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ビジネスパーソンの視点からみたALIFEの面白さ、使えそうなポイントの紹介

ALIFEという言葉を最近聞いたけど、イマイチどんな分野なのか分からない。ビジネスでの応用という視点からALIFEを理解したい。という方々に、ビジネスパーソンの視点からみたALIFEの面白さ、使えそうなポイントをお伝えしていきたいと思います。

今回の記事は、M&Aやベンチャー投資に投資に10年近く渡って携わってきたビジネスパーソンであり、私の長年の友人でもある、矢本あやさんに、ビジネスパーソンの視点から弊著『ALIFE | 人工生命 より生命的なAIへ』を読んでもらった感想を読書会という形で議論したものをベースとしています。

矢本あやさんのプロフィール
東京大学大学院卒業後、2004年リクルート入社。海外の新規事業開発を経てM&A、ベンチャー投資に携わる。2022年4月より東大医学部発の睡眠ベンチャーに転職。1女の母。

M&Aで起こる人材の多様化と成長

M&Aで企業が統合するとき、それまで、それぞれの企業の異なる文化の中で仕事をしてきた人たちが、同じ組織の中で働くことになります。人材が多様化することで、これまでの仕事のやり方が通じないことによる衝突など「ノイズ」が生まれます。成長のためには、多様性は重要と言われていますが、ノイズを生むことも事実。そう考えると、仕事の現場では、ここでM&Aすることが本当に必要なのか、遠回りにならないか、といった迷いが生じることもよくありました。

この答えのヒントをALIFE(人工生命)は教えてくれます。たとえば、ALIFEによる生態系のシミュレーションから、一見、何の利益ももたらさないような「寄生」する種が、実は回り回って、宿主の利益をもたらすような成長を生み出すことがあるということが示されています。また、目的や課題を解決するためには、すぐには役に立たないように見えるものでも、多様な種の存在が、実は目的を達成するための重要なステップとなることがあります。

多様性が生み出す衝突、M&Aでいうと異なる企業の文化がぶつかり合うことが、組織にとって成長のきっかけになることもある。ALIFEのアルゴリズムを使った実験において、システマティックに実証されていることにより、M&Aにおける衝突が結果的には、成長のために無駄ではないということが確実にあることを示唆してくれます。

切り捨てられるものの中に次の事業のヒントがある

日々、「売上ベースで行くぞ!」となっていると、営業現場が発見している「これって結構重要なニーズだよね」というのが、どうしてもどんどんと切り捨てられていく感じがあります。たとえば、売上に直結する口コミは重要だけれども、それ以外の口コミは切り捨てられてしまう。でも、おそらくこのような現場のすくわれない声の中に、次のビジネスが埋もれていることもある。でも、これは、分かりやすい単一の目的に向かって走っているときには邪魔になるため、時間を割かないことが正となる。

ひとつの目的に向かっているだけではどこかで限界に達するのではないか、環境の変化があったときには対応できなくなるのではないか、という直感的な肌感覚的が正しいかもしれないことを、ALIFEのアルゴリズムをコンピュータで走らせた結果が示しています。

具体的には、新規性探索アルゴリズムや品質多様性アルゴリズムといったALIFEのオープンエンド(=終わりなき)進化を目指したアルゴリズムです。多様な解を探索することによって、一見、ひとつの解では、目的に辿り着けないようにみえても、集団でいろいろな解を探索していると、結果的に思わぬパスが見いだされることがあるのです。

特に、品質多様性アルゴリズムは、最終的には採用されなかった提案(品質多様性アルゴリズムでいうアーカイブ)がまた再考される機会が与えられます。このアルゴリズムでは、イマイチと判断された提案に戻ることも進化のために必要なパスとするのです。

ビジネスにおける「邪魔」なものの一つに、管理コスト、自社と競合する新規事業、などがあると思いますが、まさしくこの品質多様性アルゴリズムでも、計算コストが高くなる傾向にあります(それまでの提案を捨てていくアルゴリズムと比較すると)。
しかし、前述通り、すでに消えた提案が目的に必要なパスの可能性もあるので、ビジネスにおいても、あえて意識的に無駄と思うものでもを内包する覚悟を持てるようになるといいと思います。

「点と点がつながる」

目的に直線的に向かって、ひたすら真っすぐに進んでいるときには見つからなかった解が、いろいろと回りながら進むことで解に辿り着くことがある。その途中には「このステップを経る必要があったの?!」と驚くようなステップも含まれていることがある。40歳も超えると、成功している人というのが色々なやり方で成功しているよね、と思う。「かけっこの早い人が成功者」という小学生のときの価値観から、好奇心を追求しているオタクの人、コミュニケーションの高い人など、ひたすらそれで突き進んでいるからこそ、見えてくる世界があって、成功につながっていたりする。会社の社長をいろいろと見てきて、due diligence(投資対象となる企業や投資先の価値やリスクなどを調査すること)をするけれど、すごく頭のいい人が突き抜けることもあるし、テクノロジーでいく人もいる。いろいろな成功の仕方があるというのが現実の世界ではあるし、世界ってそういうものだよね、と直感的に思った。

ALIFEの発散的なアルゴリズム(新規性探索アルゴリズムや品質多様性アルゴリズム)は、「目的」という外発的動機を重視した行動をしていなくても、内発的動機に基づいた行動が結果的に目的を達成することを実証してくれます。「自分はこれが好きだから」あるいは「得意だから」という理由で興味を追求することで、結果的に実現したいことが出来るようになることがあるのです。

人間の思考の枠に囚われないアイディアを生み出す

投資をするときは「この会社、およびそこを取り巻く力学は何だろう」と考え思考実験する。この会社、競合、市場、参考になりそうな別業界など色々な力学に思いをはべらせながらこの先、これらはどう影響しあい、どのようになっていくのかを予想したりする。ALIFEのシミュレーションは、そういう思考実験とある意味似ていると感じた。思考実験にコンピュータを使うことで、人間の思考の枠に囚われない仕組みや理解を得られるためのツールとなる。そして、コンピュータが導き出す解は、時に人間の創造性を超えるところに面白さを感じる。

自分の固定概念に限定されてしまい、代わり映えのしない予測に終始してしまうことも多いけれど、アルゴリズムによって、プラスαが提示される感じになる。自分のパラダイムがどこで制約されているかは、自分では認識できないので、いろんな人に話しを聞くけど、それがアルゴリズムでも一部代替できる可能性をALIFEアルゴリズムは示している点が面白い。

ALIFEは、発散的な探索を行うため多くの解を出してくれる。ひとつのベストな解を出そうとするのではなく、たくさんの多様な解を探すことが目的。現実世界で発散されるためには、他者を巻き込んだり、コミュニティを作ったりすることが、多様な解につながるのです。

子育てのヒントを提供してくれるALIFEアルゴリズム

子育てをしていて、第一歩目の価値観を親は子供に教えることになる。たとえば、親の怒り方を子供が学んでしまったとき、そこから発生する人間関係が生まれて、この人間関係を元に複雑化していく。その第一歩で教えていることを間違うと、その方向で育っていってしまうのではないか、という不安が生まれてきたりする。

子供が初めて学ぶことを、アルゴリズムにおける「初期値」に例えて考えてみます。目的を定めて、その目的に近づいているかどうかで、行動を選んでいく「目的型探索」アルゴリズムだと「初期値」がすごく影響します。つまり、最終的に見つかる解が初期値に依存して、初期値ごとにかなり異なるのです。

一方で、ALIFEのアルゴリズムは、目的を達成することよりも、多様な解を探索することを重視し、かつ、さまざまな環境を用意します。そこで学習させるアルゴリズムを走らせると、どんな初期値からでも、同じような多様性をカバーする解の集合が見つかります。

子育てにおいてもいろんな人たちと関わることが大切、とよく言われると思いますが、アルゴリズムも同様の結果が示されているのです。いろいろな環境や人に触れて子育てをすることで、初期値に依存しない、バリエーションが生まれるのかも知れません。

すべての人にそれぞれ活躍できるニッチがある

選択肢がないとツライ。学歴主義の中で成功してきた人が、ビジネスの中で成功するか分からないし、スポーツの世界で成功するかも分からない。本来、世の中は、品質多様性アルゴリズム的なのかもしれない。すべての人に活躍できるニッチがあるはず。でも、教育や受験での価値観が、偏差値の高い学校に受かることを唯一の目的としまうと、多様な解が作られずどこかでつまづく。それがシステムでも見られることが面白い。
全力で自分の好きなところを追求すれば、それが次につながる。その過程は意外とシンプルでいいんだというのは安心する。これもこれもあれもこれもできなければいけないということではない。それぞれがみんな頑張っていると、誰かと化学反応が起こって、相互に補完したりし合うようになる。

夢中になることがあり、それを追求していると、新しいことにつながり、続けていると思わぬところに辿り着けているのではないか、ということをアルゴリズムは示してくれます。

そして、人によって向かうところが違う。思いつめずに、ひとつの目的に向かってそれを達成しないといけないとか思わなくていいのではないかと、ALIFEのアルゴリズムの実験結果を見ていると思わせてくれます。必要なことは環境を変えたり、多様な人と関わるとかそういったことかもしれないです。


ここまで、ALIFEについて、ビジネスの視点から、そして子育てや人材育成という観点から、矢本あやさんとお話しした内容をまとめました。

ALIFEの詳しい歴史やアルゴリズムは、弊著『ALIFE | 人工生命 より生命的なAIへ』で詳しく解説しています。よろしかったらぜひ手に取ってみてください。

きっと、これまでのAI的なパラダイムとまた違った世界があり、それがアルゴリズムとして実装され、課題を解くために実用的に使われていることが分かっていただけると思います。

ここまで長文読んでいただきありがとうございました。
そして、ビジネスでの応用という視点からALIFEを考えてみるきっかけを提供してくれた、矢本あやさんに感謝を込めて、この記事を終わりたいと思います。

表紙画像出典:https://twitter.com/guskamp/status/1514181578934546437/photo/2

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