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これ持って行きな


青じそとバジルの寄せ植え鉢と、ご近所の方がくださったヒメヒオウギの鉢。
日光が爆当たり。玄関側へ持っていく。水をやる。


そこは涼しい風が通る。でもじめじめしてミニ王蟲(ダンゴムシ)やなめくじやムカデも出る。なあに、しそやバジルくらい食べてけ食べてけ。ちょっとくらい。お前たちも食べなきゃね。彼らは、人が考える以上にひどく控えめだ。


敷地内は定期的に除草剤を撒かれているが、そのおじさんと先日ふと会って笑って話した。
私のとこは、気をつけて撒いてくれてるみたい。鉢植えはとてもすこやか。


顔役みたいな人の家に町内会の役員やってる関係で話をしたら、にっこり、遊びにおいでと奥さま。



人と話すことは貴重なんだ。私には。
こんなヨソ者にも隔てなく。
美味しいコーヒーにデザート。お互い花や音楽好きのご一家と分かりすっかり時を忘れて楽しいお喋り。マスクがもどかしい。
帰りに、食べきれないほどの、その日解禁になった鮎の天ぷらと、採れたてトマトを下さった。泣かないようにするのはけっこう、苦労した。


雷と豪雨の夜。仲良しの野良猫のうちいっ匹が心配でたまらない。TNR猫で、体が小さい。すり寄ってきた時撫でたら、ひどく痩せていた。要領が悪い証拠。
おまえ。自分でしのいでいけるか?体を冷やすな。危険を避けて、とにかく何か食べるんだ。祈る。


某大手電気会社のセールスの男の子が来た。
冷蔵庫で作ってたジャスミン茶を出す。若い彼は日に焼けた笑顔でお礼を言って、すぐ飲み干した。丁寧な説明を暑い玄関先でしてくれた。納得したので契約した。
使用は従来通りだが、雨後の筍みたいにダメになる小会社とは違う。プランも先行きもしっかりしていて大分得になるので契約した。
ぷっちょの夕張メロン味があったので、あげた。男の子はほんとうに小学生みたいな顔で笑った。嫌いでなきゃ、良かった。

さあ、水音。今度はあなたに。何をあげましょう?


おうちにいられて、エアコン、水とごはんがあって、あとほしいもの?


ウウン、このままでじゅうぶん。
こんな贅沢は。
だいすきになった町と、だいすきな人たちと、だいすきな草木や生き物たちが、いつも何かしらくれる。
「これちょっとあげるから持って行きなさい」。理由もなく。
だから私もできるだけ、する。
したいから。
同じうれしさをあげたいから。


こんなふうに暮らすのが夢だった。
千と千尋の神隠しみたいな色の空を眺めて。
水みたいに流れ、こんな風に流れ着いて、こうなれた?


体の7割を占める水、それは名付けようもない。
だから夫に話しかける。
すべて、話すことができたなら。
でもきっと不可能。森羅万象のことになってしまう。
あなたの食べたい物をまずは言ってね。
そこに込めよう。
花を飾ろう。
そして残りの人生、出来ることなら出来るかぎり、あなたと森羅万象を語り合って、お笑いコンビみたいに笑って、ごはんを食べて、手をつないで歩こう。


来年の秋、彼のいる巨大な建物群がついに竣工する。
彼が帰ってくる。
海を越え、鳥みたいに笑って。






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