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湖の記憶11(ミステリー小説)―最終回―

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サトルは妻の琴音に寺での出来事を話した。
「オレは人殺しなんだってさ。それでも大丈夫?」「実はあなたに話していなかったことがあるの」
琴音が言った。
「何?」
「実は婚約したときに、あなたのご両親から話があるって言われて、あなたのいないときに呼ばれたことがあったの」
サトルには初耳の話だった。
「そのとき話してもらったの、あなたが昔、お兄さんを誤って殺してしまったことを。今、あなたが話したとおり。それでもあなたと結婚してくれるか、あなたのお母さんは聞いたわ。私はそれでもあなたと結婚しますって言ったわ。そうしたらお父さんもお母さんも泣いて喜んでくれた」
「そうだったんだ。それならなんでオレには話してくれなかったんだろう。冷たい親だな」
サトルは苦笑いしながら言った。
「あなたには思い出してほしくなかったのよ。一生心に傷を負うことになるから」
「そんなことも知らずにオレは荒れてたわけか」
「親の心子知らずって言うから」
二人は笑い合った。

「あ、今赤ちゃんがお腹を蹴ったわ」
「本当だ。男の子だから元気がいいな」
サトルが琴音のお腹に手を当てた。
「赤ちゃんの名前は何にしようか?」
サトルが聞いた。
「私はもう決めているの」
「なんていう名前?」
「ワタル。森本亘」
                      了

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