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【私たちも携わった、4か月の古民家リノベーション】古道具や大切なものに囲まれた喫茶&住まい

古民家をリノベーションし、自分たちが集めた家具や古道具を組み合わせて空間をつくる−−。
そこで理想の喫茶店を営みながら暮らすご夫婦にインタビューしました。
みずき工房が独立して最初に手がけた建物です。


■天然酵母パンと手づくりメニューの古民家喫茶店

松山市北条の住宅街に佇む「喫茶 米門」。大通りに面しておらず、派手な看板を出している訳でもないため、知る人のみぞ知る、隠れ家的な喫茶店です。駐車場に車を停めると、入母屋造りの瓦屋根、落ち着いた色味の板張りの外観、どこか懐かしさ、あたたかさを感じさせる雰囲気の平屋の古民家が出迎えてくれました。

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入り口の扉を開けると、ガラスケースに、美味しそうな天然酵母パンが並んでいました。ご主人の米田匡博さんが、レーズンからおこした自家製酵母を使って焼いたパンです。土曜はメロンパン、日曜は食パンが限定で並ぶそうです。

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靴を脱いで店内に入ると、光が差し込む喫茶スペースが広がっていました。奥のカウンターの中では、奥様の園美さんが、珈琲を淹れています。

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床は無垢フローリング、壁は珪藻土の塗り壁、もともとあった古い柱とリノベーションの時に加わった柱が混在した空間に、ご夫妻が集めた古道具や家具、本やレコードが組み合わさり、その居心地の良さに時間を忘れてしまいます。開口部は木製建具の掃き出し窓で、その先には庭が見渡せて、訪れた時期はちょうど金木犀が満開となっていました。

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まだ午前の早い時間だったので、一番のオススメの「米門セット モーニング風」をオーダーしてみました。珈琲は、松山市三番町の「珈琲豆屋Aloha」の豆を使っていて、天然酵母パン付きのワンプレートメニューがセットになっています。贅沢の朝の時間です。

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店内には、オリジナルデザインのマッチがあり、タバコを吸うことができます。

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■一目惚れした風景との出会いからはじまる

自身の店を「カフェ」ではなく、「喫茶店」と語るご夫妻。タバコの煙をくゆらせながら、珈琲や空間、流れる音楽を愉しみ、ゆったりとしたひと時を過ごせる−−。そんな店が好きで、いつかは自分たちもそのような喫茶店を開きたいと漠然と考えながら、東京在住の頃から準備を進めてきました。匡博さんのご実家がある松山市に移住してからは、景色の良い土地や物件を探して、自転車で東温市まで行ったことも。海が近く、予算的にもちょうど良さそうな松山市北条でも探していたところ、この物件に出会いました。しかし、正直、建物は目に入っていなかったそうです。

「建物ではなくて、一番のポイントは畑に咲いていた菜の花ですかね。2人で、建物の掃き出し窓をバックにしながら、ここにしようかなみたいな」と、匡博さんは当時の様子を語ります。

というのも、建物は、20年ほど空き家状態でかなり傷んでおり、地主としては、建物を壊し、土地として販売する予定でした。そのため建物は目に入っていなかったというのも頷けますが、建て替えではなく、わざわざリノベーションすることになったのは何故でしょうか。

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■家づくりはギャンブル?!

この地にすると決めてから、まずは、不動産屋から紹介された大工さんに、温めてきたプランを相談してみたご夫妻。しかし、話が全て終わらないうちに「分かった、分かった」と言われるようなそっけない対応で、本当に分かってもらえているのか疑問に思ったそうです。一方、共通の知り合いを通して紹介された水木棟梁は、一見頼りなく思えたものの、「何をされますか? どういう風にしますか?」と細かく聞いてくれて、親身になってくれるという印象。建て替えではなく、元の建物を活かしながら手を入れて使っていくことについて「できる」と言ってくれたことや、「木にこだわりたい」という言葉も決め手の一つになったようです。

「結果的に頼りない方を選びました。ギャンブルですよね」と笑いながら匡博さんは語ります。

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建て替えではなくリノベーションを選び、みずき工房に施工を依頼することにしたご夫妻。匡博さんは「トトロに出てくるような家に」というイメージを伝えました。「分かりました」と答えた水木棟梁は、それからトトロの家のスケッチが載っている本を参考にしたり、匡博さんのイメージを捉えようと毎日考えていたそうです(水木棟梁のキーホルダーがいつの間にかネコバスになっていたというエピソードも)。

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そこから話が始まり、当初の頼りないという印象が徐々に変わっていきました。「ある時期を境に、この人、できる人やなって思いました。木を削って加工して嵌め込んだり、細工するところを目の当たりにすると、すごいなと」(匡博さん)。失敗しても正直に話してさらけ出してくれるところもかえって信頼につながり、お互い自然体の関係で完成までを迎えることができたそうです。

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■とにかく楽しかった4か月

20年も空き家となっていた建物。いざ、着工したものの、板を外して骨組みだけにしてみると、傷み具合は予想以上でした。柱などが腐っていたり、シロアリで傷んでいたりして、かなり修復が必要だったそうです。屋根裏は廃材が使われていて元々の施工が不十分であったことも分かりました。そこは強度を保てるようにして、結局、屋根裏を現しにするのではなく、天井板を張って隠すことに。キッチンがある場所は状態が悪かったので、新たにつくり直しました。

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予算的な制限もあったことから、設計図は作成せず、園美さんが描いたスケッチをもとに、ここはどうするということを、現場で一つひとつ確かめながら進められていきました。何よりもこだわったのは、喫茶空間。園美さんも、自ら珪藻土を塗り、壁をつくりました。水木棟梁は、当初から「私は材料を無駄にしません。極力ゴミは出さないようにしますから」と語っていましたが、余った木材の一部は、木工を趣味としている匡博さんが譲り受けて、DIYで食器棚や収納スペースなどを制作。分からないところがあれば、水木棟梁から教わりながらつくったそうです。ご夫妻も自ら手を動かした、そんな思い出がこの建物のあちこちに詰まっています。

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水木棟梁のチャレンジもあり、軒を支える柱は伝統構法で見られる石場建て(礎石の上に柱を立てる)にしています。礎石の曲線に合わせての柱の加工が一苦労だったそうです。

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予算の関係で板が足りない部分もあり、縁側は材料に合わせて短くなっていたり、天井板の張り方の方向を一部変えたりするなど、そこは知恵を絞り、セオリーとは違う方法で乗り切ったそうです。貫通していた古い柱の穴には、見学に来ていた建築家のアドバイスを取り入れて、ガラスを嵌めています。

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このようにして、最終的に遊び心あふれる空間になりましたが、匡博さんは、「結果的に遊び心と見られたらいいんですけど、苦肉の策なんです」と笑っていました。

「そうそう。でも、私たちは、面白かったんですよ。楽しかったですね。やってまえ! やってまえ! という感じで」と当時を懐かしむ園美さん。完成して終わってしまうことに寂しさを覚えたそうです。

リノベーションした4か月。完成した時の感覚は、普通とは違う独特のものだったようです。

「水木さんと3人で建てた、みたいな感覚でした。その後私たち2人が残って住んでいるみたいな感じです(笑)」(匡博さん)。

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■開かれた住まい

住み始めてから3か月後に「喫茶 米門」をオープン。今も、喫茶は園美さんがご自身のペースで切り盛りしています。8年が経ち、床や柱は飴色のあたたかな色に育っていました。台風や豪雨などで風向きによっては雨が吹き込むことがあったそうですが、それは雨戸をつけてもらうことで今は問題ないそうです。

「あまり細かく考える人にとっては、住めない家かな。風が強いとガタガタ建具は揺れますし、家なりもしますし」(匡博さん)。そうした、マイナスの要素を挙げながらも、後悔はないと言い切ります。

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「水木さんには普段から冗談で、『我々がいなくなってもこの家を使ってくださいね』って言っています。笑ってましたけど、冗談じゃなく水木さんにお返ししますっていう」(匡博さん)。

自分たちだけのものではないと考える、開かれた住まい。リノベーションして、ご夫妻と水木棟梁とでつくり上げた空間には、ご夫妻が好きで集めた古道具や建具が調和しています。季節によって変化する庭の風景も含め、喫茶メニューとともに味わう、そんな居心地の良さに、今日も、1組、また1組とお客さまが訪れます。

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喫茶 米門(よねかど)
住所:愛媛県松山市中西外691-2
TEL:089-994-8388
営業時間:10:00〜17:00
定休日:水曜と木曜
※小さなお子様のご入店はご遠慮いただいています。

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