう弁天様、観音様だから客が後を絶たなかったのだろう。

ゆみこ叔母はけれど、霊感バリバリでもあった。

祖父母が亡くなった後、片付けのために実家に行った彼女が玄関を開けると、そこに「祖父母が直立不動で立っていた」。叔母はすぐさまピシャッと扉を閉め、そのまま帰ったという。

最初に亡くなったのは祖母だったが、彼女は「ねえさん、夢を見たの」と私の母に話した。
「母さんが、『ゆみこ、屋根がない。寒い、寒い』って言ってるの」。

祖父は妻の死後、葬ることをせず仏壇の隣に骨壷を置き、仏壇の中は祖父独自の宗教観で集められたお稲荷さんの狐がギッシリ詰まっていた。
叔母は即座に墓の代金を稼ぎ出し、先祖代々の墓の費用を出した。


③初七日の電話

最初の夫が亡くなって、色々片付けて。呆然としていた。
夜、私の携帯が鳴った。
それは夫だけに設定してあった久石譲のメロディ着信音で、画面にも夫の名。
思わず飛びついたが、すでに切れていた。
ふとカレンダーを見ると、初七日だった。無事川を渡ったよ、と教えてくれたのだろうか。


④蝶々になった人

次の夫とは十年暮らした。とても仲良しだったが、彼はアルコールに食われてしまった。

それでも、離れてからも交流はあった。互いに気遣いあっていたと思う。

しかし今年の春頃、夢を見た。

見る影もないほど衰えてしまっていたはずの彼が、出会った頃のように健やかな姿で、微笑んで宙に浮かんで、会いにきた。
彼の背中には美しい青い蝶の羽根。
私たちは謝り合い、ありがとうと言って抱き合った。

彼がこの世から去ったのか、あるいはこの世で新しい幸せを見つけたのかは分からない。
けれど、あの美しい笑顔と羽根、抱き合ったなつかしい体の温もりはありありと残っている。思い出すたびに祈る。彼がいずれにせよ、幸せであるように。


⑤猫の雲

先日姿を消した野良猫の友達。
心弱いことだが、私はしばらく凹んで元気が出なかった。

そんなある晩、空を見ようと寝しなに窓を開けた。

目を疑った。
くっきりと、猫の頭のかたちの雲がある。あのおかしな欠けかたの片耳の。そしてその、あまりにもそっくりなシルエット。

⑥神社にて

神社で、どこでもたいていなんかしら言われる。
拝殿からのこともあるが、たいてい上空からそれは降る。

何年も前だが、大阪に新年一人で行った時のこと。たまたま、縁結びとして名高いお初天神に行ったが、迷いに迷った。
小鳥の群れについて行くと裏口に着いてしまった。

すると、やわらかい優しい若い男性の声がした。
「かまわないよ、そこから入りなさい」

お詣りをしてお守りを買おうとしたら、
「ここにはお前の求める縁はないよ。迷子になったのだろ、守りのものをつけるから家まで気をつけて帰りなさい。縁は帰ってから、そこに在るよ。お前の生きる場所は、そこでちゃんと見つけられる」

結果から言えばその通りになった。私はその年、関東の男性、今の夫と巡り合った。



⑦祖母の怒り

先日、疎遠になっていた母から急に連絡がきた。
母いわく、
「夢に母さん(私の祖母)が出てきて『水音をもっとちゃんとしてやれ!』って怒られた」のだそうだ。


⑧鳶たち

今の夫、T兄が長期出張した直後。いつも近くを飛んでいた鳶(とんび)にお願いした。

「お願い。お前、行ってあのひとを守ってやってくれないか。頼みます」

遠方にいる夫がしばらくのち、驚いて連絡してきた。
「お前の言ってた鳶が、来た」

別にそこに猛禽類が生息していても不思議ではない。が、彼が新しい環境で心身疲れ切っていた時、それは突然現れたという。
そして、彼の住む部屋の窓から毎日見るようになったという。
「お前が鳶にお祈りしたって言ってたから、まさかそんなことって。俺はそういうの信じないし。
でも…なんでなんだ?」

大きな鳥は優雅に舞い、日々彼のこころを癒してくれているようだ。

私はもちろん、こちらの鳶たちに礼を述べに言った。
鳥たちは、いつものんきにどこ吹く風だ。

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