見出し画像

てぃくる 89 ねじ釘

ただの釘じゃ抜けてしまう
ねじ釘がいい

空と大地の間に食い込んで
ぎりぎりと僕を繋ぎ止める

君がどこにも行かないように
僕がどこにも行かないように

 ネジバナ
 花は小さいですが、ランの仲間です。わたしたちがもっとも頻繁に目にする地生ランですね。

 ランの仲間は、種子にほとんど栄養がありません。葉を作って光合成で稼げるようになるまでのお弁当が最初からないんです。それなのに、どうしてあちこちから雑草みたいにぽこぽこ生えてくるのか。その理由は、根っこを掘って観察してもらえれば分かります。

 ネジバナに限らずですが、ランの仲間の多くは根がとても粗く、細いひげ根がないか極めて少ないんです。
 粗い根は栄養の貯蔵には適していますが、作るコストの割に表面積を稼げません。養水分の吸収効率が極めて悪いんです。そしてネジバナの根は粗いというより、芋根です。じゃあ、ネジバナはどうやって成長に必要な養分を集めているんでしょう?

 はい。実はね、他者に貢がせているんですよ。
 ラン類の根には、ラン菌というカビが入り込んだ共生組織(菌根)ができます。そのラン菌に生育に必要なものを運ばせているんです。
 お弁当をほとんど持っていない種子から育つことが可能なのは、芽が出たばかりの幼植物の根にラン菌が入り込んで栄養を供給し始めるから。逆に言えば、ラン菌のいない環境ではいくら種子を蒔いても未来永劫苗が育ちません。

 ラン菌自体は、それほど特殊な菌というわけではありません。しかし人間の結婚と同じで、相手の菌が誰でもいいというわけには行かないんです。
 ネジバナのパートナーになるラン菌はイネ科植物とセットになっているようで、ネジバナもイネ科植物の繁茂した芝生のような明るい草地によく生えてきます。
 ネジバナだけを掘り上げて育てると、ランより先に菌の方がいなくなってしまうようで、ネジバナもやがて衰退してしまいます。どこにでも生えていますが、栽培の難しいランなんですよね。

 そんな風に。ネジバナが美しい花を咲かせるにあたってはカビの内助の功があるんだってことを覚えていただければ。

 ちなみにランの種子は、普通に土に蒔いても芽が出ませんし、芽が出ても育ちません。すでにラン菌を保有している親株の周りに種子を蒔けば、子苗を得られやすいです。お試しあれ。

(2014-07-16)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?