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論文の探し方(情報系)

研究をはじめるときにまず行うことは、研究テーマに関連する論文を探すことです。そこで、今回は、私が新しい研究テーマに取り組むときに行っている論文の探し方を紹介したいと思います。あくまで、情報系の論文の探し方なので、分野によっては全く別の探し方の方が適している場合があるかもしれないので、参考程度に。

Google Scholarを使う

何か情報を探すときは、検索エンジンです。普段は、Google検索を使うことが多いですが、論文を検索するときは、論文検索に特化した検索エンジンGoogle Scholarを使います。

たとえば、ALIFE分野で比較的長い研究の歴史がある「仮想生物」に関する論文を探してみましょう。一言で「仮想生物」に関する論文といっても、何千、何万という論文があります。そこで、研究の初期段階ではどんな論文を探すかというと、このテーマで多くの論文に引用されている、その分野を代表する論文です。

分野の代表的な論文を探す

なぜ分野を代表する論文をまずゲットしたいかというと、もちろん分野のさきがけとなった論文を抑えておきたいというのもあります。が、もっと重要なのは、テーマに関連する他の論文を芋づる式に調べられるからです。

これまでの経験上、どんな研究テーマでも、これまで誰もまったく考えたことがない課題(そんな課題があるかどうかは別として)でもない限り、必ずその分野の「古典」的な論文があります。

たとえば、ALIFEの「仮想生物」に関する研究では、Karl Simsが1994年にSIGGRAPHという国際会議で発表した「Evolving Virtual Creatures」という論文が古典的な論文に相当します。そのため、ALIFE分野の仮想生物に関するほとんどの論文で、必ずといっていいほどこのSimsの論文が引用されています。

そして、分野の「古典」となっている論文を探し出すことができれば、他の関連論文も探すことができます。

DeepLで訳しながら英語論文を5本〜10本眺める

これまでの経験上、英語論文を5本〜10本ほど眺めれば、その分野を代表する論文が何かを知ることができます。ここで、「英語かー」と思うかもしれませんが、日本語よりも英語で探した方が、確かな情報を得ることができます。それは、英語の方が圧倒的に情報量が多いからです。

一昔前は、翻訳ソフトの精度がそれほど良くなかったため、苦労して英語を読まなくてはいけなかったのですが、最近は「DeepL」といった素晴らしいツ翻訳精度の高いツールがあります。がんがんコピペしてDeepLで訳しながら読むことで、英語の論文でも翻訳に時間をかけず情報を得ることができます。

では、まずGoogle Scholarを使って、まず5本のALIFEの「仮想生物」に関する論文のPDFをゲットしましょう。英語で論文を探したいので、「virtual creatures」と「artificial life」をキーワードに検索します。

Google Scholar の「virtual creatures」と「artificial life」の検索結果

ここで、検索ボックスにキーワードと共に「filetype:pdf」 と入力して、検索対象をPDFのみに限定している点に注意してください。このように指定すると、PDFファイルのみが検索結果に表示されます。

論文から重要な引用文献を探す

そして、検索結果の中からおさえたい論文を探します。ここでは、単純に上からみていくのではなく、引用元の多い順にみていきましょう。
「引用元」とは論文が他の論文から引用された回数です。たくさん引用されている論文ほど信頼度が高い論文の目安となります。検索結果のスニペット(ページの説明文)の下に、「保存」、「引用」、「引用元」、「関連記事」と表示されている中で「引用」の横にある数字が「引用回数」を表しています。

検索結果の1ページ目から、引用元が多い順に取り出したのが次の5本の論文です。


5本の論文PDFをダウンロードしたら、一つひとつの論文の「Introduction(はじめに)」あるいは「Related Works(関連研究)」というセクションを読んでいき、これら5本の論文で共通して引用されている論文を探します。共通して引用されている論文は、分野の代表的な論文である確率が高いからです。

まずひとつ目のPDF「Breve: a 3d environment for the simulation of decentralized systems and artificial life」のIntroductionで文献情報が出てくる段落をコピペして、DeepLで訳します。

DeepLでの訳文

ちなみに、PDFからコピペすると、余計な改行が入ってしまいます。自動的に除去してくれる方法がさまざまにありますので、たとえば、以下のページを参考にして、余計な改行を取り除いてからDeepLにかけましょう。

Introductionを見ていくと(Gardner 1970)、Ray (1992)、Lindgren and Nordahl (1994)、Sims (1994)、Lipson and Pollack (2000)、Yaeger (1993)が引用文献を表しています。たとえば、Sims(1994)Lipson and Pollack(2000)が引用されているDeepL訳は以下のようになります。

Sims(1994)は、現実的な物理学的環境を用いて、歩行、水泳、競争が可能な3次元生物を進化させることに成功した。Lipson and Pollack (2000)はこの手法をさらに進め、物理的にリアルな移動ロボットをシミュレーションで進化させ、実世界でその複製を作成することに成功した。

これらの論文の詳細は、論文の最後のReferencesというセクションに載っています。たとえば、Sims(1994)の論文情報は以下の通りです。

Sims(1994)文献情報

同様の作業を、他の4つの論文に対しても行い、文献情報をゲットします。

2つ目のPDF「Artificial life through evolutionary computation」は、4ページの短い論文で、引用文献も4つしかありません。1つ目の論文に出てきたSimsの論文も含まれています。これら全てをメモしておきます。

2本目の論文・引用文献情報

3つ目のPDF「Sodarace: Adventures in artificial life」は、本のチャプターの一部のようです。全部の文章を読むには、購入しないといけないようなので、とりあえずパスします。

4つ目のPDF「Soft-body muscles for evolved virtual creatures: the next step on a bio-mimetic path to meaningful morphological complexity」のIntroductionで引用されている論文をチェックしてみると、まず(Sims, 1994b)と、ここでもSimsの論文がまず引用されています。また、固い素材を使った仮想生物の発展バージョンとして(Auerbach and Bongard, 2012)が引用され、ソフトな仮想生物の代表例として、(Rieffel, 2013; Cheney et al., 2013)が引用されています。もし、行いたい研究がソフトな素材を使った仮想生物の研究であれば、RieffelやCheny et al.の論文もチェックすべき論文としてメモしておくといいでしょう。

ここまでで、古典的な論文としてSimsの論文はマストでチェックすべき論文ということが分かります。念のため、5本目のPDFもみてみましょう。5本目の論文でもIntroductionに(Sims [1][2])とSimsの1994年の論文が引用されています。ということで、Simsの論文は必ずチェックしないといけない、この分野を代表する古典的な論文である、ということが分かります。

Researchgateで「関連論文」を探す

さて、この分野の重要な論文は、Karl Simsの「Evolving Virtual Creatures」ということが分かりました。しかし、これはあくまで、この分野の古典的な論文で、その後どのような研究が行われてきたのか、あるいは最新の研究では何が行われているかは知ることができません。

そこで、次にEvolving Virtual Creaturesを引用している論文を探します。そのために、役に立つのが Researchgateというサイトです。Researchgateでは、論文を引用している文献を知ることができます。

たとえば、「Evolving Virtual Creatures」を引用している文献をみてみましょう。まず、Researchgateで、Evolving Virtual Creaturesの論文ページを探します。

すると、ベージの中に、Citations(959)References(23)という表記があります。Citationsが、他の論文から引用された数を表しています。Simsの論文は、959回引用されています。Referenceは、この論文が引用している論文数です。Simsの論文中で23個の文献を引用しているという意味です。

知りたいのは、Simsの論文を引用している他の文献なので、Citationsをクリックします。すると、Evolving virtual creaturesを引用している959個の論文リストが現れます。

たとえば、次のような感じです。 新しい論文順に、タイトル、著者、年代、論文中で引用している前後のテキストと共に、リストアップされています。

Researchgate「Evolving Virtual Creatures」のcitation例

Evolution Gym: A Large-Scale Benchmark for Evolving Soft Robots」という論文の中で、「Evolving Virtual Creatures」を引用しているのですが、文中のどこで引用しているかも示してくれています。黄色でハイライトされているのが引用箇所です。しかも、PDF論文がある場合は、「Full-text available」と表示してくれるので、論文を読みたい場合はすぐにアクセスできます。

このように、新しい研究テーマで、研究を始めるときは、まずその分野の代表的な論文を探すことから始めます。分野の古典の論文を読んでおくことで、どのようにしてその分野が始まったのかを知ることができます。そして、古典的な論文を手がかりに、関連する論文を読んでいくことで、その後、どのように分野が発展していったかを追うことができるのです。

今回は、新しいテーマに関する関連論文を探すという設定で、古典的な論文の探し方を紹介しました。しかし、実際は、全く新しい研究をひとりで始めるという場面は少ないかもしれません。先輩や先生からこの論文を読んでみたらと紹介されることもあるかもしれません。そうしたときに、Rsearchgateでその論文を引用している論文や、古典的な論文を探して読んでみるといいでしょう。自分で関連する論文を探してみると、きっと新たな論文との出会いがあるものです。そして、そうした偶然の出会いが、思いがけない方向へと研究を導いてくれたりします。

ちなみに、古典的な論文は、一般的にcitations数も多くなりがちです。Simsの論文も1,000回近く引用されています。1,000個の文献から、次に読むべき論文を探す必要がでてきます。そういうときは、国際会議なのか、雑誌論文なのか、どこに出版されたものなのか、誰が書いたものなのか、といった情報を総合的にみて、読むべき論文を更に探していくことになります。それについては、また別の機会に書きたいと思います。

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