【AIがすべての芸術を生み出すようになった社会】第13話

「ん……」

 青山がソファで携帯型コンソールに指を走らせていると、そばで寝ていた篝が目を覚ました。そちらを一瞥した青山は、篝についてまとめていたデータを特別警務班のオフィスへと送信して、ホログラフィックモニターを消失させた。

「目が覚めたのならば、服を着ろ。足下に用意してある。体は清めておいた」

 青山が平坦な声で告げると、瞼を擦った篝が頷いた。
 それから喉に手を当てる。

「――、……声、まだ出るんだね」
「ああ。日常生活上は、特に封鎖する必要は無いと判断した。外部に伴う場合は原則封じるが」
「そ、そっか……」

 おずおずと細い指を伸ばして衣類を手に取った篝が、身につけ始める。

 シャツの襟元を正しながらそれを見ていた青山は、着替えが一段落したとき、改めて尋ねた。

「それで、三つ目の希望を聞いておく。何を希望する?」
「……それは、今すぐ決めないとダメ?」
「ああ。先延ばしにするようならば、希望はないものとする」
「……だったら」
「なんだ?」
「私、恋がしてみたい」

 ぽつりと篝が言った。青山が腕を組む。

「恋人役をするような人材派遣サービス業の人間は、基本的に一般市民だから困難だ。誰か適役を探すとすれば、それは特別刑務官となる。そしてお前の担当をしている特別刑務官は俺だ。お前の恋愛ごっこを手伝えるのは、俺のみだ。それとも肉欲の解消といった即物的な意味合いか? それもまた、俺がケアとして行うが」
「っ、そうじゃなくて……本物の恋!」
「本物? お前は芸術家だ。結婚すら自由は無い」

 青山はそう答えつつ、少し思案した。そもそも、恋に本物や偽物があるという観点で考えた事が無かったからだ。告白してきた適度な相手と付き合い、関係を維持できなくなれば別れる。それが過去の青山の恋愛関係だ。そしてそれは、別段珍しい価値観ではない。

 ――これだから、感受性豊かな芸術家は。

 最初に抱いた感想は、それだった。


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