【AIがすべての芸術を生み出すようになった社会】第12話

「……あ、なんでっ」

 次に気づいた時、篝は後ろから青山に抱きしめられて、ソファの上にいた。

 服を脱いだ青山の厚い胸板が、背中に当たっている。抱きしめているよく筋肉の付いた腕。その温度を感じていると――自分の考えた世界を、『読んでもらえている』と、分かる。創作が許されている。考える事が許されている。

「気づいたか?」
「あっ……な、なに、これ……なにこれ……なんで、なんで?」
「なにが?」
「どうして、私は考えていいの? 貴方の腕の中なら、考えていいの?」
「――まだ錯乱しているとしか思えないが、本当に初めてに見えるな」
「私は、そ、そうなの。お姫様と、王子様が、キスをして……っ」

 青山は嘆息した。先程から、己の腕の中で喘ぐようにすすり泣きながら、ずっと篝が口走っている陳腐な物語について。人は、AIが生み出した物語で無ければ感動しない。そして特にその適性が高い者が、リーディング才能保持者とされる。即ち、芸術家が何を語ろうとも、感情を動かされない者が、特別刑務官となる。青山も、無論亡くなった一紗だってそういった人種だった。それは、模範的市民の中でも、さらに模範とされる者の才能だ。だから当然、今篝が口走っている稚拙な空想になど、心は動かされない。だが、告げる言葉は決まっている。

「篝。中々、面白かったぞ」
「!」
「俺の前では素直でいればいい。いくらでも、お前の話は聞いてやる」

 篝の体がビクンと跳ねた。ぐったりしながら、汗ばんだ体に黒い髪をはり付けて、篝が喘ぐ。青山の指先に反応している様子だ。もうその瞳に、理性は見えない。チカチカと情欲に濡れている。

 摘発後メンタルケアは、芸術家の身体的な快楽信号を制御し、快楽と刑務官による肯定感を結びつけて、受け入れられていると脳に錯覚させる行為だ。実際には特別刑務官は共感などしていないが、芸術家の体は触れられると、快楽が認められているという感覚に変換され、多幸感に飲み込まれる。そうなれば後は、肯定された感覚を与える快楽に飲み込まれ、自我が飛ぶ。

 篝が理性を飛ばしたのは、それからすぐのことだった。


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