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元祖 巴の龍#53

「我が名は瀧霊王(たきれいおう)。我が滝つぼを犯すものは誰じゃ」
瀧霊王は、諸国の滝つぼに現れて、一切の鬼魅諸障(きみしょしょう)を伏すという。


「犯したわけではない。我が弟は、ただ水を浴びただけだ。
この冷たい水にいつまでも浸かっておれば、命に関わる。弟を返してくれ
「ほう、この滝つぼに入るということが、すでに犯したことである。
弟御のお命はいただく

犯してはいないと言っているではないか。
我々に他意はない。頼む。弟を返してくれ」
大悟は必死に瀧霊王に頼み込んだ。だが敵霊王は決して首を縦に振ろうとはしない。

大悟に焦りが見えてきた。これ以上菊之介を滝つぼに入れておくわけにはいかない。そう思った時、迷わず太刀を掴んだ。
その時、瀧霊王の眼前を何者かがよぎった。

タン!

その者が地に着地すると、大悟のみならず瀧霊王も驚いた
それはあの独眼の狼だった。狼は、ひと声威嚇するように唸ると、また瀧霊王に飛びかかっていく。

瀧霊王は躱しながら奇妙な表情をしていたが、何度目か狼が飛びかかった時、左手の数珠を振って狼を静止させ、右手の杖を狼の頭につけて何やら唱えた。
それからゆっくり狼を地におろした。

弟御をお返ししよう
瀧霊王が霧の中から、菊之介の身体を浮き上がらせた。そして大悟の腕の中にそっとおろした。

「このような獣が人を助けるとは驚いた
今、この狼の記憶を読ませてもらった。
野生の狼を助けた者達であれば、この滝を犯す気がなかったことは信じよう」

瀧霊王はそう言うと、霧の中に消えていった。
瀧霊王が消えると、大悟は気を失っている菊之介を揺り動かした。

「あ、兄上、今何が起きたのでしょう。水浴びしていたら霧が出てきて、後はよく覚えていないのですが」
大悟は急いで菊之介に着物を着せた。

「よく狼に礼を言うがよい。今度は我らが命を救われたのだぞ
大悟はそう言いながら、狼の方を見た。

おまえのおかげで菊之介の命が救われた。礼を言うぞ
狼はくーんと鳴くと、またどこかに行ってしまった。

大悟は後姿を見送りながら、結局は菊之介の優しさが、菊之介自身を助けたのだと思った。

続く
ありがとうございましたm(__)m
※ちなみにこれまでも、これからも、妖怪達は、江戸時代の妖怪画家・鳥山石燕の妖怪画集から、調べたものです。(ゲゲゲの鬼太郎のファンですから(´艸`*)

「駒草ーコマクサー」
弟が最後に見たかもしれない光景を見たいんですよ

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