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地球が滅びる前に #2

私には息子と娘がいる。
それぞれが家庭を持ち、子どもが二人ずついる。
私は夫と子供達その家族の分のチケットを希望した。
息子と娘に連絡し、コンサートに来るようにとチケットを送った。

娘は喜んでチケットを受け取った
仕事をやり繰りして、なんとか家族で行くようにする、と連絡があった。
いつも娘は私の申し出を快く受けてくれる。

息子は当日の昼間に子どもの学校行事があって、と迷惑そうに言ってきた。いつものことだ。嫁がまた何か言っているに違いない。
離れて暮らしている私と夫が、たまに訪問する時も、私達の目の前で、息子のことをぐずぐず言う嫁だ。
看護師と医者の娘夫婦と違い、ITエンジニアの息子とパートに出ている嫁。
ほぼ生活は息子の給料だし、住んでいるマンションのローンだって、息子が払っているはずだ。
それに何の不満があるのか、息子に養ってもらっているのに。

地球最後の日まで、いったい何が出来たのか。
あっと言う間にKAGYOの解散コンサートの日がやってきた。
席はいわゆるSS席、とてもいい席だった。
地球防衛軍の隊員は、連絡係以外とは、ほぼ会うことがない。
だが、おそらく、その近くの席のほとんどが地球防衛軍の隊員と家族に違いない。
その中の誰が隊員かは、わからない。
しかし、同じくこの地球に尽くしてきた者たちが、今、ここにいる・・・。

それなのに、私の席の隣の四席が空いている
息子家族の席だ。このコンサートが最後の晩餐だというのに!
明日には地球がなくなってしまう。
今生の別れでもあり、また、コンサートに来たくてもチケットが手に入らなかった人もいるというのに!


KAGYOのコンサートは感動のうちに幕を閉じた。
もう、カサイが私に防衛軍の仕事を依頼しに来ることはない。
たまに来ていたクリムラにも会うことはないだろう。

コンサート終了後、私は憤りをおさえながら、息子のマンションを訪ねた。遅い時間となっていたので、もう孫も嫁も寝ていて、息子がパジャマ姿で向かえた。
私は怒りが収まらなかった。
なぜ、来なかったのか、怒りにまかせて嫁をののしった。
息子は黙って近づいてくると、私の首に手をかけた
息が止まり、言葉が途切れた。

「おかあさん、もうやめてくれよ。
おかあさんが何か言うたび、俺がどんな思いしていたか、わからないだろう。
もう、俺たちの事は放っておいてくれよ」

「ち・・・違う、明日地球が、地球が滅びてしまうから、最後に、最後に・・・」

「何言ってるんだよ。
明日なんてどうでもいいだろう。
もうおかあさんには、明日はないんだから」

「違う・・・やめて・・・地球が・・・」

真っ暗になった。
地球が滅びる前に、滅びたのは私だった。
いや、ほんとうに地球は滅びたのか。
もう私には、確かめることはできなくなった。

地球が滅びる前に #2

(書籍化されていない作品を、ご紹介しています)



地球が滅びる前に #3へ続く
https://note.com/mizukiasuka/n/n69e4e556619d

地球が滅びる前に #1初めから こちらから
https://note.com/mizukiasuka/n/n4d4c571d235c


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水月あす薫SIRIUS
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