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さらに十年の時が過ぎRP7型ロボットは地上から消えた。 竜次をのぞいては。 耀子の元に父危篤の知らせが入った。 耀子は竜次と二人、三十八年ぶりで我が家を訪れた。 耀子は五十を越えていた。 そして十二の時家を出て以来の父との再会だった。 葛城博士は自分の研究室で、医師と看護師に付き添われ 眠っていた。 耀子が来たのに気づくと、医師はすぐに近づいてきた。 「葛城耀子さんですね?」 耀子はうなずいた。 「どうしても入院を拒否されて、この研究室にベッドを 運ん
今から四十六年前、耀子は四歳だった。 母は二人目の子を宿し出産したが、ひどい難産で 男の子出産後、間もなく他界した。 子供も弱弱しく死産でなかったのが不思議なくらいだった。 医師は延命治療を施そうとしたが、 葛城博士は妻とともに看取りたいと希望し、 その日のうちに自宅に連れ帰った。 子供は竜次と名づけたが、やはり何日と持たなかった。 まもなく妻とともに火葬し、妻とともに葬った。 しかし、医師には竜次は生きている、と嘘をつき 誕生後ギリギリで出生届を出した。
葛城博士の葬儀の後、 耀子と竜次は住み慣れたマンションを出て 自宅に戻って来た。 耀子はすでに博士と呼ばれるようになっていたし、 介護ロボット、災害救助ロボット、家事ロボットと、 数々の発明品を世に送り出していた。 竜次のように人型で、プログラムにより 人間のように行動するロボットは製造禁止されていたが、 それ専用に使役される実用型ロボットは 人間たちになくてはならないものとなっていた。 耀子は父と同じようにこの家で研究を続け、 誰にも邪魔されず、竜次と
「耀子博士の葬儀の後、弟として全財産を相続したあなたは、 この屋敷の売却を決めましたね。 そして、寄付する先も決めると解体日を決め、 自分がRP7型ロボット・リュージであることを公表し、 自ら命を絶つことを宣言しました」 「RP7型ロボットの粛清は有に四十年以上も前だったため、 国もむりやりあなたを壊すことではなく、あなたの意思どおり この屋敷で朽ちることを認めた。 そうですよね?」 私は確かめるようにリュージを見た。 「その通りです。 ・・・すみません
「私は竜次さんには感情があったと思います。 大学時代の友人に会った時や、亡くなったあなたのおとうさん 葛城博士に年をとるマシンを作るよう頼んだこと、 されから最後にあなたに『死んでほしい』と言わせたこと・・・ 感情があり、あなたを愛していたのだと思います。 それから亡くなった葛城博士は、あなたの将来を心配して 竜次さんをプレゼントしたのではないかしら」 私はバッグから小さなICチップを出した。 「これは竜次さんが亡くなった時、頭皮をはがして 中からひとついた
『比留川(ひるかわ)』 その表札を見た時、勢(せい)は にわかに不安になった。 気づいていなかったわけではない。 気づかないふりをしていたのだ。 心に湧き上がる疑問を言葉にするのが恐ろしく、 聞けなかっただけなのだ。 だが、ここにきて、いやすでに家の前に来て、 やはり勢は、ドアフォンを押すのをためらった。 「パパ。タカネせんんせ~んち、ここなの?」 まだ幼い更冴(さらさ)は、今日という日を楽しみにしていた。 何日も前から、保育園から帰るとカレンダーを
「や・・・やぁ・・・。」 気の抜けたような勢(せい)の挨拶。 更冴(さらさ)は ぴょんぴょんジャンプしながら、門扉をカチャカチャ鳴らした。 タカネはエプロン姿に身を包み、サンダル履きで玄関を出てくると、 小さな門扉を開いた。 「こんにちは!」 更冴は大きな声を上げると、タカネに飛びついた。 勢は あわてて更冴を引き離し、自分で抱き上げた。 「ごめん。保育園のつもりしちゃって・・・」 タカネは軽く首を振ると、玄関を開いて中に招き入れようとした。 しかし、勢の
「パパって、子供すきだったのかしら?」 タカネは不思議そうに自分の父である、男の後ろ姿を目で追った。 それから今さら気づいたように、勢(せい)の方を振り返った。 「更冴ちゃん、パパのこと気に入ってくれたみたいね。 勢も入って」 勢は それでものろのろと玄関の中に入り、 靴もタカネがいら立つくらいにゆっくりと脱いで、 さらに踏みしめるように一歩一歩玄関マットに足を置き、 揃えられたスリッパも やっとの思いで履き終えた。 タカネは辛抱強くそれを待ち、どうぞ、とい
「パパ、紹介が遅れてごめんなさい。 沓澤 勢(ふみさわ せい)さん、それから更冴(さらさ)ちゃん。」 「沓澤です。」 勢が頭を下げたので、更冴は小首をかしげながら それに習った。 「勢、私の父」 「・・・比留川(ひるかわ)です。 いつも 娘がお世話になっているようで・・・」 男・タカネの父である比留川は、額にシワを寄せ、気難しい顔を勢に向けた。 だが、すぐに更冴に向き直ると、腰を落とし更冴の目線で話しかけた。 「更冴ちゃん、庭を見てみようか」 「見る~ 見
「それで?」 「驚いてたけど、もう来ることになってるから、とにかく会うだけ会うって」 「そう」 勢(せい)の中に複雑な思いがよぎった。 比留川(ひるかわ)のその時の驚きは、おそらくタカネの想像以上のものだったに違いない。 勢の顔に暗い影が射したので、タカネは勢の手を握って来た。 「勢、大丈夫よ。大切なのは私達の気持ちなんだから。 私達、もう何度も話し合ったでしょう。 私、ちゃんと更冴ちゃんのママになる覚悟できてるのよ。 確かに私達、まだまだ若いけど、三人で新
勢(せい)とタカネが知り合ったのは一年半ほど前のことだ。 更冴(さらさ)の保育園に、タカネが大学の教育実習生としてやってきた。 更冴は最も長い延長保育の子供だった。 いつも一番最後に勢が迎えにきた。 あまりに勢が若いので、最初タカネは、年の離れた兄か、と思ったようだ。 しかし園の先生たちから、父親であること、 大学に通いながら更冴を育てていることなどを聞かされた時には もう二週間が過ぎていた。 タカネが大学にもどると、更冴は元気をなくしているようで、毎日 「