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トンニャン過去編#80 ピエール・オーギュスタン(原題「ファイヤーバード」)

※この物語は「阿修羅王」編・「アスタロト公爵」編の本編であり、さらに昔1970年代に描いたものを、2006年頃に記録のためにPCに打ち込んでデータ化したものです。
話の位置は「アリスの巻」の次。「ピエールの巻」のような意です。
また、特定の宗教とは何の関係もないフィクションです。

「ヘスターね、今日、チェリーからその事で話があると思ってたみたい。でも、何も言ってこないから、私の所に来たのよ」
チェリーは乾いた喉から、振り絞るようなつばを飲み込む。
「あの子、私を何だと思っているのかしら?いかにも私がニコラスを
誘惑でもしたみたいに・・・」
コーラは興奮にまかせてしゃべり続けている。
 
「ニコラスに近づかないで、ですって。笑わせるわ。誰が年下なんて!」
チェリーは、昨日からの一連の出来事をコーラに話そうとした。しかし・・・。
「チェリー、ヘスターにハッキリ言っておいてね。私、あんな子興味ないって。いいわね?」
コーラは言うだけ言うと、さっさと自分の部屋に入ってしまった。またしてもチェリーは、コーラと話す機会を失ってしまったのだ。
 
 
「私ならわかると、彼はそう言ったのね?」
チェリーは、今日の出来事をトンニャンに話している。
「教えてほしいの。ニコラスにとりついているのは何者なの?」
トンニャンは目を伏せた。それからおもむろに立ち上がると、窓際に行って外を見る。
「もう、春ね」
チェリーもトンニャンの横に立って外を見る。
「えぇ、春ね。でも、それがどうしたの?」
 
トンニャンは外に向けた視線をチェリーに向けた。その時、女であるはずのトンニャンが、男に見えてきた。
チェリーははにかみながら、少し頬をピンク色に染めた。恥らう気持ちが自然と生まれ、トンニャンの視線を真っ直ぐ受け止められず、目を伏せた。
「私の質問に、答えてよ・・・トンニャン」
自分の声が恋人にでも言うような甘いささやきに聞こえて、チェリーは戸惑った。
「彼は、わたしならわかる、とそう言ったのだな?」
トンニャンの声は少年のそれになっている。チェリーは少し視線を上げて、彼の顔を盗み見る。
「はい・・」
従順に答えるチェリーの眼には、少年の姿をしたトンニャンが映っている。
 
「・・・リオールだ」
トンニャンが、つぶやくように言うと、チェリーはピクンと体を震わせた。
「トンニャン・・・リオールって、あの・・・」
トンニャンは深くうなずいた。
「ど・・・どうして、彼が。ニコラスにとりつくなんて・・・」
チェリーはグラリと身体が揺らぐのを感じた。トンニャンは、その腕にチェリーを受け止めると、ソファーに連れて行って座らせた。

「トンニャン、コーラには何て言えばいいの?」
トンニャンは首を振った。
「自分で気づくまで、放っておくしかないだろう。コーラも魔女のはしくれだ」
チェリーはふっと意識が遠のいてゆくのを感じた。
二〇〇七年平成十九年九月九日(日)朝四時(原文一九七七年八月)

続く
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トンニャン過去編#80 ピエール・オーギュスタン(原題「ファイヤーバード」)

※トンニャンの口から「リオール」という言葉が出ました。リオールは未来の・・・・
20年以上の時を経たトンニャンシリーズ、「悪熊皇太子リオール」こちらから

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次回トンニャン過去編#81 ニコラス・ボニファキウスへ続く
https://note.com/mizukiasuka/n/n551f0ed9ff52

前回トンニャン過去編#79 ピエール・オーギュスタンはこちらから
https://note.com/mizukiasuka/n/nc359b19ad0cb

■トンニャン過去編#1最初から
https://note.com/mizukiasuka/n/n32aa2f7dc91d

※トンニャン過去編 全部読めるマガジンはこちらから
https://note.com/mizukiasuka/m/me347e21d7024

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