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そぼ降る雨が少女の体を容赦なく濡らしていた。 北燕山(ほくえんさん)の奥深く、 人も通わぬ 獣道で、少女は泥にまみれ 着物をひきずるようにして歩いていた。 杉木立が生い茂り、遠く近く 獣の鳴く声が響いてくる。 少女は足を止めず、ひたすら歩く。 よく見ると着物は ところどころ破け 長い髪も雨に濡れて 顔にべたりとはりつき そして その顔を見た者は 誰もが生気のなさに驚くだろう。 雷鳴がとどろいても 少女は足を止めない。 少女の視線が稲光をとらえた。 「
晃二の家にカオルがやってきたのは、 もう一年ほど前になろうか。 ある日突然 父がカオルを連れて 帰って来た。 その日は雨が降っていて、 玄関先でたたずむカオルは心なしか髪が濡れて すねたような横顔は、びっくりするほど 美しかった。 当時受験生だった晃二は、 戸惑いながらも父とカオルを中に入れた。 リビングのソファーに座ると父は 「今日から一緒に暮らす。」 と言い、晃二をますます混乱させた。 いったい何が起こったというのか。 母が亡くなって十年余り、
カオルがやって来たばかりの頃、 カオルの前では ついドギマギしたり、 しどろもどろになったり、 頭で男とわかっていながら なかなか すぐには信じられなかった。 洗面所で、偶然風呂上りの カオルの裸を見る機会があったとしても、 その体が どう見ても自分と同じ構造であることを 目の当たりにしても、 それでもカオルの顔を見ると どうしても男とは認識できなかった。 おかげで受験は散々だった。 第一志望の高校を落ちて、 すでに第二志望の高校も落ちていたので
「わかったよ、やっぱ似合わね~よな。」 女装のまま、カオルはいつもの口調にもどった。 「ま、この格好は趣味っていうか、ストレス解消かな。 一回やってみたら、おもしろくなってさ。 でも、なんでだろうな。 こうしてると、いつのまにかオネエ言葉になるんだよなぁ。 杉原さんのことも、名前で呼びたくなってさ。」 言葉がもどっても、晃二はドキドキしたままだ。 いや、女装してなくたって、 いつもカオルにときめいていた。 はじめて会ったときから・・・。 「杉原さんは晃二
「晃二ってこうやって見ると 杉原さんによく似てるよな。 やっぱり 親子だな。」 カオルがこう言いながら晃二の顔を見つめるのは、 珍しいことではなかった。 時々 ふとまじめな顔をしながら、 しげしげと見続けるのだ。 たぶん、はじめてこの家に来た時から 何かにつけて晃二を見つめ、 そして必ず、父に似ている、と繰り返すのだ。 父に気があるのだろうか。 晃二はそのたび、そう思った。 だからこそ、二人の関係をつい 疑いたくなる。 いったい何の関係もないカオルを
最初晃二はカオルに遠慮がちだった。 まるきりの他人が急に一緒の暮らし始めたのだから すぐうちとけられるはずがない。 まして二人は初対面。 晃二にとっても理由を知らされずに 同居人が増えたのだから、 どう対処して良いのかわからなくて当たり前だ。 だが意に反して、カオルはくったくがなかった。 初めから晃二を『コージ』と呼び、自分のことも 『カオルでいい』と言った。 年は晃二より四つ年上で、 高校を卒業したばかりだった。 カオルの前で上がってしまうのは一年た
遠くで家のチャイムの音が鳴ったような気がした。 それは長い間隔で二回、 それから けたたましく続けて鳴った。 晃二は夢から急にさめたように飛び起きた。 となりには まだカオルが けだるそうに 横たわっている。 あわてて服を身につけると、一階に下りた。 ドアを開ける前に玄関の鏡が目にとまり、 あわただしく身づくろいして、身を整えてドアを開けた。 「な~んだ、いたんだ。 いないかと思って、帰ろうかと思ったぞ。」 顔をふくらませて立っていたのは クラスメイ