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シンウルトラマン感想 ー 孤独な戦士を見上げる私たち

「シン・ウルトラマン」見てきました。
これまで映画の感想を文章にするときは、結構鑑賞直後の熱量のまま書き殴っていたことが多いんですが、今回は試しにちょっと日を置いて、繰り返し咀嚼して、人の感想とかも聞いた上で書いてみます。


観る前の状態

まず私は、ウルトラマンのテレビ番組っていうともう親世代のやつだな…くらいの感覚です。リアルタイムでやってたシリーズもあるはずだけど。
ウルトラマンはM78星雲ってとこから地球に来ている宇宙人で、3分で変身が終わっちゃうタイマーがあって、スペシウム光線ってのを放って、デァッ!!って叫ぶ、っていう基本情報だけ知ってて、作品を見たことはない。
ただ周りに若干特撮オタクがいるので、ウルトラマンって結構重い、暗いエピソードがあるんだよ、みたいなのだけ聞いてたかも。

普通に「シンゴジラ」が良すぎて初代ゴジラを見たりした経験があったので、シンウルトラマンどうなのかな〜と気にはなってて、公開直後に見に行った人たちが「思ったより微妙だった」つってるのを聞いて「ええ!?」ってなってた。

まぁウルトラマンよく知らんしな…と思ってたところでたまたま読んだのが、主題歌を担当した米津玄師さんのインタビューでした。

内容全体かなり面白かったんだけど、後半に最新曲「M七八」の話をしていて、
「痛みを知る ただ1人であれ」という歌詞が、え、そんな歌詞あるの!?!??ってめっちゃビックリして、
ほぼこの衝撃だけで見に行った。正直。

「痛みって、ものすごく個人的な感覚じゃないですか。ある人にとってはたいしたことのない出来事でも、別の人にとってはシリアスな問題になりうる。そういうものを相対化しようとするな、と。他人と比較して、自分の絶対的な感覚を無駄にしてはならない。痛みを人に明け渡してはいけない。ウルトラマンのように強く、優しく生きていくためには、非常に重要なことなんじゃないかなと思います」

https://news.yahoo.co.jp/articles/cb9ffff1016c5ecb95c881ed085f5d99a2b163f9

こんなん俺がいっちゃん好きなやつじゃん…

あと、twitterでフォローしているにゃるらさんの文章も興味を惹かれたきっかけになりました。

成田亨氏については米津玄師さんも言及しているけど、
「芸術性と大衆性の間で苦しんだ作家」、俺の好きなやつすぎる…

言ってしまえばこういう、結構メタ的というか、制作者側への興味がメインで見に行った感じです。
元々庵野秀明さんがどういう人なのかもずっと気になってるし。
(庵野さんへの興味のきっかけも、エヴァ見たことすらないのに「風立ちぬ」の声優演技がすごくよかったから、とかいうかなりキモい切り口っていう…)




ーーーーー(以下、ネタバレクソデカ感情、始まります)ーーーーー



ただ、美しかった

見た直後に思ったことは、とにかく、「美しかったな…」っていうのだけ。
それ以外ほぼなんもわからんかった。マジで放心した。

地球側、外星人側からいろんなことが言われていたけど、実際何が正しいかなんてもうわかんないじゃないですか。
より高次元な生命体からしたら人間が愚かなのなんて圧倒的事実だろうし、同じようなことを人類も下等(と評価している)生物に対してやっているのでは?とか、優先すべきは銀河の調和なのか?地球の平和なのか?ウルトラマン(リピア)の選択は果たして”正しい”のか?なんもわからんよ。

ただ、自分が守ると決めたものを、自分1人で守ろうと、どんなに絶望的な戦いにも1人で向かう姿が美しいってのだけは、それはもう本当にそう。
初めてウルトラマンを見た浅見が「綺麗…」と呟くあのシーンが、もうほぼ全てだよ。
それが人類(地球人)だけが持つ意志だとも思わないし、この選択はたまたま神永という地球人の心に触れたリピアがとった選択だと解釈しているから、
だから私はこの作品を人類讃歌だともあんまり思わない。
ただ自分の全く知らない価値観に触れて、それに心を動かされて、それのために動こうとする機能は、知的生物なら誰しもあるかもしれないもので、
地球という小さい惑星でたまたま見られたその姿が、ウルトラマンであったと。

あくまで私は人類なので、人類の範囲で考えるけど、
例えば身の回り、たまたま知り合って友人になった人が、そういった気持ちで、自己犠牲も顧みずに過酷な状況に立ち向かおうとしたとき、
自分には何ができるのだろう、と思うんですよね。

そう考えると浅見はすげぇよ。
あれだけの力とそれ以上の覚悟を持った存在が、ここ最近知り合って「バディ」を組んだ彼が、自分だけでなくもっともっと大きなものを守るために戦うと言って、まっすぐ自分の目を見てきたときに、
それをまっすぐ見つめ返して「行ってらっしゃい!」って言える、この、こう、すげぇよ……

田村班長も、滝君も、船縁ちゃんも、「人類の発展」の範囲で協力できることはあれど、ウルトラマンがこれから向かう戦いにおいてほぼ無力に近いんすよ。
「シンゴジラ」だったら自衛隊のファンファーレが高らかに鳴ってそうな「人類の叡智の結晶!」みたいな場面も、この映画では無音。

ただ1人で赴いて、自分達を守るために戦って、到底想像もつかない亜空間の果てに飛ばされていく彼を、ただ見上げて、
「ありがとう、ウルトラマン」と言うしかないんすよ。

そしてその覚悟は、人類だけでなく、同郷であるゾフィーの心も動かし、
「人類のことをもっと知りたい」というリピアの気持ちに応える、
というのも、なんともこう、すごかったな…


重なる「見上げる」姿勢

庵野さんがハチャメチャに特撮好きなのは「シンゴジラ」で一応知ってたけど、こんなん一切知らんでもわかるよ。
開始0秒から特撮愛に溢れすぎてて、自分自身は特撮ミリも知らないのに冒頭5分くらいで泣きそうになっちゃった。

冒頭から怒涛の「怪獣最高!!!」が始まり、中盤のザラブ・メフィラスの「外星人ヤバすぎワロタ」のくだり、そして終盤のゼーットン…ポポポポポ↑
怪獣の尻尾を掴んで振り回すウルトラマン、人型外星人と対面でファイトするウルトラマン、宇宙空間でゼットンに向かっていくウルトラマン、
もう「特撮のカッコいいやつ」全部やるじゃん…
いや自分はほんとに特撮ミリも知らないんだけども、画面の要素全てから「これがマジでカッコいいんだよォォォォァァァ!!!!!!!」
という叫びが聞こえてきて、なんかもう、全部わかった。

個人的に一番好きなのはジャンプの姿勢からの回転キックなんですけど、
なんかこう、特撮ってやっぱり、今みたいなCGの技術がなかった頃の技術であって、「今の感覚で見るとちょっとショボいな」みたいなのがよく言われる意見としてあるわけじゃないですか。
ハリボテ感というか、大の大人が作り物の中でマジになっちゃってて、ちょっと滑稽だな、みたいな。
実際「シンウルトラマン」は全編特撮なわけではないし、
だから「空想特撮映画」なんだと思うんですけど。

本編で、滝君がVRゴーグルを被って世界中の科学者達と議論してるシーンがあるじゃないですか。
それを横で見ながら「何かが進歩する姿ってのは存外滑稽に見えるのかもしれないな」みたいなことを田村班長が言うシーン。
あれがちょっと、ウルトラマンの戦闘方法が人間の感覚からしたらちょっと異様に見えること、さらには特撮という技法を愛する人達がちょっと変わってるよね、みたいなところとリンクする場面なのかな、と思った。

あともう一つ、これは私が成田亨さんについて事前情報を得ていたから思うことなんですが、
「シンウルトラマン」は成田さんがデザイン・構想していた最初期の「ウルトラマン」への特大リスペクトで成り立っている作品で、
内容としてもほぼオマージュなわけですよね。

もしかしたらなんだけど、浅見達、ひいては私達人類がウルトラマンを見上げて「ありがとう」と言う姿勢と、
庵野さん(を含めた特撮を愛する人達)が、成田さん(あるいはかつての特撮作品を撮ってきた人達)の作り上げた、
ウルトラマンという作品を「見上げる気持ち」みたいなものが、もしかすると重なるところがあるのかもしれないなぁ、とも思った。


痛みを知る、ただ1人であれ

「痛みとは主観的なもの、つまり自分にとっては絶対的なもので、他人と比べて相対化してはいけないよ」
これは私達が普通に生活する上でも重要なことで、あの人より自分はつらいのにどうしてとか、あの人と比べたら自分のつらさなんてとか、言ってはいけない、思ってはいけない。自分にも他人にも優しくあるためには。

神永と融合する前のリピアに痛みの感覚があったかどうかはわからないけど、少なくとも人間と融合したことで能力に限界が生じて、彼は地球人の痛みを知ることになった。

ザラブやメフィラスやゾフィーが人類に対して無慈悲なのは、痛みを知らないからなのかもしれない。
そしてリピアは「人間のことを、もっと知りたい」と言った。

「痛み」は「経験」の一種で、経験からは「学び」が得られると思う。
誰かが何かを「知りたい」と思って、そのために身を粉にする姿は、美しいし、とても優しい。
私にとっての「シンウルトラマン」はそういった気持ちを得られる映画でした。


以下、雑感

文章に組み込めなかったここすきポイントなど箇条書き。

・冒頭の電気を食う怪獣が透明になった時、目だけ見えるのかわいすぎる
・ザラブのあの着ぐるみ感みたいなのが急にニチアサ子供向け特撮のやつだ!!っていう質感で超好き
・メフィラスの魅力は「言ってることが常に一貫してること」だよね…
 「初志貫徹」、私の好きな言葉です。
・人間の政治家諸々がしょっちゅう口にする「厄介」というワードをメフィラスも使ってたのは、それだけ人類の心理に理解があるから倣ったってことなのか、それとも「自分都合で動きたがるやつは人間でも外星人も一緒だね」ってことなのか…
・「ようは1ミリ秒で殴ればいいんだな」のセリフ一番好き、高次元の存在とはいえ基本は武闘派やね…て感じ
・まじでゼットンよすぎ
・まじであの、ゼットン倒して亜空間?何?なんかクソヤバ並行世界みたいなのに吸い込まれそうになって限界まで抗うシーン、ほんとにすごかった…あの数秒ってウルトラマンの体感としては何万年とかだったりするんじゃないの…?究極の孤独だ…
・「シンゴジラ」は「団結して大きなものに立ち向かう」のがテーマだったとしたら、「シンウルトラマン」はひたすら「孤独」が大きなテーマだったように思うので、そりゃシンゴジ好きだった人の一定数には刺さらんよな…と納得
・てかウルトラマン(リピア)と神永君、序盤で入れ替わってるはずだけど、それ以前とそれ以後の言動に周りは違和感なかったんだろうか…単独行動多いみたいなこと言ってたし、元からちょっと浮いてたのかもしれん。他メンバーも含め田村班長が変わり者に相当寛容な感じあったよね
・斎藤工さんがインタビューで「作品に肉体を捧げる気持ちで挑んだ」みたいなことを言っていたんだけど、これもまんまウルトラマンの心情とリンクしているな…
・赤坂さんズルすぎ!!!!!!!!!!!!!!


さらに余談

最近毎日配信を見ている、にじさんじの加賀美ハヤト社長が、
私とは全然違うというかほぼ逆の立場で言っていた感想がかなり良かったので、ぜひ聴いて…ください…(アーカイブのちょうど1時間すぎたあたりからです)


「シン・仮面ライダー」も楽しみですね!!!おしま〜い

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