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てぃくる 115 物言えば

「なあ」
 うん?

「あんた、いーっつも笑ってるけど、何がそんなに楽しいん?」
 別に楽しかないよ。こういう地顔なんだ。

「でも、みんなに喜ばれるんだろ?」
 みんなはね。僕は別に嬉しくない。

「ふうん……」
 あんたこそ、身をどこに置いてきたんだい?

「無理なダイエットをし過ぎて、骨しかなくなったのさ」
 それで笑いを取れた?

「いや……」
 ……。

「……」
 たまに口を開いたら、これじゃなあ。

「そう思うわ」
 はあ……。

☆ ☆

 物言えば唇寒し秋の風
 松尾芭蕉の句だそうですね。もはや俳句を通り越して、慣用句となっているあたり、さすが芭蕉だなあと思います。

 うっかり口に出してしまったがために、それが思わぬトラブルを呼び込んでしまう。某政治家さんはそれを商売にしておられるようで、政治家じゃなくて噺家やればいいのにと思うわたしは、同じように一言多いタイプです。
(絶対に政治家なんか出来ひんわ)

 でもでも、口を開かないと言葉なんか出て来ないわけで。発話はコミュニケーションの根幹ですから、骨になるまで言葉をしゃぶらないことには始まりません。
 言葉に鍵を掛けると、ますますコミュニケーションが細ります。言葉を狩るのではなく、飼い馴らせ。それは、発信者だけに求められるスキルではなく、受信者にも等しく求められることでしょう。

 言われて頭に来たこと。腹が立ったこと。許せないこと。
 それらが怒りの導火線に火を点ける前に。
 なぜ相手が不要な言葉を発したか、なぜ自分がそれを受け入れられないと感じたのかを、言葉に着せられた虚飾を剥がして確かめる必要があるかと。
 寒くなって言葉が出にくくなるこれからの時期が、訓練のいい機会じゃないかなあと思ったりします。

 でも、とりあえず。選挙カーでわあわあ喚いてるおっさん、おばさん。大音響での候補者名連呼は止めましょうよ。そらあ出来の悪い自虐パフォーマンスにしかなりませんがな。
(自分の名前を連呼するしか能のないやつに、誰が投票するかいな。ぼけ)

物云はぬ人形の口嗤いおり

(2014-12-09)

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