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短編小説、物語いろいろ

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「巴の龍(ともえのりゅう)」「love's nigt」「ある独白(我が永遠の鉄腕アトムに捧ぐ)」「カオル」「甲斐くんの憂鬱」続々増えるよ
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2021年12月の記事一覧

ある独白#21

さらに十年の時が過ぎRP7型ロボットは地上から消えた。 竜次をのぞいては。 耀子の元に父危篤の知らせが入った。 耀子は竜次と二人、三十八年ぶりで我が家を訪れた。 耀子は五十を越えていた。 そして十二の時家を出て以来の父との再会だった。 葛城博士は自分の研究室で、医師と看護師に付き添われ 眠っていた。 耀子が来たのに気づくと、医師はすぐに近づいてきた。 「葛城耀子さんですね?」 耀子はうなずいた。 「どうしても入院を拒否されて、この研究室にベッドを 運ん

ある独白#22

今から四十六年前、耀子は四歳だった。 母は二人目の子を宿し出産したが、ひどい難産で 男の子出産後、間もなく他界した。 子供も弱弱しく死産でなかったのが不思議なくらいだった。 医師は延命治療を施そうとしたが、 葛城博士は妻とともに看取りたいと希望し、 その日のうちに自宅に連れ帰った。 子供は竜次と名づけたが、やはり何日と持たなかった。 まもなく妻とともに火葬し、妻とともに葬った。 しかし、医師には竜次は生きている、と嘘をつき 誕生後ギリギリで出生届を出した。

ある独白#23

葛城博士の葬儀の後、 耀子と竜次は住み慣れたマンションを出て 自宅に戻って来た。 耀子はすでに博士と呼ばれるようになっていたし、 介護ロボット、災害救助ロボット、家事ロボットと、 数々の発明品を世に送り出していた。 竜次のように人型で、プログラムにより 人間のように行動するロボットは製造禁止されていたが、 それ専用に使役される実用型ロボットは 人間たちになくてはならないものとなっていた。 耀子は父と同じようにこの家で研究を続け、 誰にも邪魔されず、竜次と

ある独白#24

「耀子博士の葬儀の後、弟として全財産を相続したあなたは、 この屋敷の売却を決めましたね。 そして、寄付する先も決めると解体日を決め、 自分がRP7型ロボット・リュージであることを公表し、 自ら命を絶つことを宣言しました」 「RP7型ロボットの粛清は有に四十年以上も前だったため、 国もむりやりあなたを壊すことではなく、あなたの意思どおり この屋敷で朽ちることを認めた。 そうですよね?」 私は確かめるようにリュージを見た。 「その通りです。 ・・・すみません

ある独白#25 最終回

「私は竜次さんには感情があったと思います。 大学時代の友人に会った時や、亡くなったあなたのおとうさん 葛城博士に年をとるマシンを作るよう頼んだこと、 されから最後にあなたに『死んでほしい』と言わせたこと・・・ 感情があり、あなたを愛していたのだと思います。 それから亡くなった葛城博士は、あなたの将来を心配して 竜次さんをプレゼントしたのではないかしら」 私はバッグから小さなICチップを出した。 「これは竜次さんが亡くなった時、頭皮をはがして 中からひとついた

Love's night #1

『比留川(ひるかわ)』 その表札を見た時、勢(せい)は にわかに不安になった。   気づいていなかったわけではない。 気づかないふりをしていたのだ。 心に湧き上がる疑問を言葉にするのが恐ろしく、 聞けなかっただけなのだ。 だが、ここにきて、いやすでに家の前に来て、 やはり勢は、ドアフォンを押すのをためらった。 「パパ。タカネせんんせ~んち、ここなの?」 まだ幼い更冴(さらさ)は、今日という日を楽しみにしていた。 何日も前から、保育園から帰るとカレンダーを

Love's night #2

「や・・・やぁ・・・。」 気の抜けたような勢(せい)の挨拶。 更冴(さらさ)は ぴょんぴょんジャンプしながら、門扉をカチャカチャ鳴らした。 タカネはエプロン姿に身を包み、サンダル履きで玄関を出てくると、 小さな門扉を開いた。 「こんにちは!」 更冴は大きな声を上げると、タカネに飛びついた。 勢は あわてて更冴を引き離し、自分で抱き上げた。 「ごめん。保育園のつもりしちゃって・・・」 タカネは軽く首を振ると、玄関を開いて中に招き入れようとした。 しかし、勢の

Love's night #3

「パパって、子供すきだったのかしら?」 タカネは不思議そうに自分の父である、男の後ろ姿を目で追った。 それから今さら気づいたように、勢(せい)の方を振り返った。 「更冴ちゃん、パパのこと気に入ってくれたみたいね。 勢も入って」 勢は それでものろのろと玄関の中に入り、 靴もタカネがいら立つくらいにゆっくりと脱いで、 さらに踏みしめるように一歩一歩玄関マットに足を置き、 揃えられたスリッパも やっとの思いで履き終えた。 タカネは辛抱強くそれを待ち、どうぞ、とい

Love's night#4

「パパ、紹介が遅れてごめんなさい。 沓澤 勢(ふみさわ せい)さん、それから更冴(さらさ)ちゃん。」 「沓澤です。」 勢が頭を下げたので、更冴は小首をかしげながら それに習った。 「勢、私の父」 「・・・比留川(ひるかわ)です。 いつも 娘がお世話になっているようで・・・」 男・タカネの父である比留川は、額にシワを寄せ、気難しい顔を勢に向けた。 だが、すぐに更冴に向き直ると、腰を落とし更冴の目線で話しかけた。 「更冴ちゃん、庭を見てみようか」 「見る~ 見

Love's night#5

「それで?」 「驚いてたけど、もう来ることになってるから、とにかく会うだけ会うって」 「そう」 勢(せい)の中に複雑な思いがよぎった。 比留川(ひるかわ)のその時の驚きは、おそらくタカネの想像以上のものだったに違いない。 勢の顔に暗い影が射したので、タカネは勢の手を握って来た。 「勢、大丈夫よ。大切なのは私達の気持ちなんだから。 私達、もう何度も話し合ったでしょう。 私、ちゃんと更冴ちゃんのママになる覚悟できてるのよ。 確かに私達、まだまだ若いけど、三人で新

Love's night #6

勢(せい)とタカネが知り合ったのは一年半ほど前のことだ。 更冴(さらさ)の保育園に、タカネが大学の教育実習生としてやってきた。 更冴は最も長い延長保育の子供だった。 いつも一番最後に勢が迎えにきた。 あまりに勢が若いので、最初タカネは、年の離れた兄か、と思ったようだ。 しかし園の先生たちから、父親であること、 大学に通いながら更冴を育てていることなどを聞かされた時には もう二週間が過ぎていた。 タカネが大学にもどると、更冴は元気をなくしているようで、毎日 「