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【詩のようなもの6編】散開と展開


【散開と展開】

伸びた影がはしゃぐよ
真昼に眠る猫の横で

並木通りは散開した花びら
大樹は既に双葉に囲まれながら
揺らす艶やかな緑の髪

思わず重ねた懐かしい記憶
君が好きだったこと
風の匂い

幻を見るように煌いて
すぐそこに夏の予感
一足早く展開するかき氷の屋台

熱に浮かされて汗かいて
どこからともなく聴こえる音楽
一人を満喫しながら踊ったり跳んだり
予測のつかない今が展開中


【滴り】

無関心ではいられない
天秤の揺れ動き

沸々と沸騰する気持ちは
逆張りの選択を採りたくなる

頭の片隅には滲みつつある過去詩から
点々と滴り落ちる翳りと愉悦
自分の知らない顔が浮かぶ

懲りずに繰り返して
迫られて冷められて
枝分かれする海峡線

甘ったるさを藻のように纏いながら
滔滔と流れる恋慕は幕無し


【特急】

生きていて何度も見たよ
積み上がったトランプタワーが
なんの前触れもなく崩れるように
振り出しに戻る人生ゲームが始まる姿

死に急ぐわけじゃないが
足が震えるようなことがないから
どこか拍子抜けた日々から
たまには抜け出したい

思い立ったら吉日って言うし
サイコロ振らずに特急電車に乗って
気の向くままに知らない土地へ旅する

誰かに逢いたいような
知らない何かに触れたいような
欠けたパズルを埋めるように
動く景色を留めていくよ
今しかない特別な時間にしながら


【熱気と年季】

年季が入っているから
情熱は保たれているのか
情熱があったから年季が入ったのか

商い三年 その言葉通り
螺子を何回も巻き直しながら続く有名店
始まりは自分の為からか誰かの為か

塩が浸むことばかり言い続けた先人達は
今の子供達にはその場所が死海に見えると
気づいていけるのか

出奔することに情熱を注ぎ
老朽化した若人の僕は節を曲げて
閑古鳥の鳴き方だけ知っている


【排熱】

黎明期を辿りながら
破れ崩れる栄華 巧言令色
尻窄む夢物語

急いで回ったあの道
滲んだ汗は焦りを加速させて
そのまま過ぎていく
何もなく

分別の仕方が分からない粗大ゴミ
僕の存在価値はまさにそれ
後処理の手間賃が傘増し
埃のように溜まる情熱と劣情

熱にうなされて
未だ利用価値のある部分を探しながら
怨みに動かされて

今も消えた希望に縋りながら
全てを忘れるように衝動的な見切り発車

理由云々は後付けで
まずは抑えきれない自分を排熱
マイナスから広がる夢物語を
この手でもう一度


【喜懼】

何一つ拘りはないよ
座右の銘になるような物語も

だからといって
お終いにしたいわけでもない

逆境に出くわすたび
奸佞を肯定も否定も出来ない心苦しさは
一生涯の悩みどころだろうけど
信じられる痛みがあるうちは
その方角に向けて走るよ

混沌の街並み 煽りを食い
垢が抜けて朝も夜も晒す醜聞

砕けた人を為す心のカケラ
喜びと恐れを共に

水泡に帰するであろうこの日々を
また熱していく



最後まで読んでくれてありがとうございました。

水宮 青