見出し画像

成長をうながす3つのポイント!「多様性」「違和感」「最適化しすぎない」

みなさん、こんにちは。最近、音声メディアにハマっている岡瑞起です。

ハマるきっかけとなったのは、VOOXという音声プラットフォームの収録に向けて音声メディアを聞き始めたことでした。今では移動時間は必ず音声メディアを聞くようになりました。

街でもイヤフォンをしている人ってすごい増えましたよね。それでよく思い出すのが、何年か前に公開された『her/世界で一つの彼女』(2014)という映画です。未来のAIが登場するこの映画では、音声によるコミュニケーションがメインになっている世界が描かれています。

映画が公開された2014年当時、音声の自動認識精度(特に日本語)はイマイチで実用に耐えうるものではありませんした。ニュースのようなキレイな日本語ならまだしも、日常会話のような話し言葉がきちんと認識されるようになるまでには、まだまだかかるだろうなという印象を持っていました。

それから8年。2022年9月にOpenAIがWhisperという音声認識モデルをリリースしました。68万時間ものデータを使って学習されたモデルです。68万時間というのは、1日24時間365日、喋り続けたとしても約78年にも相当する時間です。すごいデータ量ですよね。そしてこのWhisperの精度がすごいと巷で話題になっています。私も実際に使ってみたところ、会話文でも驚くほどきちんと音声を認識してくれました。

試してみたのは先日(10/13)に行ったTwitter スペースでの高橋英之さんと池上高志さんとの会話です。

音声認識の結果がこちらです。45分程度のファイルが15分で文字起こしされました。句読点は入っていないので若干読みにくいですが、その精度の良さには驚くばかりです。

・・・(省略)・・・
ブークスでは60分間のコンテンツを10分ごとに分けて大体6回のシリーズでお送りしているというコンテンツになります私は最近6月くらい前になるんですけどもAライフの入門書というのをBNNという出版社から出しましてそこで入門書と思って書いたんですけどもなかなかこの人工生命とか人工知能とかコンピュータサイエンスの分野の以外の方が読むとちょっと難しいところがあったと日間にもその本を読んでくれた友人からの何人かのフィードバックをいただきましてもう少しコンピュータサイエンスとかそういった分野にいない方でもわかりやすくAライフの面白さについて伝えたいなと思ってこのブークスというのを構成させていただきました
・・・(省略)・・・

最近のAIの進歩には本当に凄まじいものがありますね。映画『her』のような世界の到来を感じさせる経験でした。

さて、スペースで話した内容を文字起こししたかったのは、VOOXで話した内容に関する議論の中でわたしが面白いと思った3つのポイントをまとめておきたかったからです。VOOXでお話した内容は次でも簡単にまとめています。

まずひとつ目は、多様性は強い進化につながるということです。

ALIFEという研究分野のグランドチャレンジとされているのが、終わりなき進化(オープンエンドといいます)を人工的につくりだすことです。そんなオープンエンドの実現を目指したコンピュータアルゴリズムのひとつに、「品質多様性アルゴリズム(Quality Diversity Algorithm)」があります。このアルゴリズムは、ざっくり言うと全体で競争させて最も最適な方法のみを探索するのでははく、小さなグループに分けて競争する範囲を限定すると、より多様な進化が生まれるというアルゴリズムです。このアルゴリズムが示すような効果が、バクテリアにおける進化の世界でも起きているということが示されたのが、ハーバード大学による次の実験です。

この実験では、巨大なペトリ皿には濃度の異なる抗生剤が入れられています。抗生剤の濃度は両端から中央に向けて濃くなっています。つまり、中央に向かうほどバクテリアにとって過酷な環境となっているわけです。両端ではさまざまなバクテリアが進化していきますが、濃度が濃くなった部分に入るとその環境に適応できたバクテリアのみが生き残っていきます。このように進化させていくと、高濃度の抗生剤にも強いバクテリアが進化していくことを示した実験です。

この実験のポイントは、ペトリ皿という二次元の空間で相互作用するバクテリアが限られている環境を作り出しているという点です。相互作用する空間を限って、競争を小グループに分ける方が、全てのバクテリアが相互作用できる環境の中に抗生剤を垂らして進化させるより、より強いバクテリアが進化してくるのです。競争を避けることって逃げていることだと思いがちですが、そんなことなくてより強い進化を生むためのひとつの手段ということを、品質多様性アルゴリズムやバクテリアの実験は示しています。

ふたつ目は、違和感が成長や進化を促すということです。

終わりなき進化を目指したアルゴリズムの中に「環境と遺伝子の共進化」を利用したPOETアルゴリズムというのがあります。このアルゴリズムは、環境を変えることで進化を促します。同じ遺伝子でも環境によって引き出される能力が違うためです。でもなぜ環境を変えると潜在的な能力が発揮されるのでしょうか?それは、新しい環境が違和感を感じさせるからです。違和感があるというのは自分にとって新しいことです。違和感があると進化という方向に新しいパスが開けるのです。今自分の居る場所が違和感もなく心地良すぎるとなかなか成長できなかったりしますが、違和感があったり、新しいところにいくと、今までの方法が通じないという気づきや、新しいことを試さざるをえなくなり、成長や進化につながるわけです。

新しいことをすることが進化につながるという話は、終わりなき進化を目指したもうひとつのアルゴリズム「新規性探索アルゴリズム」にもつながる話です。新規性探索アルゴリズムは、目的を持たずにひたすら新しい行動をするように行動を進化させます。目的に向かってひたすら最適化していっても乗り越えられなかった壁を、新規性探索アルゴリズムでは超えることができることが示されています。

なぜ新規性が進化において重要なのか、を理解する助けになるのが、グレゴリー・ベイトソンによって唱えられた、イルカの話で知られる「第三次学習」です。

イルカに宙返りの芸を教え、宙返りをひとつ演じるごとにエサを与えます。すると、イルカは宙返り芸をするとエサをもらえるということを学習します(第一次学習)。次に、他のいくつかの芸も教え、芸をひとつ演じるごとにエサをあげて、エサという報酬のコンテキスト(文脈や背景)を学習させます(第二次学習)。さらに、エサを与える条件をどんどんと厳しくしていき、たとえば、芸を3つ続けて演じたらエサをあげるようにします。そして最後には、これまでに教えた芸と違う、新たな芸をしたときのみエサをあげるようにします。すると、イルカは手持ちのレパートリーをいろいろ試してみるようになりますが、全くエサをもらえないためどんどんと苛立っていき、ついには狂ったような振る舞いをみせます。ところがここで、イルカはこれまでのルールが通じないことを理解し新しい芸を作り出すようになるのです。これが第3次学習です。これまでのコンテキストへの囚われを振り切り、新たなレベルへと到達したというわけです。

このように今まで自分が行ってきたことをひとつの集合として捉え、その集合の外の行為をする新規性。ベイトソンの「第3次学習」によって生まれた新たな行動は、解決不可能だと思っていたことの解決につながるのです。新規性アルゴリズムは、もちろんベイトソンの「第3次学習」をアルゴリズムそのものが生み出しているわけではありません。新規な行動かどうかに基づいて次のアクションを選ぶこと、そのものは人間によって外から与えられたものです。もし、第3次学習を次々と生み出せるような仕組みそのものをアルゴリズム自身が作り出さたら、それは終わりなき進化を生み出すアルゴリズムに近づくことは間違いありません。

三つ目は、最適化しきらないことが次の進化の足がかりになるということです。

自然を観察すると、決して最も効率の良い構造を持っているわけではありません。効率がものすごく低い構造というわけでもなく、その中間くらいの効率しか持っていない。でも、だからこそ新しいものが作られる隙間がうまれ進化の足がかりになります。また、多様性も最適化しにくくなる要因のひとつですし、それも進化の足がかりになるのです。最初に紹介した品質多様性アルゴリズムによって進化が促されるのもまさに同じメカニズムです。最適な解ではないけれど多様な解をたくさん持っておきます。そうすると、そのうちのいくつかが思わぬところで良いパスとなり、新たな進化につながるのです。ですので、私たちの日常の中でも、最適化しつくすのではなく途中で止めるといったことも重要かもしれません。最適化しつくさないことが新たな可能性を生みだすのです。常にどこかに穴が空いている感じを持って、パスを開いている方が面白い人生になるのではないか。そんなことをSpaceの議論を通じて改めて感じました。

ということで、今回の記事ではTwitter Spaceの議論を通じて得た3つの気づき「多様性は強い進化につながる」「違和感が成長や進化を促す」「最適化しきらないことが次の進化の足がかりになる」について書きました。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

それでは、また!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?