見出し画像

元祖 巴の龍(ともえのりゅう)#11

菊之介の背後には、威嚇するように低く唸り声をあげている子供の狼がいる。

「こやつ、悪さばかりしおって。我らの食料を奪うのみならず、昨夜は我らの寝こみを襲うたではないか。殺らなければ、我らが殺られる
大悟はずいと体を前に出し、菊之介を押しのけようとした。

「兄上、この子の後ろをごらんください。母親が怪我をして動けないではありませんか。
これは人の罠によるものです。このような幼い狼が、自分で狩りをして生きられるでしょうか」

大悟は子狼に近づき、膝を折ってその母を見た。母親の足には、確かに罠が食い込んで、足元は壊死を起こしかけている
「菊之介、そいつを押さえていろ」

大悟は子狼を菊之介に投げつけると、太刀を抜いて振り下ろした。
ガチャリ!
罠の鍵が壊れる音がした。

大悟は罠を取り除くと、竹筒を開けて傷口を水で洗った。さらに手持ちの薬草を擦りこんだ。
「これでいいか」

ぶっきらぼうに菊之介の方を振り向く大悟。
「あ・・・兄上。ありがとうございます」

 菊之介は言うが早いか、大悟の腰に下げてある干し肉などの保存食を根こそぎ奪うと、狼の前に置いた。
母も子も、戸惑っている様子だ。しかしもっと戸惑っているのは。

「何を考えているのだ、菊之介。いつも食料が手に入るとは限らんのだぞ。それを!」
大悟が声を上げると、菊之介は声を落とした。
母上が心配でなりませぬ

「何を言い出すのだ」
わたしを逃がした後の母上のことでございます。親を持つ者の命は絶てませぬ

「だからと言うて・・・」
そこまで言って大悟は頭を掻いた。

「おう、おう。わかったわい。おまえには負けた。好きにするがよい」
 大悟はくるりときびすを返し、狼の穴を出て行った
大悟は戻らなかった

日が落ちる頃には、さすがに菊之介も不安になった。もう戻って来ないつもりでなのか。
菊之介を見限ったのではあるまいか

続く
ありがとうございましたm(__)m

【「炎の巫女/阿修羅王」全国配本書店名はこちら
https://note.com/mizukiasuka/n/ne4fee4aa9556 】
そして、またどこかの時代で

次回 元祖 巴の龍#12はこちらから
https://note.com/mizukiasuka/n/n0f480013810d

前回 元祖 巴の龍#10はこちらから
https://note.com/mizukiasuka/n/n24b04d790d26

元祖 巴の龍 を最初から、まとめて読めるマガジンは、こちらからhttps://note.com/mizukiasuka/m/m19d725f12ae1

「巴の龍」(「元祖 巴の龍」の後に書きなおしたもの、一話のみ)はマガジンこちらから


もしよろしければ、サポートしていただけると嬉しいです。いつも最後までお読みいただき、ありがとうございますm(__)m(*^_^*)