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トンニャン過去編#4 クック

※この物語は「阿修羅王」編・「アスタロト公爵」編の本編であり、さらに昔1970年代に描いたものを、2006年頃に記録のためにPCに打ち込んでデータ化したものです。また、特定の宗教とは何の関係もないフィクションです。

少女はオーラを促して自ら籠に乗り込むと、若者達に担がれて山に向かった。その後を様々な供物を持つ人々が後に続いた。

少女の姿が見えなくなると、村人は皆、家に戻っていった。

広場には呆然と立ち尽くすクックがいた。

「クック」

名前を呼ばれて、クックは我に帰った。

「オーラ・・」

クックはすべき事に気づくと駆け出した。

「待って!クック!」

オーラが涙を浮かべて立っているのが、胸に浮かんで消えた。


山の頂は、ポッカリと穴のあいた火口が、釜のように熱いものを吹き上げていた。人々が供物を火口に捧げた。少女が飛び込めば儀式は終わる。少女は籠から降りて、火口に飛び込むために一歩踏み出した。


「待て!」

声とともにクックが飛び出してきた。

「死んではいけない」

少女はチラリとクックを見て微笑んだが、再び火口に向き直った。そして、今まさに飛び込もうとする瞬間、クックは人々の手を振り切って少女に飛びついた。二人の足元の地盤が崩れ、身体が宙に舞った。

「きみが・・・好きだ」

落ちる瞬間、クックは少女の耳元でささやいた。

「私も・・・」

二人は抱き合うようにして落ちていった。


突然火口から火が吹き出し溶岩があふれ出した。人々は慌てて逃げ、村へ戻ると村中が遠くに逃げ出した。できるだけ遠くに。

「あ・・・あれは何だ?」

人々は逃げながら、噴火する火口を見た。

「あ・・・あれは鳥じゃ。火の・・・鳥じゃ」

火口から炎に包まれた鳥が現れた。老婆は火の山に向かって、呪文を唱えた。鳥は火口の周りを何度か回ると、どこかに飛び去った。鳥が去ると噴火が治まり、人々は息をついた。

「新しいお告げがあった。あの鳥は、神の使いじゃ。生贄という習慣をやめよ、とのお告げじゃ。あの娘は、火の鳥だったのか・・・」

それからその村では生贄の習慣をやめた。それ以来山も怒る事がなかったという。

やがて人々はしだいに占いを信じ、祀りを司る巫女がそれを行い、国家権力を独り占めしていく。



ルシファーは自分の城で、彼の友人と会っていた。友人は壁にもたれ、顔を伏せている。

「トンニャン」

トンニャンが顔を上げると、その顔は涙で濡れていた。

「どうしたんだろう。涙が流れて止まらないのだ」

「それは、愛というものだよ。わたしは天使だった時、愛に触れたことがある。あのクックという人間の少年に、恋をしてしまったんだよ。でも、彼は死んだ。きみを助ける為に。だから、涙が止まらないのだ」

トンニャンは、じっとルシファーの話を聞いていたが、やがて口を開いた。

「そう・・・かもしれない。彼を愛してしまったのかも。ルシファー、きみに教えられるのは二度目だね。一度目は神と悪魔の戦いの時、命あるものは、すべて意志を持って生きている、と教えてくれた。そして今度・・・ありがとう」


世界各地で火の山に火の鳥がいるという伝説がある。人はそれを鳳凰と呼び、フェニックス(不死鳥)と呼び、ファイヤーバードと呼ぶ。少女トンニャン、彼女と鳥との関係にさだかなものは何も無い。

謎の少女トンニャン。永遠の命を持つ彼女は、我々の想像を悠に超えて、今日もどこかで息づいている。

ありがとうございましたm(__)m

トンニャン過去編#4 クック

余談
昔から鳳凰が好きで、鳳凰については昔から何かしら描いています。
この話を考えた時、私はまだ、手塚治虫の「火の鳥」を知りませんでした。手塚の火の鳥の壮大な物語に出逢うのはもっと後のことです。
この話は、もう何十年も昔の、子供だった頃の私の作品です
今回、データをUSBメモリーから取り出して、「こんなの描いたんだ」と改めて思いました。
また、占い老婆が「少女は神だ」というようなことを言っていますが、老婆は人間であり、トンニャンの真実などわかりません。
作者ですら知らないのですから。
しかし、過去の記録をデータ化したものなので、表現はそのままにしました。


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#5へ続く
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