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#155 世界でひとつのお気に入りを作る試みは失敗に終わっちゃったけど‥‥


英国の私の地域に、要らなくなって集められた家具を修復したり、元の姿とは別のものに生き返らせて店頭で販売するチャリティーがあります。
2021年の終わりから、ボランティアで参加しています。
そこで私がやってきたことを時々記事にしていますが、それをまとめてマガジンにしています。
よろしければ読んでみてくださいね。


ここのスタッフたち(有給・無給問わず) は本当に知識が豊富です。
私はまだまだ工程ごとに教わりながら「なるほど、なるほど」と働いています。労力は提供しますが、それ以上に多くを学べている自分のほうが得をしていると思っています。


今回は、倉庫から掘り出してきたこの汚い椅子が主人公になります。

ミッドセンチュリーのダイニングチェアー

Mid-Century「ミッドセンチュリー」というのは、20世紀のちょうど中間である1940~1960年代にデザインされた家具やインテリア、建築物のスタイルをさします。

この椅子は、ダイニングテーブルと家族の人数分の椅子がセットになっていたものだと思われます。
それがなぜだかオリジナルの状態で一脚だけ倉庫に残っていました。
そのことをもっと怪しむべきだったのかもしれません‥‥

座ってみる。
背もたれが背中にピッタリと合って、深く座った時に背筋が自然に伸びるのがこの上なくいいではないですか。

その座り心地に「これだ!」と即決。
なぜなら自分が note を書いたりする机で長く座っていられる椅子が欲しかった!そう、今回はこの椅子を思い通りに仕上げて、お店に出す前に自分が買おうと思ったのです。
ちなみに、いくら自分が手掛けたからとはいえ、チャリティーが保有するワークショップのツールを使い、スポンジ等の材料も提供されるのですから、商品になったものを購入するまでは私のものにはなりません。

木の部分は状態が良く、座面と背もたれを張り替えれることがメインの修復となります。

まずはひっくり返して‥‥

固定されていたスクリューを外し、座面に張ってあった素材をすべて剥がすことから始めました。

木工用ホチキスをひとつひとつ引き上げて抜いていく

地味な作業です。手が痛くなります。

何事も下準備には時間がかかるものですよね。
全部抜き終わるのにかなりの時間を要しました。

こんなに出てきた古いホチキス


背もたれの布も剥がします。

隙間に差し込んだドライバーを引き上げていく


ちゃんと写真を残せばよかったと思うのですが‥‥
座面のボードに隠れてみえていない部分にふかふかな foam (スポンジ) と wadding (綿のシート) を被せた上に表面の布地が重なっています。
この時の布の張り具合が、慣れるまで本当に難しく感じました。
張った状態で表面の布をわずかでも『つまめ』るようなら、それは緩すぎ。ピチッと張ろうとして中のスポンジの柔らかさがなくなったら、それは張り過ぎです。
もちろん全方向に引っ張る際に均等でなければ、気づいた時にはプリント柄が歪んでいるのです。

多少多めに布を残しておくと、そぅっと引っ張りやすい

実は何度もやり直した後、ようやく座面が出来上がりました。そして背もたれに取り掛かりました。
本格的な機械がなければオリジナルの再現は難しいので、私たちでもできる方法を工夫し、ようやく方針が決まりました。
背もたれ部もスポンジと綿シートを布で覆い、適度に引っ張りながらホチキスで留めます。そしてそのホチキスで留めまくった部分がきれいに隠れるよう、通常gimpsと呼ばれているテープを同布で作りました。それをファブリック糊で周囲に固定して‥‥
じゃーん、出来ました!

なんとまあサイケデリックな模様!

このプリント地は、かなりミッドセンチュリーな、レトロ柄で、植物のような細胞のような『キモかわ』加減にシビレる私です。
もちろん自前です。なにしろこの椅子は自分のためなのですから‥‥
他所では買えないオリジナルの椅子に全身全霊で仕上げたのです。

ところが、いざ完成して座ってみると、あることに気づいてしまったのです。
それは腰かけて背もたれに寄り掛かった時に「ギィーッ」と鳴る音。

なんでそんなことになったかというと私、最初に椅子が汚らしいと感じてしまって、あまりじっくり座りたくなかったんですね。
本来はいろんな角度で座ってもたれ掛かって、もっと座り心地やその作りに不備がないかしっかり確認しなければならなかったのです。

そんな大切なことを怠りながら、見た目ばかりに焦点を当ててしまった‥‥

この椅子を使うのは夫もいる寝室なのです。彼が眠っている横で椅子に座った時この音がしたら、音に敏感な夫を起こしてしまいそうです。
これはなんとしても、座って静かな椅子に仕上げなければなりません。

さて、おそらく緩んでいるであろう部分をもっとしっかり固定してみます。

ドリルで穴を開ける

開けた穴に、長くて太いスクリューをしっかりと差し込みました。
本来は解体するのでしょうが大ごとですし、うまくいく保証もありません。
なによりも順番が完全に逆だったので今回は仕方ありません。

スクリューをしっかり固定して、装着部分の穴をウッドフィラー (wood filler) で埋め‥‥

職人R氏の確かな手元
フレンチポリッシュで使うピグメント (色の素) を混ぜ合わせて木と同じ色を作り何度も塗っていく


自分一人では絶対にできなかったことをワークショップではプロが教えてくれるのは本当に有難いです。
出来上がりです。

どこを補修したのかわからないくらいの修正ぶり


残念なことに、これだけ手を尽くして手仕上げた椅子でしたが、結局「ギィーッ」という音は消えませんでした。
夫との平和を思うと、この椅子は泣く泣く諦めるしかありません。
椅子は座ってなんぼ‥‥ですもの。
音のなる椅子は、本来付くはずだった値段よりも£20 (3,300円) 引いて売られることになりました。

お店に置かれた椅子


そして「音なんか全然気にしないわ」という方に気に入られ、買われて行きました。

思い入れのあったはずの椅子ですが、『縁がなかった』と分かった時点で気持ちよく手放すこともできました。

日々、勉強ですね。今回もしっかり学びました。

教訓:修復を始める前に、その家具が機能するのか、不備はないのかをしっかりと確かめよう!

結構あたりまえのことなのに、気づけなかったわけですが、今度からは同じ間違いはしないと思います。
今失敗しといてよかったのですよね。

次回は、ガラスのキャビネットの再生のお話になります。



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