Jahseh Dwayne Ricardo Onfroy に捧ぐ：【和訳】XXXTENTACION - SAD! (Official Music Video) & Nocturne (a tribute to XXXTENTACION by Yoko Shimomura)
唐突に私情だが、今年の成人の日をもって自分は成人を迎えた。この文言並びに記事を通して「言いたい・書きたいこと」をアウトプットできている現在の環境とこれを可能にしてくれた縁そして、自分を色んな形で支えてきてくれた家族と周囲の人々への感謝は筆舌に尽くし難い。
地元の成人式会場やSNS上での友人の晴れ姿や当日に撮られた自分、各々に門出を迎えた知人らの姿を目にすると、「大人」になったのだ、と不覚にも頭によぎり、何とも言えぬ感慨が沸き上がったのが思い返すに易い。これがイニシエーションなのだろうか。
3日通しの同窓会で注がれたグラス越しに霞む景色と、友人のワイルドスピードで成人式の会場をハシゴした思い出のおかげか、思ったよりも悪くないものだった、むしろ楽しく忘れることはない、とさえ振り返ることができる数日であった。
人が成人の節目を迎える時、思い返される記憶やその顔が浮かぶ人物は人それぞれである。両親や友人、その他お世話になった方を始めとする数多の人々。この時に立ち現れるのは誰しも、自身に何らかの形で大きな影響を与えたがために思わず、言葉をどうも贈りたくなる者たちばかりなのではないだろうか。少なくとも”anybody”ではない、自分だけの括弧で輪郭を持つ”somebody”あるはずだ。「あの人」や「この人」がぼんやりと、しかし幾重にくっきりと立ち現れるシルエット。20年の人生から誰をその中に捉えるのか、自分はそのメンツの１人にXXXTentcionの名を挙げたいと思う。
アメリカ合衆国 フロリダ州 プランテーション出身
Jaseh Dwayne Ricardo Onfroy, XXXTentacion という名で公に知られるこの男はフロリダ生まれのヒップホップアーティストであり、2015年のシングル「Look At Me!」をきっかけにヒップホップ音楽シーンを中心に注目を浴び始め、今もなおSpotify 上で約3,800万人の月間リスナーを誇る人気を有している。
同時期にキャリアを重ねたLil PeepやJuice Wrld, Trippie Reddらと並んで、彼の音楽性には「サウンドクラウド・ラップ」（SoundCloud Rap）や「エモ・ラップ」（Emo Rap）というジャンルが宛てられることが多々あり、トラップのシーンが幅を利かせていた当時においては目新しく映った。2017年のXXL Freshman にも選出され、Playboi Carti らとその名を並べた。
また、彼のキャリアで注目されるべきはそのスタイルの転換である。前出の「Look at Me」やミックステープ『Revenge』(2017) に収録された「YuNg BrAtZ」を始めとする、キャリア前半に制作された楽曲はサウンドからして”暴力”的と言えるほどに激しい。ライブ現場で流されればモッシュピット必至で、そのエネルギーはさながら”Teenage Riot”の形相を構えている。
だが、キャリア後半にその激しさのベクトルは逆行する。前兆はシングル『Revenge』の一曲に見つけることが出来るが、1stスタジオアルバムの『17』以降で主にフォーカスされるテーマはむしろ、彼自身が露呈する弱さである。”若気の至り”に随伴する「不安定さ」が持つ負の面に注目する作風は、いわば逆「術式反転」（＋⇒－）と言った所だろう。
特に『17』は鬱・トラウマ・孤独・後悔・失恋をめぐる内省を詞でありながら、どちらかといえばモノローグの連続に近い形式で己をさらけ出す。『DAMN.』リリース前のKendrick Lamar が「生の感情に触れたい人は聴くとといい」とリアクションしたこともあり、X への評価としてこの１面が大きいことが分かる。
https://t.co/ovjuQN8weO listen to this album if you feel anything. raw thoughts. https://t.co/ovjuQN8weO
— Kendrick Lamar (@kendricklamar) August 26, 2017
己の「強さ」を体現する作風が半ばステレオタイプ的に見出されるヒップホップの文脈において、「弱さ」の吐露を強調するスタイルがシーンを席巻した当時。その時代の寵児たるXのスタイルは若い世代を中心に支持され、彼自身も瞬く間にカリスマ視された。それは2018年に開催されたHipHop最大の音楽フェスRolling Loud でのステージングからも伺うことができる。
会場に集まった大勢のオーディエンスを沸かすXのエネルギーは凄まじく、彼らが見せるノリはもはや阿鼻叫喚である。盟友Ski Mask The Slump God と共に上裸で立つ彼は、自身１人の身振り手振りで人海に波を引き起こしてみせる。数々の大物ヘッドライナーが名を連ねる中で魅せ付けたこのステージングは度々、彼を象徴するモーメントとして挙げられることが多い。
しかしそれは同時に、彼にとって最後の大舞台であった。2018年6月18日の米フロリダ州のオートバイ販売店にて、店を出ようとしたところでXは強盗目的とされる2人組から襲撃を受ける。運転する車の前を塞ぐ形で停められた別車両から出てきた男らは接近後、フロントドアでXと揉めたのちに発砲、白昼午後4時ごろの犯行だった。この銃創が致命傷となりXは命を落とす。この世を去るには早すぎる享年20歳、今の自分と同じ年齢であった。
事件発生がしてから間もなく新進気鋭の若手ラッパーの死は瞬く間にSNSを介して社会に広まった。世代を超えて同業者からその別れを惜しむ声が送られ、Kanye West, J.Cole, Denzel Curry らの中には以前より親交の深かったBillie Eilish もいた。死を悼む文言で目立ったのは代わり難きXの才能の喪失であったと同時に、彼が持っていた人間性やメッセージである。
パフォーマンスや音楽性とは別に、多くの人々を惹き付けた言葉とはどんなものだったのか。そこで本稿ではXXXTentacion が残した言葉の一部として、MV に収録されている2つの言葉たちを紹介したい。晩年に取り上げた主なテーマには悲哀や嘆きであったが、彼がインスタライブなどで積極的に発信していたのはポジティブなメッセージだった。以下の両者も例外ではない。
１つ目は彼の最大のヒット曲に数えられる「SAD！」のMVより。２つ目はアルバム『？』のデラックス版に収録され、日本のゲーム音楽作家・下村陽子氏によって彼に捧げられた一曲「Nocturne (a tribute to XXXTENTACION by Yoko Simomura)」のMVより。
死後6年目かつ自分がXと同じ年数を重ねたタイミングの今日、現地時間2024年6月18日。彼が確かに居たその証を自らの手で噛み締め、受け取るべきものを胸に刻むため、遺されたその言葉たちをここに示す。
「SAD！」
和訳
hello. my name is gekyume.
what is your name? how old are you?
why are you watching this video?
hmmm…ok
やあ。俺の名前はゲキューム
君の名前は？いくつなんだ？
どうしてこのビデオを見ているんだ？
なるほど…ね
why do you love? now, why do you hate?
what is your blood type? birth time and place?
ok!
では、どうして何かを愛し、そして憎むんだ？
血液型は？生年月日と出身地は？
分かった！
here is your warning and soul's demand by perceiving this video
if you are watching you are subjected to a segmented piece of my creative aura and wiches
you are now in "my" world or… a piece of my consciousness as one would say
このビデオと向き合うことで得られる、君のための戒めと魂が望むものがここにある
君がこれを見ているなら、俺の持つクリエイティブな感性と願いの片鱗を受け入れることになる
つまり君は今、”俺の”世界…言うなれば、
俺の意識の一部の中にいるってことさ
here is my demand
you will soread love throughout the world, praise and joy unto my name and change the overall cycle of energy we are digesting
the world is in need of change, humans must learn to love and compromise rather than destroy
俺の望みはこうさ
君は世界中の愛に舞い上がり、俺の名の為に称賛し喜びを味わい、そして俺たちの身となるエネルギーの流れ全体をも変えるだろう
世界は変化の必要に迫られている、人類は破壊よりも互いに愛し歩み寄ることを学ばなきゃいけない
blessings be upon those who have come to this visual presentation with good energy and love rather than malice
and those with negative intent, thank you your energy has been transmuted in the amount of time that you've taken to give your energy
the world will soon be more loving, you will see
悪意ではない、善き志と共にこの形ある示しと出会った人々に祝福あれ
そしてネガティブな意志を持って出会った者たち、君らの気が何かより良く変わってくれたら嬉しいな
君たちがエネルギーを注ぐために費やした時間の分だけ、世界はやがて
もっと愛に満ちたものになる、わかるだろう？
they do not understand you, do you not fear?
your worst enemy is yourself and you seem unbothered
あいつらは君を理解してない、怖くないのか？
君の最大の敵は君自身、でも平気そうだね
though you cannot pretend you have walked through life unscathed…
it is your memories that hold you to the person that you were
傷つく事なく人生を歩んできたふりをすることはできないけれど…
思い出があるからこそ、君は以前の自分に戻ることができるんだよ
to amount to the light you can become…you must understand the power of your mind
自分が成れる光に近づくには、君は君自身の心の強さを理解しなきゃいけない
PEOPLE CHANGE
THINGS CHANGE
AND SO DID I
AS LONG AS THE OUTCOME IS GOOD FOR MYSELF AND FAMILY
IM NOT COMPLAINING
（メモの内容）
OH!
AND I WANT HER LOVE(→LOYALTY) ALL TO MYSELF
人は変わる
物事も変わる
そして、自分もそうした
その結果が自分自身と家族にとって良いものである限り、
俺は不満を吐くつもりはない
あ！
でも、彼女の愛（忠誠心）はひとり占めしたい
（最後）
you have done well at battling yourself
your demon seems to honor your efforts
are you satisfied?
君は自分自身とよく戦った
君の悪魔もその戦いぶりを感心してるみたいだ
君は満足してるのか？
「Nocturne (a tribute to XXXTENTACION by Yoko Simomura)」
和訳
”If I'm gonna die or ever be a sacrifice,
I want to make sure that my life made at least 5 millions kids happy.
Or they found some sort of answers or resolve in my life.
「もし俺が死ぬか犠牲にでもなるなら、
俺の人生で少なくとも500万人の子供たちを幸せにしたことを確かめたい。
それか、彼らが俺の生涯の内に何か答えみたいなものを見つけるか
心に決めて欲しい。
Regardless of the negative around my name,
regardless of the bad things people say about me,
I don't give a fuck.
俺の名前に付きまとうネガティブも、
人が俺に向ける悪口も関係なく、
俺が知ったことじゃねぇ
Because I know my goal in the end,
and I know what I want for everyone,
and I know what my messasge is.
なぜなら
最終的な自分の目的も、
自分が皆に何を望んでいるかも、
自分が伝えたいことが何かも
分かり切ってるからさ
So I just wanted to say,
I appreciate and love all of you,
and I believe in you all.
だからこれだけは言いたかった、
俺は君たち皆に感謝してるし愛してる、
そして君たち皆を信じている
B R E A T H E
”息をするんだ”
Do not let your depression make you.
Do not let your body define your soul, let your soul define your body.
君たちの鬱に君たち自身を作らせるな。
君らの身体に君らの魂を委ねさせるんじゃなく、
その魂にその体を委ねろ。
Your mind is limitless,
you are worth more than you could believe.
君たちの精神力は計り知れず、
君たちには自分らで信じられる以上の価値がある
All you have to do is dream,
and all you have to do is want to fulfill that dream,
and have the strength to fulfill that dream.
君らは夢を見るだけでいい、
その夢を叶えることを望むだけでいい、
そして、その夢を叶えるだけの力を持てばいい
Pain is a sign of progress.
When you feel pain there is progress.
痛みとは成長の道標だ。
君たちが痛みを感じる時にこそ成長がある。
I love you all, make sure you have a good day."
俺は君らをみんな愛してる、
素晴らしい一日を送ってくれよな。」
X の死後に見られたコメントの中には彼の過去の行いを引き合いに出す「ざまあみろ」「自業自得」といった言葉も見られた。確かに彼の素行不良はそのキャリアと切り離すことが難しく、人格への評価を作品の評価へと接続する様子も多々あった。だが、あのスタイルの変容はこうした過去に向けた自戒と自己改革の現れなのではないだろうか。
Before I lay me down to sleep
I pray the Lord my soul to keep
I hope it's not too late for me, oh
今、ポジティブなメッセージを聴く者に向けて届けるHipHop アーティストは少なくない。Megan Thee Stallion は”Hot Girl Summer”を合言葉に、自分らしい人生の謳歌や「私って最高」マインドを発信している。また、Kendrick Lamar も『Mr. Morale & The Big Steppers』(2022) を以て自身の不完全さを認め、向き合い、そこから始まる自己形成の有り様を示した。Ｘも含めた彼らが発してきたテーゼに共通するのはセルフラブである。
もはや日常生活を送る上でインターネットは欠かせず、ひとたびSNSを開けば様々な価値観や情報が流れてくる。が、そこにあるのが必ずしも欲しいものや受け取ってから気付く「欲しかった」ものとは限らない。あらゆる物事が簡単かつ急速に行き来することで、何か確固なものを見定め、掴むことが難しい「液状化社会」の中に私達はいる。ましてや世論に目を向けてもジェノサイドや地球環境の悪化、経済不調、死傷事件など、これから生きるはずの現実に陰を落とすようなことばかり。
”正しい”と思ったことでも何スクロールかしてしまえば心象が揺らぎ、嫌われるかもしれないリスクとしての他者観が跋扈する今、彼らが語る言葉たちは十分にその「愛すべき自分」を見定める手がかりとなるだろう。”刺さった”言葉を刻むのである。
成人になった知人の口から半ば自虐的に「もう20歳」という言葉を耳にしたり、現在の自分のステータスを前にいささか絶望するような素振りを目にする機会がある。自分も実感として共感する部分はあるが、「まだ20歳」である。そして、それはXXXTentacion が見ることの無かった「これから」の始点でもある。これまでをベースとした諦めは意味を成さないだろう。
Start over! Start over!
もう一度だけ やり直そうなんて思うなら
今しかない 後にはない
逃げてる今の自分 目を覚ませ！
過去に 戻れやしないと知っている
夢を見るなら 先の未来がいい
彼が息をすることができなかった空気を、踏みしめることができなかった地を、噛み締めることができなかった喜びや悲しみを、私を自身の身に引き受けたい。どれだけ貴いものでも、それを掬う網が確かでなければ溶けて流れてしまう。どれだけ酷なものでも、それに立ち向かうに足りるだけの剣が無ければ折れて負けてしまう。
同時に、これらをしかと手にするだけの腕と自分を持たねばならない。そのための歩みの一部として、Xが残した言葉たちを自身に刻みたいと思う。そして、"未知"に恐れず歩みを進めるための一助としたい。
R.I.P "XXX"Tentacion.
彼の６周忌に捧ぐ。
So outside of my misery, I think I'll find
A way of envisioning a better life
For the rest of us, the rest of us
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