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VRSNS内での痴漢行為に犯罪が成立するかを真面目に検討してみた

VRSNS内において、許可なくアバターの身体に触れる等の痴漢行為が行われることがあります。
VR技術の向上により、よりリアルに仮想空間を体験できるようになってきておりますが、VRSNS内での痴漢行為に何らかの犯罪が成立するのでしょうか。
VRSNS内での痴漢行為に犯罪が成立するかを検討してみました。

刑法上の性的自由に対する罪

刑法では、性的自由に対する罪として、強制わいせつ罪(刑法176条)、強制性交等罪(177条、178条)が定められています。

強制性交等罪については、性交等をすることを要するところ、VRSNS上で実際に性交等をすることは不可能であるため成立することはありません。

では、強制わいせつ罪についてはどうでしょうか。

強制わいせつ罪(刑法176条)

(強制わいせつ)
第百七十六条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

被害者が13歳以上の場合は「暴行又は脅迫を用いて」「わいせつな行為」が行われることを要します。

被害者が13歳未満の場合は「暴行又は脅迫を用いて」いる必要はありません。

そこで、まずVRSNS内での痴漢行為が「わいせつな行為」に該当するかが問題となります。

「わいせつな行為」の定義

「わいせつな行為」とは、「本人の性的羞恥心の対象となるような行為」(山口厚『刑法各論第2版』(有斐閣、2010年))、「被害者の性的羞恥心を害する行為」(西田典之『刑法各論第5版』(弘文堂、2010年))とされています。

しかし、この定義からでは、どのような場合に「わいせつな行為」に該当するか明確ではありません。

どのような行為が「わいせつな行為」に該当するか

裁判例等では、キスをする、乳房や陰部を触る等の身体に触れる行為等で該当するとされたものがあります。

また、裸にして写真を撮る、男女に性交を強要する、加害者の自慰行為を見せる行為、被害者に自慰行為をさせる等の身体に触れない行為であっても「わいせつな行為」にあたるとされたものがあります。

被害者に、ビデオ通話機能を通じて、胸や陰部を露出した姿態及び陰部を指で触るなどした姿態をとるよう指示し、その姿態の映像をビデオ通話機能を用いて送信させた行為が「わいせつな行為」に該当するとしたものもあります(長崎地判令和元年9月17日)。

VRSNS内での痴漢行為が「わいせつな行為」に該当するか

VRSNS上での痴漢行為(アバターを介して身体に触れる行為、股の下に潜り込む行為等)は、被害者の身体に直接触れるものではありません。

実際に直接身体に触れられるのと、アバターを介して触れられるのでは性質が異なる(ビデオ通話機能で加害者が画面に触っているのと変わらないと思われること)と思われます。

また、VRSNSは、ビデオ通話と異なり、利用者が相互にアバターを見ることはあっても、実際の利用者の身体を見ることができません。

そのため、VRSNS上での痴漢行為は、一般的に被害者の性的羞恥心を害するとまではいえないと思われるため、「わいせつな行為」に該当しないと思われます。

リアルアバターが使用されていたら

ただし、精緻なリアルアバターが使用されるようになった場合にも、同様のことが言えるのかは疑問があります。

アバターは、自分自身の分身を示す”キャラクター”でしたが、リアルアバターを使用した場合には自分自身の身体がVRSNS上に表示されることになります。

精緻なリアルアバターが被害にあう場合には、通常のアバターが被害にあった場合に比して、性的意味が強まるといえるからです。

また、VRが進歩して、感触や匂いを仮想空間で感じられるようになれば、更にVRSNS上での痴漢行為の性的意味が強まるといえそうです。

したがって、将来的にはVRSNS上での痴漢行為が「わいせつな行為」に該当する余地がありそうです。

暴行・脅迫を用いてとは

「暴行・脅迫」とは、「反抗を著しく困難にする程度のもの」を要し、「暴行」とは身体に対する違法な有形力の行使のこと、「脅迫」とは害悪の告知のことをいいます。

VRSNS内でのやりとりは、オンライン上のやりとりであり、実際に触る等、物理的な影響を与えることはできないため、暴行を用いることはできません。

他方、脅迫については、従わなければ危害を加える等の危害を加える旨の告知をすることでも該当し得ることから、VRSNS内でも行うことが可能です。

まとめ

現状では、VRSNS上での痴漢行為に強制わいせつ罪は成立しないと思われますが、将来的には変わる可能性もありそうです。

また、VRSNS内で、脅迫等を用いて、被害者に自慰行為をさせたり、前記長崎地裁裁判例のような性的行為をさせた場合には、強制わいせつ罪が成立すると思われます。

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