祭壇への仕事
清掃職をしていた時。
もちろんその日その日、する作業は色々あった。
トイレと水回りは毎日。廊下階段エレベーター内の掃き、外掃除は週2。廊下階段エレベーター内掃き拭きは週1。オフィスのはたきがけと掃除機がけは週1。
隔月で草むしりや外階段や屋上清掃、ドア拭きやトイレの隔壁拭きなど。
ところが、意味不明のお仕事もあった。一箇所ある、巨大な風呂場の掃除が週1。
この浴場はすでに使用されていなかった。
昔は外でお仕事をしてきた技術職の方々(つまり私たちのお客さまである、そのビルに詰めている人たち)が、汗や埃を流すために使われていたという。
しかし今どき、誰の家にもお風呂やシャワーは当たり前にあるし、会社も無理な残業などはさせられなくなったため、誰も使わなくなってしまったそうだ。
普通の銭湯ほどもある浴場と脱衣所を一人で30分以内にすべて水滴を拭き取るまでやり切るのは、新人の頃は不可能だった。
だが仕方ない。多少超過しても業務は業務。がんばるもん。
昔のシャンプーやらシェービングフォームやらが入ったままの洗面器。髪の毛一本落ちていない排水溝の中。毎週洗われ拭き上げられているためつややかなステンレスの大浴槽。
汚れない。汚れていない。誰も入らないのだから。
ところが、コロコロコロナちゃんがやってくると建物のあらゆる所を消毒して回らなければならなくなり、出勤自体も制限され、浴場清掃は手が回せなくなってきた。
上司も首をひねっていた。
「誰も使わないのに変な契約だなーって思ってはいたのよねー」
で、彼女の指摘をお客さまも「あーあそこね、ほんとだねやらなくていいよー」となり、その作業は無くなった。
けれど、私はその無意味に思える風呂掃除が、実は結構好きだった。
まるで、穢れのない祭壇をきれいにしているみたいだ、って思って。
そして、汚れていなくてもきれいにするんだ、したいんだ、というのが清掃という仕事の貴さだと感じていた。お風呂場にいる水の神さまにご挨拶をするような、そんなこと。
大掃除の季節。
こんな掃除好きの水宮は、いわば年中好きで掃除しているため、大掃除する所がない。いつもと変わらない日々。
でも実は昨夜強めに酔っぱでゆか寝して脇腹を打ったらしく、けさ起きると肋骨折れた?くらい痛かった(あれ痛いよねー)。
でもさっきごひんを食べて洗い物してたら。
体動かせた、すごい、当たり前のことじゃなかったんだってうれしくなって、笑ったら踊れました。まだちょっと痛いけどへいきみたい。有り難い。
ごめんね神さま、飲みすぎ注意しまーす。じゃあねー。
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