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#ギーンおのみは視察する レポVol.3 ―滋賀県のグリーンインフラと流域治水(滋賀県大津市)

関西方面への視察レポ(全3回)の最終回です!
なんとこの日は、Vol. 2で報告した兵庫県の六甲ウィメンズハウス(AM)から滋賀県庁(PM)まで同日中に大移動するという、乗り換えミスったら一発アウトの鬼畜行程でしたが、なんとか乗り切ったぜ…!


視察の概要

  • 実施日:2024年8月6日(火) PM

  • 視察先:滋賀県庁(於:危機管理センター)

  • 視察目的:滋賀県におけるグリーンインフラ推進や流域治水に関する各種施策について学ぶ

滋賀県庁での視察目的は、昨今広がっているグリーンインフラ施策、そして琵琶湖をはじめ豊かな水資源を有する滋賀県の流域治水対策について学ぶこと。土木交通部技術管理課、同じく流域政策局流域治水政策室の皆さんから、具体的な取組み事例をご紹介いただきながら、お話を伺いました。

滋賀県危機管理センター1Fの展示いろいろ

①グリーンインフラについて

グリーンインフラってなあに?

世田谷区が行った区民へのアンケート調査によると、グリーンインフラを「知っていた」人が9%、「言葉を聞いたことはあった」人が18%、「知らなかった」人が73%(!)と、グリーンインフラを内容まで知っていた人は全体の1割に満たないことが分かっています(世田谷区グリーンインフラ庁内連携プラットフォーム、2024)。

わたし自身、大学院修了後の数年間、開発コンサルタントとして環境・気候変動対策に関わっていたので「グリーンインフラ」は知っていましたが、都市レベルでの具体的な実践については、世田谷区に来るまでほとんど知らなかったです・・・

国交省は、グリーンインフラを次のように定義しています。

『グリーンインフラとは、「社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取組」である。
すなわち、社会課題の解決を図る社会資本整備やまちづくり等に自然を資本財(自然資本財)として取り入れ、課題解決の基盤として、その多様な機能を持続的に活用するものである。』

国土交通省、グリーンインフラ推進戦略2023(2023年9月)

ちなみに、世田谷区では次のような定義がされています。

『自然環境が持つ様々な機能を目的に応じて積極的かつ有効に活用することで、安全で快適な都市の環境を守り、街の魅力を高める社会基盤や考え方のこと。』

世田谷区、「せたがやグリーンインフラガイドライン(本編)」(2024年3月)

そして、滋賀県の定義はこんな感じ↓

『自然環境(滋賀の風土)が持つ自律的回復力をはじめとする多様な機能を積極的に活用し、環境と共生した社会資源整備や土地利用等を進める“一石多鳥”の取組』

視察時の配布資料より抜粋

まあ、細かい言い回しの違いはありますが、要は「自然環境が本来持っている多様な機能をどんどん活かして、色んな意味でいいまちつくろうぜ!」ってことです(雑)。
“自然環境が持っている多様な機能”とは、例えば、水害や土砂災害等に対する防災・減災機能、水源の涵養や水質浄化、CO2の吸収、食料や資源の供給、生息地・生育環境の提供、教育やレクリエーションの場と機会の提供などなど・・・とにかくたくさんあります!
国際的には、4つの「生態系サービス」として知られていますよね(※詳細は以下など参考にしてください)。

グリーンインフラは、従来のグレーインフラ(=人工構造物を中心とするインフラ整備の在り方)一辺倒だった街づくりを転換し、こうした自然環境の多様な機能を活かして、防災・減災、地域振興、環境保全を進めようとする取組みといえます。

日本では、2015年に仙台市で開催された第3回国連防災世界会議をきっかけに、グリーンインフラが初めて「第二次国土形成計画」(平成27年8月閣議決定)の中に盛り込まれていくことになりました。その翌年に発生した熊本地震を経て、国交省の政策担当中心に産官学連携での検討が始まり、いまやグリーンインフラは大きな政策的潮流となっています。

なんだか目新しい取組みのようにも見えますが、滋賀県流域政策局流域治水政策室の方は、『グリーンインフラは、新しい考え方というよりも、すでにそこにあったものの“新しい見方・言い方”に過ぎない』という点を強調されていました。
重要なのは、自然環境が有する機能を引き出し、地域課題に対応していくことを通して、持続可能な自然共生社会の実現や、国土の適切な管理、質の高いインフラ投資に貢献していくこと、と仰っていました。
この点はわたしもなるほど、と思いました。都心部なんかで、大規模開発をしながら壁面にちょこっと緑生やして「グリーンインフラ✨」みたいに言われると、モヤッとするあの感じに対する一つのアンサーな気がします。

グリーンインフラの取組み事例

滋賀県では、県内の様々な取組みを「グリーンインフラ事例集」にまとめているようです。中には面白い取組みもあったので、ぜひ見てみてください。

個人的には、多様な主体の協働による「小さな自然再生」によって、愛知川におけるアユ・ビワマス等の回遊性魚類の遡上環境を回復するプロジェクトに関心を持ちました。事業手法として、SIB(Social Impact Bond、ソーシャルインパクトボンド)が活用されている点が興味深いです。SIBは、官民連携による社会課題解決の方法の一つで、民間団体が投資家から調達した資金をもとに公共事業を実施し、その成果に応じて政府や自治体から報酬が支払われて投資収益に反映されるスキームです。

さっと調べてみたところ、世田谷区議会でもここ数年、主にヘルスケアの分野でSIBを導入すべきではないか?との議論がされてきたようです。政府も「グリーンインフラ戦略2023」(2023年9月)の中で、グリーンインフラ推進にあたって資金調達の検討は不可欠として、カーボンクレジットの活用やグリーンボンドの導入を挙げているほか、『グリーンインフラには社会の持続性を高めるといった個別の利益にとどまらない効果があることを考えると、さらに広く市民・企業から資金を調達するための手法についても議論していくことが必要である』(P. 14)としており、地域に根差した多様なステークホルダーと連携したSIBの取組みは、一つの選択肢になるのではないかと思いました。

愛知川での取組みについては、以下の記事が参考になりました↓

※余談:
わたしが気候変動対策業界にいた頃はちょうど、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures、気候関連財務情報開示タスクフォース)の最終報告書が公表され、日本でも大手企業を中心にTCFD提言に基づいた対応が要請されていた時期で、シナリオ分析のワークショップなどが盛んに行われていました。
あれから数年が経ち、いまや世界的な潮流は、気候関連財務情報の開示だけでなく、「自然関連財務情報開示(Nature-related Financial Disclosure)」が求められるようになってきています。つまり、企業が投資家に対して財務情報を開示する際に、自社の事業活動が自然環境や生物多様性とどのように関連していて、どのようなリスクや機会を与えるかを評価・報告することが推奨されているのです。
こうした大きな動きを踏まえて、今後のグリーンインフラ推進にあたってはその評価の在り方や資金調達方法を検討していく必要がありそうですね…

②流域治水について

さて、話がだいぶ逸れましたが、滋賀県ではグリーンインフラも進めつつ、「流域治水」に積極的に取り組んでいるそうです。
流域治水対策の目標は、①どのような洪水にあっても、人命が失われることを避ける(最優先)、②床上浸水などの生活再建が困難となる被害を避ける の二つ。
そのための手段として、従来の「ながす」(=河道内で洪水を安全に流下させる)ことに加え、「ためる」(=調整池や森林、水田等によって河川への流入量を減らす)、「とどめる」(=堤や樹林、土地利用規制等によって氾濫流を制御・誘導する)、「そなえる」(=地域の防災力を向上する)といった対策を総合的に推進することを掲げています。

他方で、東京都の取組みも大枠ではこれに類似する部分もあるのかな、と思いました。「東京都豪雨対策基本方針(改定)」(2023年12月)によると、目標降雨に対して、主に「河川整備」「下水道整備」「流域対策」で浸水被害を防止し、目標を超える降雨に対しても、「家づくり・まちづくり対策」「避難方策」を加えた5つの施策を組み合わせて備えます…!いうてるし。

  • 河川整備、下水道整備=「ながす」「ためる」

  • 流域対策、家づくり・まちづくり対策=「ためる」「とどめる」

  • 避難方策=「そなえる」 みたいな感じで。

「東京都豪雨対策基本方針(改定)」概要版より抜粋

ちなみに、世田谷区を含む23区特別区の場合、河川や下水道の整備は東京都の管轄。そのため、区内の一級及び二級河川の整備・管理は、多摩川を除いて基本的に東京都の役割となっている一方、草刈り等の日常の維持管理については、世田谷区の役割となっています。
豪雨対策についても、都と区が連携して進めることになります。

「世田谷区豪雨対策行動計画」(改定)(2022年3月)P. 9より抜粋

※世田谷区の場合、豪雨対策の文脈では、グリーンインフラは「流域対策」の一環として位置付けられているようです。

視察の最後に、本来あるべき治水対策とは何だと考えていますか?という質問がされました。これに対して、『これまではまちづくりが優先で、それにいかに川を合わせるか考えてきた。しかし今後は、豪雨対策を前提とした上で、まちづくりはどのようにあるべきかを考えていく必要がある』との回答がありました。当たり前のようで、とても重要な視点だと思いました。

世田谷区への提案として参考になりそうなこと

今回の視察を機に、改めて東京都や世田谷区の豪雨対策やグリーンインフラ施策について調べてみましたが、グリーンインフラはあくまで豪雨による水害対策のための一方策、ついでにみどりの保全やヒートアイランド対策にもなるよね!という程度にとどまっているように感じられました。
もちろん、それにも一定の意義は認めますが、本当にそれだけでいいんでしょうか…?

先日参加した、砧地域での「都市整備方針(地域整備方針)の見直しに伴うたたき台意見交換会」で、ある区民の方がお話しされていたことが印象に残っています。

『区がグリーンインフラを進めることは否定しない。でも、同時にわたしたちの周りにはたくさんの道路予定地があり、コンクリートが敷き詰められている。コンクリートを敷き詰めては剥がしての繰り返し。あまりに無駄だし、その在り方から見直すべきではないか』

・・・いや、ほんとその通りすぎる。
例えば、ニューヨーク市では、市民団体から道路の目的を抜本的に転換する提案がされています。道路は車両の優先通行権が設定された領域であるという従来の一般常識から脱却し、道路は洪水を防ぎ、気候変動に適応し、代替する交通手段と物流をサポートし、経済機会へのアクセスを拡充することで、公益を向上させる“コモン”(共有財・公共財)として再定義することができるのではないか、という主張です。

気候危機への対応はまじで待ったなしの状況です。そうした状況下で、グリーンインフラを推進するというのであれば、単なる豪雨対策や緑化のための一方策としてのみならず、これを一つのきっかけとして、わたしたちが生きる都市の姿、街づくりの在り方を根本から見直していくべきではないかと思っています。これこそ、区民の『参加と協働』で考えていくべき領域ではないでしょうか。
ぜひ区には、具体的な取組みを一層加速化させることと同時に、こうした視点も持ってもらえるように議会でも提案していきたいと思います。

帰りの電車に飛び込む前に、1時間だけレンタサイクルで琵琶湖を回りました。
宍道湖との見分けがつかなかったです。



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