見出し画像

三井酒店について

以前紹介した池田屋酒店同様に、純米酒を極める の著者 上原浩先生の影響を強く受けた酒屋 三井酒店について紹介します。
三井酒店は大阪府八尾にある小さな酒屋さんです。東京都在住の私としては足繁く通うという訳にはいきませんが、関西に出向いた折には必ず足を運んでいます。

私が考える三井酒店の特長は3つあります。

1 店主が試飲して納得した酒しか置かない:燗によし。生酒にも強い。
2 おしゃべり &世話好きな店主の人柄:昭和なコミニケーションがここに。
3 プライベートブランドの充実:レアアイテムを格安で入手できる。

かなり癖があります。マニアックなお店です。が、オンリーワンの魅力に溢れた店です。こだわりの強い店にままあるように、それほど流行っているわけでもありません。この記事で三井酒店でお酒を買ってみたいと思う人が増えれば幸いです。


1 店主が試飲して納得した酒しか置かない
店に入ると、足の踏み場もないほどのダンボール箱と壁一面の業務用冷蔵庫に圧倒されます。短い滞在中も、酒を搬入する業者が出入りしたり、店主が酒の注文をしています。
こんなに発注して全部売れるのだろうか…素人目に心配になるくらい、新しい商品がどんどん入ってきています。

銘柄は厳選されており、店主が試飲会や蔵に出向いて納得がいったものを仕入れているとのことでした。店主が「某県の酒の試飲会に行ったが、いいものが一つもなかった」とボヤいていたので、チェックは厳しく行なっているようです。

かといって、決まった銘柄を仕入れることに固執しているという訳でもなく、無名であってもいいものをゲットするようセンサーを張っているようです。私が初めて 玉川 を知ったのは、この三井酒店でした。

置いてある銘柄の傾向は、抜栓しても簡単にはヘタレない強い酒:上原先生の提唱していたストロングスタイルど真ん中です。燗にすると美味しくなるお酒ばかりです。

もう一つの特徴として、生酒が充実しています。
生酒は抜栓後すぐに味が落ちる、下手をすると抜栓直後からヘタれている、という過去の苦い経験から、私は生酒をあまり買わないのですが、三井酒店の店主が勧める生酒なら積極的に買うようにしています。

上原先生が 純米酒を極める で説いているように、きちんと作られた純米酒であれば、生酒であっても抜栓後にエグミが出たり香りのバランスが崩れることはそうそうありません。しかし、そうした生酒は非常に稀であり出会うのが難しい。自分は知らない銘柄の生酒を買うのは割の合わないギャンブルをするようなものだと思っています。

三井酒店では高確率でタフな生酒を入手できます。初めて見る銘柄の生酒であっても購入して大丈夫です。

三井酒店は燗酒好きはもちろん、生酒好きにこそオススメしたい酒屋さんです。


2 おしゃべり &世話好きな店主の人柄
天は人に二物を与えず と言います。残念ながら、この諺は酒屋の店主についても当てはまるようです。私の経験上、対人能力と商品知識を兼ね備えた酒屋の主人というのはなかなかいません。

私の知る限り個人がやっているこだわりの酒屋さんで社交的な人柄の店主は2人しかいません。そのうちの1人が三井酒店の主人です(もう一人は大塚屋の主人です)。

個人でやっているこだわりの酒屋の主人というものは多くの場合、日本酒には詳しいけれども接客に関しては淡白(はっきりいって、無愛想)であることが多いように思います。愛想のいい奥さんに商品について聞いてみても、通り一遍の説明しか帰って来ず、実際の仕入れは奥にひっこんでいる主人がやっているという場合も少なくありません。

これは商品を買う側からすると残念なことです。こちらは、ただ酒を買いに来たのではなく、その酒の背後にある「物語」を買いに来たという側面があるからです。

その酒の基本スペックはもちろんのこと、蔵、味わいの特徴について、出来ればその人独自のの言葉で語ってほしい。今年の出来は例年に比べてどうなのか、この銘柄を仕入れた経緯はどのようなものなのか。今、手にとっているこの瓶を特別なものにする「物語」が聞きたい。

私が初めて三井酒店を訪問した時、店主からまず冷たいお茶を勧められました。
今時珍しい昭和のコミニケーションといいますか、関西独特の距離感なのか、三井酒店の店主は非常に話好きで、世話焼きです。

話の水を向ければ、オススメのお酒の話から、日本酒業界を憂う話、上原先生の思い出話から、私の大阪での夕食を食べるべきオススメのお店まで際限なく話が広がっていきます。

「大阪のおばちゃん」という世話焼きのステレオタイプがありますが、三井店主はまさに「大阪のおじちゃん」とでもいうべきキャラクターを備えています。

店主の語ってくれた蘊蓄とともに購入した酒は印象的な一本となります。


3 プライベートブランドの充実
三井酒店はプライベートブランドが充実しています。これは店主のフットワークの軽さによるものが大きいと思われます。

2019年8月訪問時点で、品評会金賞受賞酒のタンクだけを特別に詰めてもらったもの(店主は「お手つき」と言っていました)だとか、某航空会社のファーストクラスにも採用実績のある純米大吟醸が半額になっていたりだとか、なんかもうこれだけで店主の人柄が透けて見えるようなラインナップです。

これらのプライベートブランドは、もちろん単なるネームバリューではなく、店主の官能から選ばれた商品ばかりなので、自分が飲んでみた限りではいずれも、単なる満足を超えて感動できるレベルの作品、と呼んでいい逸品でした。


まとめ
・燗酒が好き
・生酒が好き
・本題に入る前に世間話をする昭和的コミニケーションが嫌いでない、むしろ好き
・上原先生の薫陶を受けた蔵のレアアイテムをゲットしたい

これらの条件のどれかに当てはまる人は、多少交通費をかけてでも足を運ぶ価値のある店だと思います。

2019年8月来訪時に購入した特注の生酒。抜栓後、冷蔵庫で2週間保存しても透明感を保つタフネスは流石。

#日本酒 #酒 #三井酒店

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?