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障がい者雇用は、パートナーシップで実現する ~全国で活用ゼロだった特例制度を掘り起こし、新しい雇用モデルを構築した話~

「社会的花屋(social flower shop)」のローランズ代表・福寿満希(ふくじゅ・みづき)です。

私たちは、花や緑を通じて障がいや難病等と向き合う人々を積極的に雇用し、共に成長し、多様な人材が認め合い活躍できる社会を目指しています。

「異質性」と「弱さ」を武器に、前へ。

ローランズのスタッフの75%は、何らかの障がいや難病と向き合いながら働く人たち、いわゆる「障がい等当事者」です。そして困難を抱えながらもビジネスを前に進めるために、日々さまざまな工夫を行っています。

ローランズのスタッフの75%は、何らかの障がいや難病と向き合いながら働く人たち、いわゆる「障がい等当事者」です。そして困難を抱えながらもビジネスを前に進めるために、日々さまざまな工夫を行っています。

たとえばローランズでは基本5人1組のチームで仕事を進め、その中で各自が抱える働く上での障がいをオープンにし、よく共有し、皆でフォローし合うようにしています。

ポイントは、共有するのは「障がい名」ではなく、自分が認識する「難しさ」の中身だということ。
同じ障がい名でも、その人が抱えるハードルは十人十色。
周りは「障がい名」に捉われず、その人自身をよく観察して何が必要か知恵を出し合うことが大切です。

「できないこと」をつまびらかにすることにより、逆にそれをジャッジや非難することなく「じゃあどうしたらできるか」にフォーカスして考えぬくのです。

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共有するのは、皆が抱える「働きづらさ」

障がいだけでなく、介護や子育ての悩みや時間的制約などはもちろん、人が必ず抱える向き不向きやモチベーションの強弱だって、「働きづらさ」です。

それらを「なかったこと」にせず向き合うことで、障がい当事者のみならずチーム全体が働きやすくなっていきます

たとえば記憶に障がいを持つある男性スタッフは、業務に関わる大切なことをなるべく口に出してつぶやくようにしています。そうすることで、自分の抱えているものややろうとしていることを自然と周りも認識し、もし忘れてしまった場合にも他の人が教えてくれたりします。

おもしろいのは、彼がいることでまわりのメンバーもいろんなことをよく伝え合いフォローする空気ができていることです。コミュニケーションが大事だと分かっていてもつい不足しがちな職場で、「働きづらさ」を乗り越える意識が、良いチームワークを生んでいるひとつの例です。

「同質性」と「強さ」の代わりに、こうやって「異質性」と「弱さ」を武器に前に進むやり方だってできることを私自身実感していますし、それは当事者以外の人たちにとってもたくさんの気づきと働く幸せにつながると感じています。

そういった意味で、障がい者雇用は福祉という意味合いだけでなく、受け入れる企業側にとってもこれから不確実な未来を生き抜くための大きなヒントにつながるのではと考えています。

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障がい者雇用はパートナーシップで推進していける


実際ローランズには、障がい者雇用を進めたい企業の方たちがたくさんコンタクトしてきてくださいます。雇用を実現したいという思いがあっても、採用や雇用管理の方法、受け入れ環境の整え方など、ベストプラクティスがわからないというのが普通です。私たちも2013年の創業以来、試行錯誤を繰り返しながら見えてきた部分を少しでも共有できればと、可能な限り企業様の見学やご相談にお応えしてきました。

ただ、現場を見ていただいたり悩みを伺ったりするだけで、実際に企業様の課題が解決されるかといえばそうではありません。

私は、「障がい等当事者の雇用に取り組みたい」という同じ目的を持つ企業同士が一緒にやれば、もっと課題解決に近づけるのではと考えるようになりました。

そのために、一社ではハードルが高いとされる障がい者雇用を、複数の企業がパートナーシップを結び役割分担を行いながら雇用を推進していくプロジェクトをスタートしました。

WDPサイトビジュアル

ウィズダイバーシティプロジェクト https://www.with-diversity.com/

本プロジェクトは国家戦略特区の特例により有限責任事業組合(LLP)を活用した障がい者雇用算定特例制度において組織として全国で初めて認められた事例としてスタートし、2019年12月に小池都知事の記者会見でも発表されました。

小池知事「知事の部屋」/記者会見(令和元年12月13日)https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/governor/governor/kishakaiken/2019/12/13.html <5. LLP(有限責任事業組合)を活用した障害者雇用の促進について>

今では5社のパートナー企業と役割分担を行い、新しく10名分の障がい者雇用を生み一緒に生み出すまでになりましたが、動き出すまでは当初想定していたものより遥かに長い道のりで、正直何度も心が折れそうになりながらここまで進めてきました

きっかけとなったのは、2017年の年の瀬のある日の午後。
北九州の国家戦略特区からいただいた一通のメールでした。

全国で1件も活用されていなかった「LLPを活用した算定特例」

北九州は国家戦略特区に指定されており、その特例を使って何とか障がい者雇用を押し進められないか悩んでいた担当者の方が、実績のある当社にコンタクトしてきたのです。

ぜひローランズさんで、特例を活用して事例をつくっていただけませんか?

力を込めてそう提案してくださっていたものの、当時そのような制度があることさえよく分かっていなかった私は、ひとまず検討させていただくということでお預かりをいたしました。

その方の話では、障がい者雇用のハードルが高い中小企業が参入しやすくなる特例制度がすでに10年前にでてきているにもかかわらず、それが活用されたケースが全国でまだ一つもないとのことでした。

「たしかにローランズがその先陣を切れれば素晴らしいけど、そもそもなんで活用されていないんだろう・・?

興味を持った私は、ちょうど差し掛かっていた年末と寝正月を過ごすつもりだったお休みを返上し、何が起きているのかを徹底的に調べ上げました

そして、いくつかのことが分かりました。

(1)国で定められている障がい者雇用率の未達企業の9割は中小企業(2)その原因は、一社単独で障がい者雇用を達成する難しさ   
  (大企業はグループ通算で達成するなどの方法がある)
(3)「中小企業同士で設立する事業協同組合」などを活用すれば、数社で協力しながら障がい者雇用を進められる
(4)しかしその「事業協同組合」の設立には行政庁の認可が必要で、2-3年の期間が必要となる

この問題を打破しようと、国家戦略特区においては「事業協同組合」の代わりに実質1か月で設立できる「有限責任事業組合(LLP)」を活用できるようにしたのが、今回お話のあったLLPを活用した算定特例制度でした。

中小企業にとって障がい者雇用のハードルが高い問題をクリアしようと制定された「事業協同組合等算定特例」。そのネックとなっていた事業協同組合の設立のハードルをクリアされようと新たに作られたLLP活用の算定特例。それなのにまだ全国で一件も事例がないということは、そこにもまだハードルがあるということなのか・・

ゆっくりしていたはずの年末年始にずいぶんとややこしいパンドラの箱を開けてしまった気がしましたが、ここはもう自分が実際にやってみるしかないと心に決め、ご連絡くださった北九州の担当の方にお返事をしました。

この挑戦が、突破口になれば

こうして、2018年はこのLLPを使った算定特例の事例第一号をつくる目標からスタートしました。

ローランズの所在する東京での事例づくりを行うため、さっそく北九州市に東京都の担当の方をご紹介いただき、力を合わせていくことも決まりました。

うまくいけば、障がい者雇用の新しい選択肢を提案することができ、失われていた雇用が一つでも二人でも増やしていけるのかもしれないー。

その時私がそう強く期待したのには、わけがありました。

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日本では、およそ12,3人に1人が何らかの障がいとともに暮らしています。

そのうち働くことができている人は労働可能年齢18-65歳の層でもたった14%

残りの約86%の中には、環境さえ整えば十分活躍できる人たちがたくさんいるはずです。

ネックとなっている中小企業の雇用率が上がり、障がい当事者の人たちが社会で活躍できる機会が広がれば、世の中が少し、良い方向に変わるのではないかー。

実際に障がい者雇用に取り組んでいる立場として、そこには強い思いがありました

今まで多くの企業のご相談や見学をお受けしてきたものの、その後各企業で障がい者雇用スタートに結びついたのは、ほんの一握りでした

各企業とも、思いは十分にあったはずでした。
何かがネックとなり、生まれるはずの雇用が生まれなかったということです。
そのネックになっている部分を企業同士が連携することで解決し、制度の壁があれば行政と力を合わせてそれを乗り越えるという今回のチャレンジが、突破口となるかもしれないと期待が膨らみました。

時には、闘わなければいけない。

それからというもの、関係各所との調整に奔走する日々が続きました。

公の機関だけでも、東京都にハローワーク、東京労働局や厚生労働省など、いくつもの関係先を回りました。驚いたのは、少し前までの私同様、どの担当者の方もこの制度についてあまりご存じなかったということでした。

きっと世の中にはこのような制度がたくさんあって、うまく活用されないために解決できずにいる社会課題もいっぱいあるんだろう。そんなことを思いながら、年末と至福の寝正月を返上して調べ上げた知識とその後見えてきたことを都度ご説明し、LLPを活用した算定特例制度の事例をなんとか東京でつくることで、全国の企業がこの算定特例制度を活用できるようになるきっかけになりたいのだという思いを伝えて回りました。

またその思いを、誰よりもこれから一緒に力を合わせて実際に雇用をつくっていく可能性のあるパートナー企業の方々へと伝えていきました。障がい者雇用のノウハウはまずはローランズが提供し、今はそのノウハウのない企業も、仕事を確保するための優先発注や発注を受ける事業を作るための技術提供など、お互いが提供できることを持ち寄ることで前に進められるのだということを、一社一社へ説いていきました

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そうやって当初の予想より遥かに多い関係先に協力・参画をお願いして回り、気づけば1年半が過ぎていました。

この事例の中心となるLLPも設立され、参画企業も集まり、あとは申請などの行政関連を整えていくだけとなりました。

しかしここからが難航しました

春には申請できるといわれたまま夏になり、
夏にはできるといわれたまま秋になり・・という状況がただでさえ続いていた中、

さらに当初のスケジュールはどんどん後ろ倒しになり、何が起きているのか見えないまま月日ばかりが流れていきました

そのたび、私たちは参画を表明してくれたパートナー企業に謝罪し、申し訳なさから焦りが募っていくようになりました。

申請を進めてくださっている行政側にとっても、変化の激しい世の中で新たな課題がいろいろと発生し、どうしても本件に手を付けられない状況が続いていたのだと思います。

要は、優先順位が下がっていたのだとも思います。

たくさんの関係者を巻き込みながら、年月が過ぎていく中でも共感を維持してプロジェクトを推し進めていくことの難しさを感じました。

そもそも障がい当事者は、社会の中でも声の小さな人たちです。

国や自治体の中では数えきれないほどの解決すべき課題を抱えている中で、誰かが強い思いをもって推進していかなければ、自然と後回しにされてしまう性質を持っているのが障がい者雇用の問題です。

自分がなんとかこの問題を前に進められなければ、障がい者雇用の現状やあり方は変わらないかもしれない。まずは思いを共にして前進しようとしてくれている参画企業を、そして働くことを待ち望んでいる障がい等当事者の人たちをこれ以上がっかりさせるわけにはいかない

そう固く決意した私は、それまで行政などの関係先とうまくやっていくことを重視して遠慮していた自分を捨て、強く声を挙げることにしました。

中小企業が力を合わせ障がい者雇用の新しい選択肢を作り雇用を推進していくことについて、行政側は本当に取り組んでいく気はあるのですか?

担当の方に詰め寄り、こちらの危機感をそのまま強く訴えたところ、行政担当者の方と改めて新しい雇用のあり方の選択肢を提案していくことの重要性や取り組みに対する双方の意識確認をすることができました。それから事態は動き出し、それまでずっと進まなかった申請プロセスが一気に進みました。

行政担当者も「人」であり、行政側の考えや取り組む姿勢を変えていくことも民間側にいる私たち「人」の役割なのだと実感しました。

この時私は、自分が起業して以来時々感じてきたことを思い出しました。

私が23歳で起業した当時、周りに同世代の、特に女性の起業家はほとんどいませんでした。

たくさんの人たちに助けられてようやくここまで来た私は、そんなすべての人たちへの感謝の気持ち、そして謙虚な気持ちを忘れないことを大切にしてきました。

ただそれが、時には必要以上の遠慮につながってきた面もありました。

本当はこういう風にお願いしたいけど、角が立たないようにお願いしよう。
こっちが本意なんだけど・・穏便に進むよう相手の意向に沿うようにしよう。
そんな形で丸く収めることを選び、後から後悔することもありました。

当時、起業から9年がたち、たくさんの人たちとの約束や期待も背負うようになっていました。

自分が闘うことを避けることで、結果的にがっかりさせてしまう人たちがいる
社会課題に立ち向かうということは、みんなとうまくやろうとするばかりでなく、強く声を挙げていくことも大切になるということ。そして、対峙した人の心を変化させることができれば、時に大きな力を動かすきっかけになることができること。それまで諦めずに行動することの重要さを実感し、気持ちを新たにしました。

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人と企業がともに成長する新しい雇用モデルへ


そして2019年の12月ー。

本算定特例を活用した事例の第一号として、当社プレスリリースと東京都の記者会見での発表が無事行われ、本プロジェクトが実質的に動き出しました。

北九州の国家戦略特区の方から電話をいただいたあの日から、すでに2年が経過していました。<プレスリリース https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000018643.html>

本プロジェクトは、設立した「ウィズダイバーシティ有限責任事業組合(LLP)」にちなんで「ウィズダイバーシティプロジェクト」と名づけられ、その後順次推進パートナーを増やすとともに、障がい者雇用に関わるさまざまな実績をつくってきました。

参画いただく推進パートナーには、下表のような「優先発注」「技術提供」「活動参加」の3つのアクションのうちいずれかを定期的に必ず実施していただいています。

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定期的な活動は行わず、協賛金参加も受け入れを行った方が資金も集まるかもしれません。

しかし、お金だけの関係の先に、幸せな雇用は生まれません。心を込めてサービスを提供して、喜んで頂けた時に初めて人は仕事を通じて幸せを実感することができます。

障がい者雇用は一部の人の話ではなく、全員が幸せな働き方に向けた気づきへとつながるチャンスでもあります。そのため、一緒に取り組み関わっていくことがとても大切です。

お金で障がい者雇用の「数」を買えるサービスもあることは事実ですが、そういうものには絶対したくありませんでした。

同時に収支のバランスをとっていく難しさはあります
ビジネスとしての価値を持ちながらも、お金だけではなく、福祉だけでもなく、ビジネスとして社会課題を解決していく。

そんな二律背反にも思える課題に挑戦する仲間たちは、今、世の中の価値観の変化の中で確実に増えてきていると感じています。

そのひとつの形として、ウィズダイバーシティプロジェクトは働く当事者(人)とパートナー(企業)がともに成長する新しい雇用モデルの構築を目指しています

企業側は、まずは仕事を発注することから障がい者雇用に取り組むことができ、そこで生まれた雇用を自社雇用として算定することが可能となります(一定要件あり)。まずは仕事を発注するという「できる関わり方」からスタートし、質の高いサービスを受け取ることができれば、「障がい者雇用の現場からこんな素敵なサービスを受け取ることができるのか」と思えるはずです。

それをきっかけに、もっと仕事としてお願いできることはないかと考えるようになります。そして、彼らの嬉しそうに働く姿を見て、きっと幸せな気持ちになるでしょう。当事者は人に必要とされるサービスに関われることに誇りを持ち、企業は当事者が会社にとって必要な存在となり、双方の変化・成長へと繋がっていくのです。

ローランズはこのウィズダイバーシティプロジェクトを中心に、力を合わせて「障がい者の共同で雇用すること」を世の中の企業にとって当たり前の選択肢へ、そして必要な存在へとしていくことで、これからも「誰もが花咲く社会」を実現していきます。

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