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#162 人との間で病んだのなら、人の中でこそ癒されるのかもな


もう二年半前になる。
私は、実に四十年の月日を経て、あるスポーツを再開した。

卓球*だ。

*以前、"卓球はスポーツですか?" というネットの書き込みを見てぶっ飛んだ経験のある私だ。
温泉場のピンポン=娯楽というイメージなのだろうか‥‥ 

途中ロックダウンこそあったが、週二日の卓球クラブは、私が唯一続けてこれたアクティビティだ。
かつて卓球が上手かったわけではない。40年前からすでに下手だった片鱗は、このnoteから見えてしまっている。

私は運動全般が苦手なのだ。まあいい。

私にとっての卓球は、輝かしい胸がすくような思い出ではないけれど、久しぶりに体が、素振りを繰り返した昔のあの感覚を思い出したのが嬉しかった。

このクラブがたまたま家から歩いて5分の場所にあったことが、継続の大きな要因であることは間違いない。

コーチは子育て世代のポーランド人夫婦。
彼らがその生涯を卓球に懸ける情熱に対して拍手を送りたくなる。明るくて思いやりがあって、聡明な彼らは最高のコーチだ。
だからだろうか、集まってくる人たちもとても人が好い。
年齢層も10代から80代まで。私のような中高年も多ければ、老人と呼んでもよい仲間もいて皆とにかく上手い。
ジェンダーだって、国籍だってなかなかの多様性だ。

終わって帰る道すがら誰かがプップッとCar horn (クラクション) を鳴らして、一人二人と走り過ぎていく。「あーハイハイ」と片手をあげて合図を返す‥‥まるで有名人気取きどりな私だ(笑)

このクラブの存在は、自分が何者かわからなくなっていた私を救ってくれたと言っても過言ではないと思う。
私はあの流行り病が始まる前の年、ちょっと心を病んで仕事ができなくなっていた。


卓球を始めて、驚いたことがある。
それは自分の声とリアクションの大きさだ。本当に恥ずかしい話だが、声の大きさはクラブイチかもしれない。
外国人だという自覚もあるからなのか、日常生活でも職場でもあまり大きな声は出してこなかった私だ。

ところが、汗だくで体を動かすなかでの一喜一憂や驚きには声が出てしまうのだ。よく言えば、素直に自分を出せる場なのだと思う。私みたいなスポーツ嫌いでも、体を動かすことから何かを得てきたのだ。

いつだって私の名前は難しいらしくて、英国では初めから覚えようとする人のいない場面もよく経験してきた。
そんなだから、今ではこのクラブの皆が私の名前を呼んでくれるのがなんだか単純に嬉しい。私の楽しさが顔に出ているのだろう、コーチは私をクラブで"一番ハッピーなプレーヤー"と呼ぶ。
今では私が休んだ後に「ミズカがいないとクラブの雰囲気が変わるんだから、お願い、休まないで!」と言われるほどだ。

クラブでは、その日リーグ戦で同等グループ内で一番勝ち数の多かったプレーヤーにチョコレートが贈られる。
大した予算をかけずに皆を笑顔にする、コーチからの粋な計らいだ。
ただ下手っぴいの私のところにそのチョコレートがやってくることはなかったし、これからも絶対にないはずと思っていた。

一度、コーチが「その笑顔に一枚」なんて言って板チョコをくれたことがあったけど‥‥なんか裏口な感じがして大喜びできないでいた。

ところが今日ついにこれが私のもとへ~~ ジャジャーン!

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いや~、これ、めちゃくちゃ嬉しい!
そりゃあ、たまたま初心者の人がグループ内に居たなどの要素があったからであり、私がいきなり上手くなった結果ではない。
わかっていても理屈抜きで嬉しかったのだ。

写真まで撮ってnoteに貼るほどに‥‥


noteで話題にもしてこなかったほどに日常の一部になっていたけれど‥‥

気がついたら、二年半前うな垂れて人に対して予防線を張っていた自分が、卓球クラブで皆の温かさと好意に包まれている‥‥
私は仲間のおかげでゆっくりと確実に癒されていた。

今日受け取ったチョコレートが、『英国生活でもつれた糸ほどけておめでとう』のサティフィケート (賞状) みたいに見えたのだ。

イギリスもう嫌だ、とか人と付き合うの疲れた、と思っていた私は仲間を求めてここに来たわけじゃなかった。

スポーツを通して仲間たちが居てくれることが、なんとなく生活に浸透して、いつの間にか私のなかに空いた穴をじわじわと埋めてもらっていたのかもしれない。

この場所を二年半前までは全然知らなかったのだから、そのまま知らないでいても何ら不思議なことではなかったのだ‥‥
出会えた幸運に感謝したい。

私があんなに足掻いていた時、苦しみを乗り切る力をサッと与えられたり、これこそが天命と思える仕事を与えられることはなかった。

けれど、神様の答えっていうのは、大概こんな感じなのかもしれない‥‥

チョコレートを見つめながらそう思った。



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