【#6】霽れを待つ僕／エッセイ

　羨ましいと言われる、みずいろちゃんはいいよなって、恵まれてるって、自由で良い人生だよなって、羨ましい、僕みたいになりたい、ここ二、三年ぐらいだろうか、散々そんなようなことを言われる。僕の中の上ぐらいの容姿？　あるのか無いのかわからないような才能？　正直で真っ直ぐで素直で純粋で総じて度が過ぎて滑稽な性格？　自信が無いから着飾る為に身に付けたセンス？　自由な生活って？　もしかして毎日昼からしか活動出来ない、どれだけ頑張っても一日五時間しか作業出来ない、それも週に数日、週に二日は体調が悪く歯を食いしばりながら寝込んでいるこの生活のことを言ってるの？　療養するべき時間を無理して文章のインプットとアウトプットに当てているこの生活のことか。みんな僕を知らない、知らな過ぎる、一体全体その瞳には僕はどう映っているの？　怖いよ僕は。この二、三年で二十数人から告白された、一ヶ月間アプリをすれば六千のライクが来る、数百のメッセージ、僕に現を抜かした教師達も、一体僕のどこがそんなに良いのだろう。触れたら火傷するってわかってるでしょう？　僕を好いてくれているいきなり電話を掛けても電話に出てくれるような八、九人ぐらいの同性の友達、僕を好いてくれている連絡先を交換している十人ぐらいのフォロワーさん、連絡先を交換していないけれど僕の裏垢を知っている二百三十人のフォロワーさん、同じく連絡先は知らないけれどリアルで僕を慕ってくれている知り合い、何故か僕を誇らしく思ってくれているサマーウォーズ並の親戚、あゝここまで書いたら謙遜自慢みたいになって仕舞った…だけれども、僕は本当にどうしてみんなが僕を好きになるのかわからない、快活でもない、お金も持ってない、隣に置いたって宝石みたいに輝く存在感もない、居ても居なくてもいい人間、それが僕が認識している僕だった筈で。去年の今頃まで好きだった人がいる、三年間があっという間だった。みんなの人気者で、明るくて面白くて優しくて、みんなからよく○○さんは太陽みたいだと言われていた。そんな彼が、僕を特別だと言ってくれて、僕に目に見えて耳に聴こえる愛情を注いでくれた。生まれて初めての経験だった、他人から愛情を貰ったのは。彼が僕をかけがえのない存在のように大切にしてくれたから、僕も自分を大切にしようと思えた。今となれば、どうして太陽みたいな人が僕に特別優しくしてくれたのかわからない。こんな話をすると決まって羨ましいと、恵まれてると、運が良いよね、と言われる。運。運が良かったら世界で一番僕を愛してくれていて、僕のかけがえのない唯一の味方だった父親が僕が二十一歳のときに六十歳で死ぬ筈がない、唯一の家族を失って僕は天涯孤独になった、生きる意味が無くなったのだ。これは今まで誰にも言っていない、夢を叶えて自慢の娘になりたいとか、楽させてあげたいとか、結婚式に呼びたいとか、孫の顔を見せてあげたいとか、全部吹っ飛んだ。もう僕はそういうのはどうでもいい、早く僕はあの世で輪廻転生せずに僕を待っていてくれるだろう、もしかしたら成仏せずに現世で僕を見守ってくれているかもしれない父親に会いたい。八月に自殺未遂をしたときに、最後に連絡したいと思ったのは父親だった、ラインに既読にならないメッセージを送った。早く現世の業を終えて父親に会いたい、あの時言えなかった言葉が今なら言える気がするから。後悔しているから。……それでも僕の業は深くて、どうやら僕は周囲に人が集まる運命らしい、孤独を感じても孤独になりたくてもきっと本当の意味で孤独にはして貰えない、僕が死ねばきっとある人の人生には一生消えない傷を付けてしまうだろうし、ある人の人生には罪を背負わせてしまうだろうし、きっと思っていたより多くの人が悲しむ。こんな僕を好いてくれている人が僕のことで悲しむのが、僕は耐えられない。そうやって死なせて貰えない、生きる意味も死ぬ意味も無いけれど、無情に死なない理由や生きる理由が増えていく。それが死にたい理由より重くて、重過ぎて僕は生きるしかないと諦める。何の取り柄も無く、ありきたりで、人より劣っているのに何故か羨ましがられる意味不明な僕の人生。きっとこれから先もそうなのだろう、僕の苦痛なんて、つらさなんて露知らず、何をしてもどうなっても良いなあ良いなあと羨望され嫉妬されながら誰にも理解されず、赤の他人と比べられて運の良い人生を生きていくんだろう。ただ一瞬の霽れを待つ僕。僕と君以外の時間が止まって仕舞えばいい、明日世界が終わればいい、そしたらこんなに重たい荷物は何もかも捨てて仕舞えるのに。君の腕の中で眠りたい。一晩だけでいい。それができるなら死んでもかまわない。心からそう思った。——僕はずっとそんな霽れを待ってる。

霽れを待つ　歌詞

また緩い風
ただ一瞬の
霽れを待つ君
指先離れ合う度
見つけた自分は弱いのに
飽きもせず
期待した明日の
それは幽かに
心悲（うらがな）しそうに笑ったり
忘れてしまえと願ったり

眠れない魔法
辛い過去
キリはないから
朝焼け歌を歌ったり
忘れてしまえば終わるのに
譲れないものただ一つ
理由は知らぬまま
生きて行く今も

守りたい夢もないから
答えのない日々 でもそれは
優しさではないんだろう？ なぁ
何も痛くなんてないから
大丈夫だよ まだ っていつか
君がいなくなったら あぁ
私だけ生きて行くの？

眠れない魔法
辛い過去
キリはないから
朝焼け歌を歌ったり
忘れてしまえば終わるのに
譲れないものただ一つ
理由は知らぬまま
生きて行く今も

くだらない夢もないまま
君を待つ日々
でもそれは優しさなんて言わぬだろう？ なぁ
何も痛くなんてないから
大丈夫だよ まだ
っていつか君がいなくなったら あぁ

守りたい夢もないから
答えのない日々
でもそれは優しさではないんだろう？ なぁ
何も痛くなんてないから
大丈夫だよ まだ
っていつか君がいなくなったら あぁ
私だけ生きて行くの？