【詩】重陽
あしもとの影が濁りをうしなって
夏が終わった事に気づく
わたしたちは手に入れる事ではなく
うしなう事で思い知るいつも
いつも
そこに在ったものを
眠りにつくたびに
少しずつ澄んでゆくあなたの
いのち、は何処にあるのだろう
しろく清潔なひかりに満たされた場所で
目覚めるたびに
見知らぬ誰かになってゆくその人は
抱きしめてとさしのべた手を
振りほどいたあなた
許してとうずくまる子を
つきはなしたあなた
家族という文字を
こばみつづけたあなた、ではなく
慈母のようなまなざしで
にぎりしめた手を離さない人、なんて
知らない
そこにある形は同じまま
失われてゆくもの
心、とは
濾しとられて消えてゆく
憎しみそのものではなかったか
帰り道
澄んでゆく空気に
靴底のかげを踏みしめながら祈る
あと少しだけ、ほんの少しだけでいい
濁ったままの影が
うしなわれずにありますように
ひかりはいくら重ねても、うすらぐばかり
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