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松井玲奈『カモフラージュ』読了

『累々』に引き続き、読みたいと思っていたこの本を近所のブックオフで見つけた。

『累々』と同じように「演じている自分」と「本来の自分」との間で苦悩し、最後には「本来の自分」を選択する。やはり元アイドルの経験が生きているのだろう。
しかし、元アイドルが書くような小説ではない。まるで今まで溜まっていた膿をすべて吐き出したような短編集。デビュー作でここまで書けるとはすごい。文章と文章の隙間を丁寧な表現力で優しく紡いでいるのに、体のどこかに棘を刺されたような読後感。不安でも恐怖でもない、でも不安や恐怖みたいな言葉に出来ない感情が湧き上がる。これは松井玲奈にしかない個性だと思う。『ハンドメイド』は川上未映子的、『ジャム』は村田沙耶香的な感じもしたが、それでもそこに松井玲奈的という新しい味わいが加わっている。
『いとうちゃん』、『完熟』、『リアルタイム・インテンション』に少し中弛みを感じたが、『拭っても、拭っても』と『オレンジの片割れ』で著者らしさを取り戻している。

これからも読み続けていく作家だと思うが、結婚したことで、これからの作品から棘が抜けないでほしいと願っている。

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