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ひと(子ども)はいつから【交渉】できるのかを考える

 4歳ASD児A君の食事支援の場面で、「これを食べたら、デザートね」と要求をしました。【これ】はお母さんが作ってくれたのお弁当に入っていたもの(昨日の晩ごはんでは食べたものとのことでした)、要求した量は小指の先ほどです。それでも、A君は机の下にもぐって拒否していました。最後は、食具を投げたので「おしまいにしよう。ごちそうさまにしよう。」と終えてお母さんのもとに戻りました。お母さんとのやりとりの中で、やはりデザートが食べたいと主張するA君を受け入れ、お母さんはもう1度チャンスをつくり、席について【自分で】ひと口食べ、デザートを食べることができました。
 
 その後のスタッフミーティングの中で「A君は交渉できる段階なのか?」「主張は自我ではないのか?」という議題があがりました。さらに、保育園でも「これを食べたら、これね」という指導がされていることを懸念する声もありました。
 私自身、以前の職場で10年以上、美味しい給食で「これ食べたら、これね」というやり取りをしてきて、その中では結果的に良き方向に向かっていましたので、この要求が疑問視されることに少し違和感を感じたものの、もう一度、発達の観点から振り返ってみたいと思いました。(以下「やわらかい自我のつぼみ●3歳になるまでの発達と一歳半の節」文 白石正久さんを抜粋させていただいています)

1歳前半の発達

 1歳前半の子ども達は、積み木数個と2つの器を用意して「どちらも同じにいれてね」と要求すると、はじめに入れた器に全部入れようとします。そして、もうひとつの器を見つけると、また全部いれます。左右の対の関係を往復しながら、心に刻み込むように…砂場遊びでも移し替え遊びをしています。

1歳半の発達

 1歳半が近づいてくると、最初に入れた器に支配されることなく、「もうひとつの」器に入れようとするような意図的な「入れ分け」をするようになります。

「〇〇ではない□□だ」

 ここには「〇〇ではない□□だ」というような思考の力が働き出しているのです。入れ分けの量的な蓄積が、自分の中に「対」世界を刻み込みます。

2歳の発達

 2歳が近づいてくると、このようなていねいさのある「入れ分け」ではなく、両手でいくつかの積み木をまとめて一方の器に入れ、そして残りを同じようにして他方の器に入れようとするような、二分的な入れ分けが増えてきます。その姿はあたかも「両方に入れればいいんだよね」というように、大人の意図を受け止め、自分の思考と気持ちをくぐらせて、自分の意図で入れ分けているようにみえるのです。

一方向性から可逆性へ

 つまり「自ー他」の関係性においてもこの一方向性が自分ばかりではない他者にも要求があることを知るのです。
 1対1対応の思考や記憶のしたから、「思い込み」ではない思考や調整を自分のものにしていくのです。
 「〇〇ではない□□だ」という1次元可逆操作をもって、他者の意図とも「〇〇ではない□□だ」とたたかいながら、自分自身を自分によって統制していく力が生まれるのです。この力こそが自我であり、この発達段階こそが、自我の芽生えというにふさわしい時なのです。

まとめ

 以上から、A君は1歳半から2歳に向かっている発達段階であると考えます。つまり、量的に物質や思考での「入れ替え」「行ったり来たり」が大切な発達段階。自我とはこの可逆のなかで、育っていくものであり「交渉できる段階かどうか」は【対】の世界に入る1歳半の発達段階からできてくると考えます。
 そして、大切なことは目の前の子どもに畏敬の念をもって関わり合うこと。
 A君にASDという診断がついていることに関しては、視覚的にわかりやすくすることが大切だとは思います。それは、その発達の部分が1歳半の発達段階であるということでもあり、対応としては同じになるのだと考えます。

 「交渉できる段階かどうか」を発達の視点から考えてみました。これをもって、またスタッフ間で議論していきたいと思います!

 そして、いつも思っているのですが、この【可逆操作】「〇〇ではない□□だ」の思考は1歳半からず~っと大人になっても続くんですよね笑♫


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